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2021年05月13日  - No.17 - 1

ケンタッキーダービー1位入線馬メディーナスピリットからベタメタゾン検出(アメリカ)[開催・運営]


 ケンタッキーダービー(G1 5月1日 チャーチルダウンズ)で終始先頭に立ち½馬身差で激戦を制したメディーナスピリットは、競走後検査で規制薬物である抗炎症剤ベタメタゾン(betamethasone)の陽性反応を示した。ボブ・バファート調教師は5月9日(日)朝、チャーチルダウンズ競馬場の厩舎地区での記者会見で、この検査結果を認めた。

 クレイグ・ロバートソン弁護士とともに記者会見に臨んだバファート調教師によると、メディーナスピリットの血清から1mlあたり"21ピコグラム"の陽性反応が示された。同調教師は、メディーナスピリットにこのコルチコステロイドが投与されたことは"一度もない"と述べ、この"陽性反応"はまだ分割サンプル検査で確認されていないが、闘うことを誓った。

 バファート調教師はこう語った。「動揺させられています。馬にとっては不当なことです。今競馬界で何が起こっているのか分かりませんが、正しいことではありません。恥ずかしいとは思っていませんが、不当な扱いを受けていると感じています」。

 ベタメタゾンはコルチコステロイドとして知られる薬物群に属し、関節炎を治療するためによく用いられる。競馬統括機関は過去数年間、この種の薬物の休薬期間を拡大してきた。それはレースでの薬物使用に対する批判に対処し、当局の獣医師による競走前の不調や跛行の検査能力に薬物使用が影響を及ぼさないようにするためである。ケンタッキー州は現在、休薬期間のガイドラインを14日間としている。

 ケンタッキー州は昨年からコルチコステロイドの閾値を撤廃するプロセスを開始している。バファート氏の顧問弁護士であるロバートソン氏は5月9日(日)朝、その撤廃は今年のダービーに先立ち発効したと述べ、記者会見での閾値が10ピコグラムであるとした発言を訂正した。また、バファート氏に正式な陽性反応の通知や分割サンプル検査の実施が承認されている研究所の一覧を裁決委員はまだ提示していないとも語った。

 バファート氏は、競走後の検体がメディーナスピリットのものであることを確認するためにその検体にDNA検査を実施することや、ベタメタゾンが同馬に投与されていたかどうか決着をつけるために毛根検体にDNA検査を実施することを発注したことを明らかにした。そしてこの検査結果を"徹底的に"調査すると述べた。

 今回陽性反応が出たことにより、競馬に関する報道とバファート調教師への批判が爆発するのは間違いない。1年以上にわたり管理馬が競走後検査で次々と陽性反応(すべて規制薬物)を示していたことで同調教師は非難を浴びてきた。また、競馬界が薬物コントロールプログラムをよりよく管理しようとしている時期でもある。過去12ヵ月間のバファート調教師をめぐる論争に加え、2年前の2019年ケンタッキーダービーでは1番人気で1位入線したマキシマムセキュリティが直線入口で他馬の走行を妨害したとの判定を受け失格となっている。

 多くの一般の人々や、バファート調教師に疑念を抱いている並外れた数の競馬関係者は、この陽性反応を不正の痕跡として扱うだろう。一方、多くのホースマンや当局者は、競馬産業における一般的に使用される薬物の取り扱い方法にありがちな固有の問題として考えることで責任転嫁するだろう。その"固有の問題"の中には、こうした批判者が"調査が不十分である休薬期間"や"設定が低すぎる閾値"と呼んでいるものが含まれる。閾値が極めて低く設定されているために、馬の競走能力に影響を及ぼしたであろう時点から相当経過した場合であっても、もしくは偶発的に混入した場合であっても、検査機関は規制薬物を検出してしまうと彼らは考えている。

 バファート調教師は最近管理馬が規制薬物の陽性反応を示したことに関して、多くのホースマンの意見を引用して、「安心して調教活動ができないと感じています。私にとって状況はますます悪くなっています。このようなことが起りうると知りながら、私はどう楽しんで調教師として前進していけるのでしょうか?これはまったくの不正義で、私たちは必死になって闘うつもりです」と語った。

