海外競馬ニュース 2021年06月17日 - No.22 - 2
メディーナスピリットの尿検査を求めて調教師と馬主が提訴(アメリカ)[開催・運営]

 ボブ・バファート調教師と馬主であるゼダンレーシングステーブルのそれぞれの弁護士は6月7日、ケンタッキーダービー(G1)の競走後に採取されたメディーナスピリットの尿検体への検査を求め、ケンタッキー州競馬委員会(KHRC)に対して訴訟を起こした。

 弁護士たちは訴状において、さらなる検査を実施すれば、コルチコステロイドのベタメタゾン(betamethasone)の陽性反応が注射ではなく軟膏に関係するという証拠が提供されるだろうと述べている。

 ケンタッキーダービーで1位入線したメディーナスピリットは失格となるリスクがある。最初の検査でも、また補足のために実施された血液の分割サンプル検査でも、競走当日にいかなる濃度でも禁止されているベタメタゾンの存在が確認されたのだ。またベタメタゾンがそれぞれの検査で血液または血漿1mlあたり21ピコグラムと25ピコグラムが検出されたことで、バファート調教師は、過怠金あるいは調教停止処分のどちらか、もしくは両方を科される可能性もある。ピコグラムは1gの1兆分の1である。

 ボブ・バファート氏を担当するクレイグ・ロバートソン弁護士とゼダンレーシングステーブルを担当するクラーク・ブルースター弁護士はフランクリン郡巡回裁判所(ケンタッキー州)に文書を提出し、一時的な差止めを求めている。その申立てによれば、KHRCがその牡馬の尿検体の完全な科学分析、とりわけ軟膏オトマックス(Otomax)に含まれる化合物の分析を許可しないことで、クライアントの適正手続きを受ける権利を侵害している。バファート氏はロバートソン弁護士を通じて、オトマックスはメディーナスピリット(父プロトニコ)の皮膚発疹を治療するために使用されたと主張している。

 訴状では、ベタメタゾンがどのようにしてメディーナスピリットの体内に混入したかが"重要"とされており、「ベタメタゾンの検出が関節間注射によるものか局所用の軟膏によるものかによって、規制面およびイメージ面から見て大きな違いがあります」と指摘している。

 原告側は、「さらなる検査は、メディーナスピリットの競走後検体について報告されている陽性反応は局所用オトマックスにより無害に混入されたものであるという経験的および科学的に合理性のある確信をもたらすでしょう」と主張する。

 KHRCのスポークスウーマンであるシェレル・ロバーツ氏は、KHRCは進行中の訴訟についてのコメントは控えると述べている。

 メアリー・スカレー氏は、競馬産業のために薬物問題に関するモデルルールを策定する援助をしている薬物規制標準化委員会(RMTC)の専務理事兼COO(最高執行責任者)である。「"ある物質が競走当日に馬体内に一切含まれていないこと"をルールが要求するとき、その物質が馬体内から見つかった時点で違反です」と、同氏は述べた。つまりルールはその物質がどのように馬体内に混入したかについては言及していない。

 とは言え、裁決委員や競馬統括機関は制裁を決定する際に、物質が馬体に混入した最もあり得そうな経緯などの軽減事由を考慮できる。スカレー氏は自身がこの事案に直接関与していないため、KHRCがさらなる検査を行う義務があるかどうかについては言及できないと述べた。

 「KHRCには調査する義務があると思います。しかし、競馬研究所において普通は利用が難しく実施されない検査を含めるべきかどうか、具体的に言える立場に私はないと考えます」。

 オトマックスの容器には成分として吉草酸ベタメタゾンが目立つように記載されており、競走を控えた馬になぜその軟膏が選ばれたのかという疑問がある。訴状によると、ケンタッキーダービーの前にメディーナスピリットがこの軟膏で治療されたことを診療記録は示している。

 ファーストレーシング(1/ST Racing)の最高獣医責任者であるディオンヌ・ベンソン博士によると、この治療はカリフォルニア州では報告されていた。ファーストレーシングが所有するメリーランドジョッキークラブがメディーナスピリットのプリークネスS(G1)への出走を許可する決定を下すにあたり、それらの記録を調査し、4月1日~5月10日の診療記録にオトマックスの調剤が記されていることを報告した。

 本誌(ブラッドホース誌)がケンタッキー州の診療記録にアクセスしようとしたところ、KHRCは州法を引き合いに出してそれを拒否した。ケンタッキー州ではホースマンは出走登録時に過去2週間分の診療記録の提出を求められる。

