海外競馬ニュース 2022年11月10日 - No.42 - 1
フライトライン、BCクラシックで圧倒的な勝利を挙げ無敗を守る(アメリカ)[その他]

 単なる勝利ではない。あるいはただの力わざでもない。王者にふさわしい戴冠式だった。

 総賞金600万ドル(約8億7,000円)のBCクラシック(G1)の最後の直線で、ゴールに向けて壮大に疾走する中で、フライトラインの偉大さに関するあらゆる推測が現実のものになったのだ。

 無敵を誇ってきたフライトライン(牡4歳 父タピット)は1¼マイル(約2000m)のBCクラシックで、力強いストライドごとに世界一流のダート馬たちをぐんぐん引き離していった。そして余裕をもってゴールを駆け抜けたとき、どの現役馬も到達したことのない高みに舞い登ったのだ。

 キーンランド競馬場で4万5,973人の観客の声援が鳴り響く中、フライトラインは伝説の中の伝説となった。11月5日のBCクラシックで1.4倍の1番人気に推され、2着のオリンピアードに空前の8¼馬身もの差をつける勝利を挙げ、無敗記録を守ったのだ。

 ジョン・サドラー調教師は、2015年BCクラシック(キーンランド)での三冠馬アメリカンファラオが達成した勝利に匹敵するフライトラインのパフォーマンスについてこう語った。「異彩を放っているのが普通の状態なのです。決して期待を裏切りません。そんなことは一度もなかったですね。驚くべき、まったく驚くべき馬ですよ。故バド・デルプ調教師の言葉を借りれば、頭絡をつけた中で最高の馬の1頭です。彼はそれほどすごいのです。私の調教生活の集大成です。ほとんどの調教師はこんな馬を手に入れることはできません。すごく恵まれていると感じています」。

 関係者はフライトラインの今後について明言しなかったが、このレースがラストランだったと思われる。レーンズエンドで供用されるという契約はすでに結ばれており、今回の勝利はフライトライン(母G3勝馬フェザード 母父インディアンチャーリー)の価値を最高の水準に高めた。彼を所有するのは、フロニスレーシング、生産者のサマーウィンドエクワイン、ウエストポイント・サラブレッズ、ウッドフォードレーシング、シエナファームからなる馬主グループである。

 フライトラインの価値はBCクラシックの前にはおそらく5,000万~6,000万ドル(約72.5億~87億円)だった。その後6,000万~8,000万ドル(約87億~116億円)、あるいはそれ以上に跳ね上がっている可能性がある。この牡馬の所有権の2.5%が11月7日のキーンランドのセリに上場されることになる。レースで証明すべきことが何も残されていない馬がふたたび出走することはほとんどない。フライトラインにとって残されたことは、時によるその真価の評価だ。6戦6勝で合計着差71馬身という成績は競馬史にどう刻まれるのだろうか。

 感動のあまり声が枯れて目に涙を浮かべたサドラー調教師は、最も熱烈な言葉で意見を述べた。

 「どのように"偉大さ"を表現すればいいのでしょうか?20~30年に一度現れるか現れないかの稀有な馬です。長年見てきた中で最高の米国競走馬の1頭ですよ。セクレタリアトやシアトルスルーまで遡っての話です。リストに目を通してみるといいでしょう。彼にとって良い世話役であろうと、また偏見をもたないように心がけてきました。馬に対して公平であれば、彼らも言うことをきいてくれるのです」。サドラー調教師がBCクラシック優勝を果たすのは、2018年のアクセラレイトに続き2度目だった。

 フロニスレーシングのコスタ・フロニス氏は、BCクラシックよりもぶっちぎりで年度代表馬のタイトルを勝ち取るだろうこの馬を極限なく称賛した。

 「世界を舞台にフライトラインがこのようなことをやるのは重要なことだったと思います。まだ疑っている人がいたので、刻印する必要があったのです。しかし、もはや彼はヒーローであり、チャンピオンです。無敵なのです。今日、BCダートマイル、BCクラシック、BCスプリント、BCターフに出走していたとしても1番人気になっていたでしょう。米国が誇る馬なのです。できることは全部やりとげました。あらゆる挑戦に立ち向かってきました」。

 ウエストポイント・サラブレッズのテリー・フィンリー社長は、とても華やかな祝福を受ける中、ウィナーズサークルの真ん中に立ちフライトラインにある約束をしたと語った。

 「フライトラインが私たちにくれたもの、もたらしてくれたものに対して、お返しすることはできないでしょう。しかし、彼がこのようなポジティブな影響を与えてくれた競馬産業を支援する努力はやめないと、約束したのです」。

 トラヴァーズS(G1)優勝馬エピセンターが右前肢に外側顆骨折を発症したことで、このレースは重苦しい空気にも包まれた。命に別状はないと考えられているが、11月6日(日)に近くのルード&リドル馬診療所で手術を受ける予定である。

 フライトラインの勝ち時計2分00秒05は典型的なスピード対決により作られた。それは、ブリーダーズカップ史上最高の発売金1億8,900万ドル(約274億円)を記録したこの日の勝利にさらなる輝きを添えた。