 バファート調教師が陽性反応を認めた2時間後、チャーチルダウンズ競馬場は"違反の重大性を考慮して"同調教師が管理馬を出走させることを禁じるという声明を発表した。その声明は、"同競馬場はケンタッキー州競馬委員会(KHRC)の調査結果を待ってからさらなる措置を講じる"と続いていた。

 また声明には、「ルールと薬物プロトコルを順守しないことは、競走馬と騎手の安全、競馬というスポーツの健全性、ケンタッキーダービーとそのすべての参加者の評判を危険にさらすものです。チャーチルダウンズ競馬場はそれを許容しません」と記されていた。

 なお、同競馬場が本紙(デイリーレーシングフォーム紙)からの今回の決定に関する質問に回答することはなかった。

 競馬場には古くから、人種・性別などの保護された権利に基づく決定でないかぎり施設から人を排除する権利がある。しかし裁判所は状況次第で、適正手続の保障のもとでの調教師の権利を引き合いに出し、個人の入場を禁止した競馬場に一時的な差し止め命令を出している。

 ロバートソン弁護士はテキストメッセージを通じて、「とても残念です。まだ分割サンプル検査の結果が戻ってきていないのに、性急な判断が下されようとしています。法の適正手続きというものがありますが、明らかに違反しています」と語っている。

 同弁護士はチャーチルダウンズの決定について「今ニュースを聞いたばかりです」と述べ、一時的な差し止め命令を求めるかどうかについてはまだ決定していないと語った。

 チャーチルダウンズの決定は、三冠競走を開催する他の競馬場にも連鎖反応を引き起こす可能性がある。バファート調教師は、メディーナスピリットともう1頭の管理馬、コンサートツアーは5月10日(月)午後に二冠目のプリークネスS(G1)が開催されるピムリコ競馬場(メリーランド州ボルチモア)に向けて輸送されるだろうと述べていたが、ピムリコ競馬場はチャーチルダウンズ競馬場とともにサラブレッド安全連合(TSC)のメンバーであり、競馬に対する世間の認識を改善するために行動することを誓っている。また、三冠目のベルモントS(G1)を開催するベルモントパーク競馬場も同様である。

 ピムリコ競馬場を運営するメリーランドジョッキークラブ[ファースト社(1/ST)が所有]は5月9日のうちに、報道されているメディーナスピリットの規制薬物の陽性反応について関連のある事実と情報を"検討するつもりである"と声明において述べた。しかし少なくとも今のところ、同馬のプリークネスSへの出走を禁止するには至っていない。

 声明には、「私たちはメリーランド州競馬委員会(MRC)と協議中であり、メディーナスピリットのプリークネスSへの出走に関する決定は、事実関係を検討した後に下されます」と記されている。

 メリーランドジョッキークラブは5月9日(日)、プリークネスSの枠順抽選を10日(月)午後から11日(火)午後4時に延期すると発表した(訳注:メディーナスピリットとコンサートツアーはメリーランド州の当局による薬物検査をレース前に受けることで、プリークネスSへの出走が許可された)

 ケンタッキー州の裁決委員は他州の競馬場と同様に、分割サンプル検査の結果が確認されるまで薬物の陽性反応を発表しないが、このプロセスには通常3~4週間かかる。バファート調教師によると、ロバートソン弁護士と同調教師は、この24時間のあいだに厩舎地区で流れていた噂を考慮してそれと真っ向から向き合うために、この結果を公表することを決断した。

 バファート調教師は5月8日(土)午後に助手のジミー・バーンズ氏から陽性であることを知らされたと述べ、「私が知る前に皆が知っていました。とても動揺しています。それがどういうことなのか整理がついていません」と語った。

 ケンタッキーダービーの権威、そしてこのレースの競走後検査の範囲と深さを考えると、出走馬を周知の物質で治療しようとするのは滑稽なことだと考えられる。ダービーの競走後の検体は、全米のどのレースよりも厳格で広範囲な検査が施されており、メディーナスピリットの競走後の検体から検出された薬物は、容易に検出できるよく知られた物質であった。

 バファート調教師は、「私は調教師の中でも最も厳しく詮索されていることを心得ています。何百万もの人々が私を見ています。一番やりたくないことは、競馬において最も偉大な2分間を危険にさらすようなことです」と語った。

