海外競馬ニュース 2021年07月29日 - No.28 - 2
元障害競走馬グレンフライ、東京五輪に出場(イギリス・ブラジル)[その他]

 ここで一風変わった質問をする。馬主のトレヴァー・ヘミングス氏、障害競走の伝説的名手リチャード・ジョンソン氏、そして東京五輪の間にはどのような関係があるのだろうか?

 答えは16歳のグレンフライという馬である。馬主も騎手もこのせん馬(父プレゼンティング)のことをほとんど覚えていないはずである。グレンフライが彼らの競馬人生のハイライトを飾ることはなかったからだ。

 グレンフライは障害競走で9戦し、そのうち2戦でジョンソン騎手が騎乗したが、成績は振るわなかった。その後同馬は、馬術界に転向して目覚ましい活躍を見せるようになり、ブラジルの総合馬術チームの一員として日本に向かうことになった。

 実際、グレンフライは珍しい2度の五輪出場を達成した馬とそう変わりはない。2015年のリオ五輪のテストイベントでコンビを組むマルセロ・トジ選手の導きにより3位入賞を果たしていたものの、本番に挑戦するには少し経験不足だと判断されていたのだ。

 ほかにも世界各地のいくつかの主要大会で活躍してきたグレンフライは、この挑戦に向けて準備万端である。馬術のために特別に生産されたライバルに対して、サラブレッドおよび元競走馬としての旗を掲げて戦うことになる。

 トジ選手はこう語った。「彼はすごく優秀です。2015年のリオ五輪のテストイベントで入賞し、2016年~2018年の3年とも総合馬術のブラジル選手権で優勝しました。2018年にはブラジルチームの一員としてノースカロライナで開催された世界馬術選手権(World Equestrian Games)に出場しました。またケンタッキーにも行き、そこでもいい成績を残しました」。

 「オリンピックが2020年に開催予定だったので、英国に遠征させてバーリーやポーの大会に出場させました。そのため昨年はただ地元でトレーニングしていました」。

 グレンフライは、優秀な障害競走馬フォックスチャペルキング(Foxchapel King)の母の半妹ドランズグレン(Dorans Glen)を母とする。ハイフライヤーブラッドストック社がタタソールズ・アイルランドのセールで1歳のグレンフライを4万4,000ユーロ(約572万円)で落札したので、安値で買われたわけではなかった。

 最初に馬主のヘミングス氏とフィリップ・ホッブス氏のもとで競走生活を送り、その後ふたたびセリに上場され、2012年にはクリス・ケレット氏のもとで3戦したが、最後に出走したトウスター競馬場のハンディキャップチェイスで失速し競走中止となった。

 トジ選手はある知人から連絡を受けてこの馬を知り、実際目にしてすぐに気に入った。

 「以前からずっとサラブレッドが好きでした。とても美しいと思います」。

 「馬主はグレンフライを競走から引退させていたと思います。とても格好のいい馬で、私の目を引きました。馬主に電話して調教場に行き、彼に触ってみて、とても気に入りました。バランスもいいし、目を見てみるといい表情をしていると思ったので、購買することにしました」。

 驚くべきことに、グレンフライは数ヵ月間のうちに、馬場馬術・クロスカントリー・障害馬術の各種目についての知識を十分に吸収してそれを実践することができた。

 トジ選手はこう振り返る。「2012年6月、ロンドン五輪のちょうど1ヵ月前に彼を手に入れました。そしてその年に彼は総合馬術を始め、小規模なBE90(入門レベル)の大会に3~4回出場したと思います」。

 「もともと障害競走馬だったので、クロスカントリーで飛越することに問題はありませんでした。ただ、狭い障害・水濠・ステップアップ・ステップダウンを飛越しなければならないことを理解する必要がありました」。

 「彼にとってはちょっと違う体験でしたが、障害を目にするとひたすら飛越を続けていました。元競走馬はレースで培った優れた頭脳を持っていて、とにかく突き進みたがるのです。平地、馬場馬術、障害馬術をうまく調整することに、もっと多くの調教を重ねました」。

 51歳のトジ選手は豊富な経験の持ち主だ。すでに五輪で競技したこともコーチを務めたこともあり、地元ブラジルの伝説的な障害飛越競技の選手、ネルソン・ペソア氏のもとで働いたこともある。

 英国びいきのトジ選手は、夏の数ヵ月間は主要な大会のために英国に滞在している。また、家族が経営する動物用飼料会社アグロミックス(Agromix 本社:ブラジル・ジャボティカバル)の経営にも携わっている。

 世界ランキングを見て、トジ選手が「勇敢で正直な馬」と評するグレンフライに、ドイツ・ニュージーランド・イギリスなどの強豪と対戦してメダルを獲得するチャンスがあると考えるのは飛躍しすぎだろう。しかしブラジルは、トップ10前後だった前回のチームの成績を上回りたいと考えている。

 トジ選手は、「私たちはワクワクしています。ブラジルチームが世界最強ではないことはわかっていますが、今ではいっそう多くの経験を積んでいます。ただそこに行ってキャンターで走りまわるのではなく、できるかぎりベストを尽くし結果を出すために東京へ向かいます」と語った。

By Tom Peacock

(1ユーロ=約130円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2016年No.33「リオ五輪に出場する元競走馬(ブラジル)

[Racing Post 2021年7 月24日「From Towcester to Tokyo: ex-chaser Glenfly ready for world stage」]