海外競馬情報 2026年05月21日 - No.17 - 1
大成功を収めた種牡馬としてのフランケルの軌跡(イギリス)【生産】

 よく言われるように、完璧に勝るものはない。記録が残り検証された時代における最高の競走馬と見なされていたフランケルは競走馬を引退し、種牡馬としてジャドモントファームのバンステッドマナースタッドに繋養された。そして、サラブレッド生産においてダーレーアラビアン以来最も影響を与えてきた3頭の祖先― ガリレオ、サドラーズウェルズ、そしてノーザンダンサー ―から続く種牡馬ラインを受け継ぎ、さらに発展させていくことが期待されていた。

 フランケルは理想的な血統背景を備えていた。革新的な存在であるデインヒル産駒の母を持ち、兄弟にはG1勝馬ノーブルミッションや、フランケルが出走するレースのペースメーカーとして知られるブレットトレインといった実績ある名馬がいる。フランケルは見た目にも恵まれ、戦績、評判もよく、世界有数のオーナーブリーダーの支援を受け、多くの関係者から注目されていた。同馬のグッズまで作られていたほどである。

 無敗の競走成績の軌跡を維持するには、フランケルは種牡馬として2017年以降、あらゆるクラシック競走勝ち馬を輩出し、英・愛の種牡馬リーディングをすべて獲得し続ける必要があった。不可能ではないかもしれないが、極めてあり得ないことだった。

 フランケルの最初の産駒であるクンコは、2016年ロッキンジS(G1)の前日にニューベリー競馬場でデビューし、少なくとも期待に応える走りだった。レース前から若馬らしいやんちゃな面を見せてかなりエネルギーを消耗していたものの、フランケルに種牡馬としての完璧なスタートをもたらした。クンコはロイヤルアスコット競馬場のチェシャムS(L)で、後に2歳チャンピオンとなり英・愛2000ギニー(G1)を制することになるチャーチルに1馬身半差の3着に入った。

 クンコは決して悪い馬ではなく、翌年のサンダウンクラシックトライアル(G3)を勝ち、最終的には南米のオーナーブリーダーによってチリへと輸出され、そこで複数の重賞競走勝ち馬を輩出した。

 その初年度はかなりの好成績を残した。より注目度の高かった種牡馬サープランスアロットには水をあけられたが、フランケルは英・愛のファーストシーズンサイアーランキングで勝利数(15)、獲得賞金(364,587ポンド=約7,656万円)の両部門で表彰台に上がった。

 より重要なことに、フランケルは同期の種牡馬ではトップとなる3頭のステークス競走勝ち馬を輩出した。7月までに、フェアエヴァがプリンセスマーガレットS(G3)を制し初の重賞競走勝ち馬となり、後にロウザーS(G2)で同じくフランケル産駒のクイーンカインドリーの3着に入った。

 その12月には、イギリス国外で生産された少ない産駒の1頭からG1勝ち馬を送り出すことになる。ディアヌ賞(G1)を制したスタセリタの娘、ソウルスターリングが阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)を制した。同馬は翌年5月、優駿牝馬(オークス)(G1)も制しフランケル産駒としては初のクラシック競走勝ち馬となった。

 フランケルの初年度産駒には、さらに実績を加えてくれる存在となったクラックスマンが含まれていた。同馬は英ダービー(G1)で3着となり、愛ダービー(G1)ではカプリにクビ差で敗れた。馬主のオッペンハイマー氏の自家生産馬であるこの馬は、英チャンピオンS(G1)で圧倒的なパフォーマンスを見せ、父にとって初の欧州G1勝ち馬をもたらした。そして最終的には、フランケルの最初の後継種牡馬となり、現時点での最高レーティングを獲得した産駒でもある。

 種牡馬としての最初の10年間で、フランケルは現実的に期待し得るすべてのことを静かに成し遂げてきた。2年目、3年目の産駒からは、マイルの距離でスターになったウィズアウトパロール、そして初の欧州クラシック勝ち馬となるアナプルナとロジシャンが輩出された。

 続く2世代からは、フランケル初のダービー馬アダイヤーが現れ、さらにクアドリラテラルがフィリーズマイル(G1)を制して2歳G1勝ち馬も誕生した。また、サー・マーク・プレスコット調教師が管理していたカーステン・ラウジング氏の所有馬、芦毛のアルピニスタという至高の牝馬も台頭してきた。

 アダイヤーがエプソム競馬場での勝利(英ダービー)に続きキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(G1)を制し、ハリケーンレーンが愛ダービーと英セントレジャー(G1)の勝利で続き、モスターダフ、スノーランタン、インスパイラルらの活躍も支えとなって、フランケルはついに英国およびアイルランドのリーディングサイアーという、最も重要な栄誉の一つを手にした。

 父ガリレオが亡くなった年に、父の種牡馬としての支配的地位を終わらせつつあったことから、これは象徴的なバトンの受け渡しとみなされた。

 2022年にはドバウィが激しいデッドヒートを制して王座を奪ったが、2023年にはフランケルが再びトップに返り咲いた。初の英2000ギニー勝ち馬シャルディーンがその牽引役となり、ナシュワやクラージュモナミといった多額の賞金獲得馬たちからも強力なサポートを受けた。

 種牡馬の能力を評価するための決定的な指標は存在しない。出走頭数と勝ち馬の割合、ブラックタイプ競走勝ち馬の比率、産駒のレーティングなどは参照すべき統計であるが、それ以外にも血統的なクロスや繁殖牝馬側の他の産駒の成績との比較をしてより深く掘り下げる者もいる。