 例年とは異なり、今年はこれまでに数頭の有力な三冠馬候補が怪我により戦線離脱したために、メディーナスピリットはバファート厩舎からの唯一のケンタッキーダービー出走馬だった。サンタアニタダービー(G1)で2着となりダービーに臨んだメディーナスピリットは、バファート調教師が過去にダービーを6勝していることを反映してか、単勝13倍と低いオッズになっていた。

 ケンタッキー州では他州と同様に、競走後検査での陽性反応が出た場合の防波堤として"絶対的保証者ルール(訳注:管理馬の体内から検出した物質について、たとえ調教師がその物質を投与していなくても調教師に責任を負わせるというルール)"を採用している。過去10年の間にいくつかの訴訟により、また多くのルールブックで "軽減事由"を認める条項が追加されたことにより、弱体化はしているものの、このルールは、過失の有無にかかわらず、競走後の検体採取時の馬の状態について調教師が責任を負うこととしている。

 ケンタッキー州の裁決委員は、1968年にダンサーズイメージがダービー優勝後に鎮痛剤フェニルブタゾン(phenylbutazone)の陽性反応を示して以来、ダービーでの陽性の裁定を下していなかった。この事例は4年間にわたり審理されたが、最終的にダンサーズイメージは失格となった。ニューイングランド地方出身の馬主のピーター・フラー氏は、ダービーの6日前に球節の痛みを治療するためにダンサーズイメージにフェニルブタゾンが投与されていたことを認めていた。しかし、「公民権運動に力を入れていた私の名誉を傷つけようとする何者かによって、レースが近づいてきたときにフェニルブタゾンが追加的にダンサーズイメージに投与されたのです」とフラー氏は根拠もなく繰り返し主張した。

 ダービーで陽性反応が出た経緯がどのようなものであったかにかかわらず、バファート調教師は厩舎の運営や記録をめぐる問題に直面し続けることになるだろう。半年前、2020年ブリーダーズカップ開催の直前に、同調教師は弁護士を通じて声明を発表し、2020年に規制薬物の陽性反応が4件出たことを受けて、"馬の安全性とルール順守のレベルを高めて基準を設定すること"を誓った。そのうち2件の陽性反応は、G1競走のアーカンソーダービーとケンタッキーオークスでバファート調教師の管理馬が見事なパフォーマンスを見せた後に出たものだ。

 今年のケンタッキーダービーのわずか数週間前に、アーカンソー州競馬委員会(ARC)は昨年のアーカンソーダービー(5月2日)の結果と、同日にオークローンパーク競馬場で出走して陽性反応を示したもう1頭の管理馬への制裁を修正し、15日間の調教停止処分と2頭の失格処分を無効とした。バファート調教師はこの制裁に対して上訴したときに、馬から検出された薬物リドカイン(lidocaine)は偶発的に混入したものであり、馬体内からの検出量は競走能力に何の影響も与えないと主張していた。修正された裁定では、バファート調教師は陽性反応1件につき5,000ドル(約55万円)の過怠金を科せられるにとどまった。

 ケンタッキーオークス(9月4日)ではのちの最優秀短距離牝馬、ガミーンが3位入線した後に陽性反応を示した。ベタメタゾンが検出されたガミーンは失格となり、バファート調教師には1,500ドル(約17万円)の過怠金が科された。同調教師とその顧問弁護士は、ガミーンがレースの18日前にコルチコステロイドを投与され、14日間とされる休薬期間よりも以前のことであると主張していた。同調教師はこの裁定に対して上訴は行わなかった。

 また、バファート調教師のもう1頭の管理馬マーニース(Merneith)が7月25日のデルマー競馬場でのレースで2着になった後にデキストロメトルファン(dextromethorphan 咳止め薬によく使われる麻酔薬の成分)の陽性反応を示した。同調教師はこの陽性反応に対して上訴し、厩舎スタッフが咳止め薬を服用していたため、不注意で混入したと主張している。この薬物はクラス4に分類されている。分類ガイドラインによると、クラス4は"馬の競走能力に影響を及ぼす可能性がある"ものの、他の薬物よりも効力が弱いとされている。

By Matt Hegarty 

(1ドル=約110円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2021年No.5「ガミーンはケンタッキーオークス失格、バファート調教師に制裁金(アメリカ)」、No.17「シャーラタンとガミーンが優勝資格を回復するも問われる検査体制(アメリカ)

[drf.com 2021年5月9日「Medina Spirit tests positive for betamethasone in post-Kentucky Derby sample」]

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