 訴状はこう続いている。原告は5月14日にKHRCに追加検査の要求を通知したが拒否された。そして5月19日に書面でふたたび要求したが、これもKHRCに拒否された。5月24日頃、原告が一次検体の残りを認定試験所で検査することを認める妥協案に両者は達したが、6月1日頃、KHRCは原告に 「検体は輸送中に破損した/汚染された」と通知した。

 訴状によると、KHRCはメディーナスピリットの未開封の分割尿サンプルがもう1つあるがその分析を拒否している。原告側は、吉草酸ベタメタゾンをはじめとするオトマックスの成分は「尿中で最も容易に検出できる」と主張している。

 ベタメタゾンは一般的に馬の関節に注射されるもので、治療目的での使用は認められている。しかし、ケンタッキー州の基準は競走日前の14日間を休薬期間とすることを求めている。バファート氏は5月9日に最初の検査結果が出た当初、この牡馬にベタメタゾンが投与されたことは一度もないと否定していた。そして5月11日、ロバートソン弁護士は調教師に代わって、「競走後検査の結果はオトマックスに晒されたことによるものかもしれない」という声明を出した。

 メディーナスピリットのダービーでの競走後検査の結果を受け、バファート厩舎の馬が禁止薬物の陽性反応を示したのは2020年5月2日以降で5回目となった。特にベタメタゾンの陽性反応は2回目である。ベタメタゾンはケンタッキー州において、ペナルティクラスAやBの薬物に比べて"競走能力に影響を与える可能性が低い"と考えられるペナルティクラスCに分類されている。

 バファート厩舎の2020年米国最優秀短距離牝馬ガミーン(マイケル・ルンド・ピーターセン氏所有)は昨年9月、ケンタッキーオークス(G1)で3位入線後にベタメタゾンの陽性反応を示した。バファート調教師はオークスの18日前に獣医師がガミーンに注射したベタメタゾンが馬体内に残留していたと主張したが、過怠金1,500ドル(約16万5,000円)とガミーンの失格処分を科された。

 ベタメタゾンのようなペナルティクラスCの薬物をめぐって1年以内に2回違反を犯した場合に推奨される制裁は、軽減事由がない限り、過怠金と調教師免許の停止とされている。1年以内に1回ペナルティクラスCの薬物の陽性反応が出走馬から出た場合、馬主に対して推奨される制裁は馬の失格とされているが、優勝賞金186万ドル(約2億460万円)のケンタッキーダービーではそれは大きな損失となる。ダービーは優勝馬に、その賞金をさらに数百万ドル上回る最終的な種牡馬としての価値をもたらすことがしばしばである。

 2位入線したジャドモントのマンダルーン(Mandaloun)は、メディーナスピリットが失格となれば繰り上げ優勝を果たすだろう。

 バファート氏はダービーの検査結果が発表されてから、チャーチルダウンズ社とNYRA(ニューヨーク競馬協会)の競馬場で管理馬を出走させることを禁止されている。ケンタッキー州の競馬を統括するKHRCではなく各競馬場の運営者によってこの措置は取られており、各競馬場の決定には他の競馬場との相互関係はない。

 ロバートソン弁護士はEメール(6月8日付)で、裁決委員の審問の日程は決まっておらず、メディーナスピリットに対する裁定はまだ裁決委員からもKHRCからも出されていないと述べている。裁決委員やKHRCから出走停止処分が科された場合、その制裁は上訴されるまですべての競馬管轄州で相互に適用されるだろう。

 バファート氏は昨秋、数頭の管理馬から禁止薬物が検出されたことを受けて、「管理馬の健康とルール順守を確実にすべくさらなる予防策を取るために、ハギャード馬診療センターのマイケル・ホア博士と委託契約を交わしました」との声明を発表していた。

 ロバートソン弁護士とホア博士によると、この顧問的役割は十分には実体化しなかった。ホア博士はその実体化を妨げたものとして、新型コロナウイルス感染拡大の中での移動や自らの拠点であるケンタッキー州とバファート氏がいるカリフォルニア州のあいだの距離を挙げた。

By Frank Angst and Byron King

(1ドル=約110円)

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[bloodhorse.com 2021年6月8日「Baffert, Zedan Sue KHRC Over Medina Spirit Urine Test」]