海外競馬情報 2020年11月20日 - No.11 - 1
バーチャルレースの人気は競馬にファンを引き付けるか?(イギリス)【開催・運営】

 スポーツで何が最高かと言うと、どんな時でもどんなスポーツでも豪州を負かすことだ。

 豪州人を打ちのめすのがそれほどまでに大きな殊勲であることには、2つの理由がある。第一に、豪州人がほとんどのスポーツで極めて優秀で、信じられないほど屈強かつ競争力が強いこと。第二に、彼らが負けず嫌いで敗北をやすやすと受け入れようとしないこと。

 誇張しているとお考えなら、10月23日の「グレーテストエバー・コックスプレート」で豪州の偉大な牝馬ウィンクスを破ってフランケルが"優勝"したときの反応を見るだけで十分である。

 そのレースを見逃した、もしくはフランケルが12歳で現役復帰したことにたじろいでいる方々のために言っておくと、問題となっているレースはバーチャルレースに過ぎない。このバーチャルレースにはファーラップ、サンライン、ウィンクスのような豪州で活躍した歴史的名馬と、国際的な特別出走枠から1973年米国三冠馬セクレタリアト、センセーショナルな日本馬ディープインパクト、そしてフランケルの3頭が参戦していた。コンピュータは、もしこれらの馬が集結して競い合ったとすれば、フランケルが勝っていただろうという結果をはじき出した。それはまったく素晴らしいことだが、最終的には地球の軸を変えることになると思いませんか?(訳注:この14頭立てのバーチャルレースの1着はフランケル、2着はセクレタリアト、3着はウィンクス。ディープインパクトは12着だった)。

 ところで、陰謀説を囁き始め、"ウィンクスが英国馬に負かされた"と憤慨している豪州の競馬ファンに、そのことを伝えてみてください。きっと、"英国以外で出走しなかったフランケルがどうして勝つことができるのだろうか?"と嘆くでしょう。もちろんフランケルは優勝したが、「グレーテストエバー・コックスプレート」は、英国のブックメーカーが後援し、英国のテクノロジー企業インスパイアードゲーミング(Inspired Gaming)が製作したレースである。そのため彼らは"八百長にちがいない"との結論を下すだろう。

 とりわけ豪州でその傾向が強いが、競馬ファンが自国の馬に抱く情熱は当然誇るべきものである。人々が競馬、その参加者や活動について関心をもつことを私たちは望んでいる。なぜなら、それが最終的に関係者全員により良い未来をもたらすからである。しかし、そのように強い情熱が目新しいコンピュータゲームによって呼び起こされるのであれば、それは異常なことではなかろうか?

 さらに、2020年は異常な年である。バーチャルスポーツとそれを対象にした賭けは、世界中の人々の意識にいっそう忍び込んでおり、競馬も他のスポーツと同様にすっかりその一部となっている。

 それは英国において、4月に行われた「バーチャルグランドナショナル」によって最も顕著に脚光を浴びた。ITVで放映された「バーチャルグランドナショナル」を480万人が視聴し、ブックメーカーはその賭事により得られた利益から260万ポンド(約3億6,400万円)を国民保健サービス(NHS)に寄付した。

 賭事委員会(Gambling Commission)のメンバーによれば、ブックメーカーのバーチャルスポーツによる売得金(Gross Gambling Yield:GGY)は2019年3月から2020年6月にかけて44%増加した。一方、ゲームプレーヤーをもう1人のゲームプレーヤーと対抗させるEスポーツトーナメントによる売得金は、同じ期間において5万223ポンド(約703万円)から347万2,951ポンド(約4億8,621万円)に急増した。

 つまり、バーチャルスポーツ賭事はライブスポーツ賭事に対して後れを取っているものの、合法賭事としてより広く受け入れられるようになる動きがある。技術が向上し、露出度が上がっており、人々は相変わらず在宅勤務しており、ファンはスポーツ観戦から締め出されているので、この分野は成長する可能性しかない。

 インターネット賭事の開拓者であるヴィンセント・コールドウェル(Vincent Caldwell)氏はこの未来のために、4年半を費やして計画を立ててきた。同氏が開発した賭事商品バーチャルライブレーシング(Virtual Live Racing)は、仮想競馬場のポートマンパークやスプリントバレーではなく、現実の競馬場でのバーチャルレースを対象にしたプール賭事を提供するために、米国のタンパベイダウンズやホーソーンパークのような競馬場と提携している。

 コールドウェル氏はこう語った。「人々は20年前、これを決して主流とはなりえないアニメの競馬としか見なしていませんでした。しかし、人々の態度は今では変わりました」。

 「賭事客はテクノロジーを信頼しており、コンピュータゲームにより、テクノロジーを使うことにいっそう慣れています。それに、レースでの戦略や走行妨害などが賭けに影響を与えないことを知っています。それらが起こるのは歴史的なレースの再現ではなく、現実のライブのレースにおいてです」。

 賭事目的のバーチャルスポーツの重要性の高まりは、賭事産業にとって興味深く、潜在的に利益をもたらす分野である。それゆえ賭事産業は結果的に、堅固で注意の行き届いた保護措置を確実にするために熱心に取り組むにちがいない。

 しかしそれは競馬界に対しても、バーチャルレースのフォロワーを引き付け、グランドナショナルのようなビッグレースへの期待感を盛り上げるチャンスももたらすかもしれない。そもそも「バーチャルグランドナショナル」の構想は、グランドナショナルを盛り上げるために生まれたのだから。

 チェルトナムゴールドカップのバーチャルレースで、アークルとコートスターのどちらが偉大かを最終的に突き止めることはできるだろうか?来年の英ダービーの事前PRの一環として、ニジンスキー、ダンシングブレーヴ、ガリレオ、シーザスターズがバーチャルレースに出走したならどうだろう?

 私たちは「バーチャルグランドナショナル」がまさに行っているように、実際のレースで走った馬の優劣も分析できるだろう。そして、今年の英ダービー優勝馬サーペンタインが出走馬の中で最強であることをコンピュータが予測したのかを知ることができるだろう。

 競馬ファンの平均年齢が45歳であるのに対し、Eスポーツのフォロワーの平均年齢は26歳である。おそらく、若い観客にとって競馬がどのような魅力をもつかを見せることのできる新たな手段である。試してみることに害はない。

By Peter Scargill

(1ポンド=約140円)

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[Racing Post 2020年10月27日「It's always good to get one over the Aussies - even if it is only virtual」]