 現在18歳のフランケルが、ガリレオの12回、または偉大さを測るうえでの究極の指標ともいえるサドラーズウェルズの14回記録したリーディングサイアー回数に並ぶ可能性は極めて低いだろう。フランケルがその域に到達するには、並外れた健康状態、繁殖能力と種付け意欲を通常の限界をはるかに超える年齢まで維持する必要があり、さらに強力な競争相手がいないことも条件となる。

 すでにその道のりは厳しいものだった。これまでの種牡馬キャリアの多くの期間は、23歳で亡くなった父親と競い合ってきたほか、同様に威厳あるドバウィとも争ってきた。ドバウィは24歳となった今もなお種牡馬として活躍している。ナイトオブサンダーはドバウィの後継種牡馬として台頭しており、また競馬界が待ち望んだもう1頭のスター、シーザスターズも、依然として脅威であり続けている。

 そんな中、興味深い指標が2024年8月に発表された。ジャドモントファームは、フランケルが種牡馬として3,144日でグループまたはグレード競走勝ち馬が100頭目に到達したと発表し、これはデインヒル、ディープインパクト、ガリレオ、ドバウィといった名馬たちよりも早く達成された記録とのことだった。

 フランケルは現在、10世代の産駒からG1馬40頭を輩出しており、直近では昨年9月オーストラリアのアンダーウッドS(G1)を制したサーデリウスがいる。この馬はタタソールズ社のオータムトレーニングセールで130万ギニー(約2億6,000万円)という記録的価格で落札された馬である。

 比較すると、コンテントは2024年のヨークシャーオークス(G1)を勝利してガリレオにとって前例のない100頭目のG1勝ち馬となったが、それは20世代目での達成だった。そのため、その記録に到達するにはまだかなりの道のりがある。デインヒルは、その世界的規模の活躍ゆえに、以前はほとんどあらゆる記録の保持者だったが、それらは徐々にすべてガリレオに奪われていった。

 デインヒルは347頭のブラックタイプ競走勝ち馬(うち209頭が重賞競走)を記録しており、一方ガリレオは387頭のブラックタイプ競走勝ち馬、262頭の重賞競走勝ち馬を輩出している。フランケルのブラックタイプ競走勝ち馬177頭、重賞競走勝ち馬117頭は、いずれも素晴らしい記録ではあるが、前記2頭にはまだ大きく及ばない。

 10年という節目は現状を振り返るのに良いタイミングだろう。今、現役として走っているフランケル産駒は、フランケルがチャンピオンとしての絶頂期の余韻の中で生産された世代、いわば能力のピーク時に近い時期に生産された産駒たちにあたるのかもしれない。

 長年にわたり、クールモアはフランケルに対抗する種牡馬としてガリレオを供用しており、クラシック向きの生産者に対して競合となる種牡馬をあまり積極的に支援していなかったのは理解できるところだ。しかし近年では、同陣営はフランケルに深く関わるようになっている。英ダービーの有力馬ベンヴェヌートチェッリーニはクールモアとホワイトバーチファームの共同生産であり、英・愛オークス(G1)の勝ち馬で凱旋門賞(G1)2着のミニーホークは、同陣営にとって最も重要な古馬の一頭となるだろう。

 フランケルは現在、種付料35万ポンド(約7,350万円)というキャリア最高額で3シーズン目を迎えており、ドバウィと並んで世界で最も高額な種牡馬となっている。ドバウィやキングマンのような種牡馬とは異なり、フランケル産駒は初年度産駒が評価され始めた頃から典型的な走る産駒の形というものがない。それぞれ異なる見た目をしており、多くは母馬の特徴を再現しているが、精神面や身体的特徴について一般化できるような傾向もない。

 市場も依然としてフランケルを高く評価している。過去3回のタタソールズ社オクトーバーイヤリングセールのブック1では、平均価格と総落札額のいずれにおいても全種牡馬中トップで終えている。

 フランケルのレガシーは完成しつつある。最初の数年間は新たな種牡馬を輩出する父になれるかどうかが疑問視されていた。クラックスマン、ハリケーンレーン、ロジシャンは障害競走用種牡馬として供用されていて、ウエストオーバー、アダイヤーは平地の中距離馬への評価、需要が高い日本へ渡った。

 現在では、フランケルの資質を受け継ぐ若い産駒が数頭現れている。シャルディーンは英2000ギニーだけでなくデューハーストS(G1)も制し、ジャドモントファームからあらゆる期待を受けることになるだろうし、ディエゴヴェラスケスは血統と実績の両面で優れており、ナショナルスタッドに入れば非常に楽しみな新戦力になるだろう。

 また、フランケルは母父としても大成功している。最近のフランスのクラシック競走を制したザリガナとスパークリングプレンティはいずれもフランケル産駒の牝馬を母に持つ。また、昨年のロッキンジS勝ち馬であり、新たにジャドモントファームで種牡馬入りしたリードアーティストも同様である。

 偶然にも、初めての勝ち馬を出してから10年目の節目に、フランケルはロッキンジSの前売り1番人気馬ダミサス(結果:6着)を擁している。これは、フランケルが時の試練に耐えていることを示す、これ以上ないほど良い証拠と言えるだろう。

By Tom Peacock

(1ギニー=約200円/1ポンド=約210円)

[Racing Post 2026年5月12日
「Already a champion despite impossible expectations: how is Frankel faring after ten years on from his first winner?」]