 駿足のG1・4勝馬ライフイズグッドはイラッド・オルティスJr.騎手を背に8頭立てのこのレースで先頭に駆け上がっていき、フライトラインが猛追していた。22秒55、45秒47という火花が散るようなフラクションタイムを刻み、ライフイズグッドはフライトラインに2馬身差をつけて向こう正面に入り、後続をその11馬身ほど後ろに引き離していた。

 フライトラインとフラヴィアン・プラ騎手は6ハロン(約1200m)を1分9秒62で通過しライフイズグッドに次第に追いついていった。このタイムはBCスプリント(G1)で一流スプリンターが要したタイム(1分9秒11)よりもわずかに遅い。

 そしてマイル(約1600m)を1分34秒58で通過した。このタイムはBCダートマイル(G1)の走破タイム(1分35秒33)を凌いでいた。

 残り2ハロン(約400m)までにフライトラインは頭差で先頭を奪った。そこからドラマは薄れ、壮大な光景が展開された。残り1ハロン(約200m)でフライトラインは5½馬身の差をつけて先頭に立ち、ゴールまでにさらに大差をつけたのだ。

 レーンズエンドのオーナーであるウィル・ファリッシュ氏は、「素晴らしい気分ですね。信じられないような馬です。何にでも対応できるんです」と述べた。

 ファリッシュ氏の息子ビル氏もこのパフォーマンスに大きな喜びを感じていた。彼はベン・ハギン氏とともにレーンズエンドの競走部門であるウッドフォードレーシングを運営している。

 「ずっと作り上げてきたものが、最終的にこのすごく大きな舞台で発揮されたのです。このレースを勝つなんて本当に信じられません。驚くべきことです」。

 フラクションタイムは付け入る望みをライバルに与えるものだったが、最後の直線でそれは消え去った。

 テイバ(ボブ・バファート厩舎)は7番手から上位にあがってきたもののフライトラインに8¾馬身差の3着に敗れた。鞍上を務めたマイク・スミス騎手はこう語った。「2頭は自殺行為ともいえるハイペースで走っていたので、自分にもチャンスは来ると思っていました。テイバ(父ガンランナー)はあらんかぎり力を振りしぼって最高の走りをしましたが、フライトラインは信じられないほどすごかったのです。セクレタリアトのようなものですよ。これまで見た中で最強です」。

 オリンピアード(牡4歳 父スペイツタウン)は残り1ハロン(約200m)の地点で4番手から追い込みテイバに½馬身差をつけて2着に入り、その奮闘ぶりは馬主の1人、グランドビューエクワインのロバート・クレイ氏を喜ばせた。

 クレイ氏は「ドキドキしました。すごく嬉しいです。彼は一生懸命走りました。フライトラインは特別な馬です。あのような馬はあまり見かけません。私たちの馬を誇りに思っています」と述べた。ただオリンピアードがゲインズウェイ牧場で種牡馬になる前にふたたび出走するかどうかは分からないという。

 BCクラシックは、ウィンスターファームで種牡馬入りするライフイズグッド(父イントゥミスチーフ)の引退レースだった。ライフイズグッドは昨年のBCダートマイルを制しており、獲得賞金は450万ドル(約6億5,250万円)にのぼる。最初の1マイルでは確実にフライトラインを走らせていたが、そのスピードを約2000mでずっと維持することはできず、ケンタッキーダービー(G1)優勝馬リッチストライクの1¼馬身うしろの5着に終わった。

 ウィンスターファームの社長・CEO・レーシングマネージャーを務めるエリオット・ウォルデン氏は12戦9勝のライフイズグッドについてこう語った。「フライトラインに勝ちを急がせる作戦でした。2頭とも素晴らしい馬ですが、フラクションタイムが彼に犠牲を払わせました。しかし負けて何かを失ったとは思っていません。彼は神からの恵みのような馬です。なんの後悔もしていません。1¼マイル(約2000m)に挑戦して、精いっぱい戦いました。そのためにここへ来たのです」。

 フライトラインはフェザードが送り出した6頭の仔のうちの第2仔であり、唯一のステークス勝馬である。最近では、1歳のカーリン牡駒であるイーグルスフライトと当歳のイントゥミスチーフ牝駒を出している。

 最後にこの日のスター、フライトラインを取り巻く賞賛の声に対して、フロニス氏はサドラー調教師とそのチームに信頼を表明し、彼らもまた立派な働きでスターになったと述べた。彼らは三冠に挑戦するにはスタートが遅すぎたキャリアをうまく組み立てた。それは1年半ほどのあいだに6戦しかしないという長い間隔を挟んだものとなった。

 フロニス氏はこう語った。「フライトラインはジョン・サドラーとそのチームに管理されるという幸運に恵まれました。なぜならジョンは忍耐力を持って彼に接し、いろいろと教えてくれたからです。いつも速く走る馬で、常にパワー全開で疾走したがっていましたからね。ジョンと攻馬手のフアン・レイヴァ氏をはじめとするチーム。彼らがフライトラインを競走馬に仕上げました。今日のように彼がチャンピオンとなったのは、ジョンのおかげです」。

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By Bob Ehalt

(1ドル=約145円)

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[bloodhorse.com 2022年11月5日「Flightline Delivers Dominant BC Classic Performance」]