11月26日(水)にレイチェル・リーヴス財務大臣が発表した予算案は英国競馬界にとって「プラス」であると評価されている。賭事に対する大幅な増税から競馬は除外されたためだ。
しかし、ブックメーカーは違う見解を示している。競馬以外の賭事への増税は競馬界への「ステルス増税」であると考えており、競馬の収益が「深刻なダメージ」を受けると主張しているのだ。事業者らもまた、リーヴス大臣による増税に自衛策を講じなければ、数億ポンド(数百億円)もの影響があるだろうと警告を発している。
政府の計画に関する詳細は、リーヴス大臣が下院で予算案を発表するより前に英国予算責任局が誤って公表したことにより明るみに出た。リモート賭事税は2027年4月に現在の15%から25%へ税率が引き上げられる予定だ。しかし、投票端末からの賭事、スプレッドベッティング、パリミュチュエル方式(プール方式)および競馬は対象から除外された。
予算案とともに公表された「レッドブック」こと財政状況および予算報告書によると、除外の対象となるのは英国内で施行される競馬に限られるようだ。
スロット等のオンラインカジノ事業者は、2026年4月からリモートゲーミング税の税率が21%から40%に引き上げられるとの報せに大きな衝撃を受けている。しかし、リーヴス大臣は店舗型賭事の税制に手をつけるつもりはないと述べた。
このニュースに店舗型ブックメーカーは胸をなでおろしただろう。ゲーム機に対して増税措置が取られた場合、数千にも及ぶ店舗が閉鎖することとなり、競馬賭事賦課金や放映権料などによる競馬の収益が数百万ポンドも失われかねないと警告してきたからだ。なお、この税制改革によって、2029年~2030年の間に11億ポンド(約2,255億円)の増収が見込まれる。
待望の税政改革を発表した際、リーヴス大臣は下院で「オンライン賭事の規模拡大を受けて、賭事税の改革も実施します」と述べた。
「オンライン賭事は、特に深刻な弊害と関連があります。そのため、リモートゲーミング税は21%から40%へ、リモート賭事税は15%から25%へ税率をそれぞれ引き上げました。店舗型賭事や競馬に対しては、変更しません。来年の4月にはビンゴ税を廃止する予定です。こういった措置を全て含めて、この賭事税改革が2031年までに毎年10億ポンド(約2,050億円)超の増収をもたらすことになります」。
4月に財務省が異なるオンライン賭事の税率一本化を模索する協議を開始した際、競馬界の指導層は、競馬への賭事に課される税率が引き上げられるのではないかと危惧していた。
競馬界は「競馬への増税ストップ」のスローガンを掲げてキャンペーンを展開し、競馬を他の賭事とは区別すべきだと訴えた。英国競馬統括機関(BHA)のCEO代理ブラント・ダンシー氏は、一致団結した競馬界が「政府に対して、極めて強力な発言力」を示したのだとした。
予算案の発表後、英国競馬界の指導層を代表して出した声明において、政府の決定について、競馬が「かけがえのない文化的で社会的な資産である」という重要性を政府が認識していることの表れであるとした。
のちにダンシー氏は記者らに「端的に言えば、本日、財務大臣と首相官邸が下した決断を歓迎しています」と述べた。
「協議が開始されてから5~6ヵ月もの間、我々が訴えてきた問題をしっかりと受け止めていただいたと認識しており、感謝しています。税率一本化がもたらし得た脅威を彼らが理解してくれたことがはっきりしました。この結果を歓迎しています。競馬界にとって、前向きな決定であると確信しています」。
反対に、賭事・ゲーミング協議会(Betting and Gaming Council)のグローニャ・ハーストCEOは、賭事業界の従事者や顧客にとって予算案が「壊滅的な一撃」であると述べた。
「はっきりさせておきましょう。競馬界は、実際には(増税を)免除されたわけではありません。これから、収益は大打撃を受けるでしょう。新たに課される多大な税負担によって、賭事事業者はマーケティング、スポンサー契約や販促活動にまつわる費用を含めたコスト削減を余儀なくされるからです」と付け加えた。
ダンシー氏は、今回の予算案が賭事全体に影響を及ぼすであろうことを競馬界も認識していると話した。そのうえで、「もちろん、我々は賭事業者のパートナーとの関係性を非常に重視しており、協働して競馬を発展させていきたいです。競馬の発展は賭事業者と競馬界との間で共通した利益であり、両者ともその実現に尽力していると固く信じています」と述べた。
「私自身を含めた競馬関係者が、ここ数ヵ月間、様々な賭事業者と前向きな協議を定期的に重ねてきました」。
しかし、ある賭事業界筋は、BHAが今回の予算案を競馬業界にとっていい結果だとみなしていることに「唖然とした」と語った。
「BHAの重要な収入源が大打撃を受けているのです。我々はここ数ヵ月間、いかなる増税であれ、競馬界も深刻なダメージを受けるだろうと警告し続けてきました。BHAが我々と協力しないどころか、その一部が敵対することを選択したのは残念でなりません」と続ける。
「競馬界は、今回の予算案で増税を免れたわけではないことを理解しなくてはなりません。それどころか、これはステルス増税ともいえるものなのです。賭事業者が競馬への投資を削減し始めた直後に影響を実感するようになるでしょう」。
税率が引き上げられたのにも関わらず、一部の賭事関連銘柄は上昇した。エンテイン社は3.4%高の772.4ペンスをつけた。フラッター社も二元上場しているロンドン市場で2.51%高の15,125ペンスをつけた。しかし、ウィリアムヒル社を所有するイヴォーク社は18%以上も下落し、30.55ペンスとなった。
イヴォーク社は、同社のペル・ワイダーストロムCEOが今回の予算案を「詰めが甘く、逆効果で多大な損害を引き起こす」ものと批判しているが、2027年4月から新たな税制が完全に導入された場合、自衛策を講じなければ年間1億2,500万ポンド~1億3,500万ポンド(約256億2,500万円~約276億7,500万円)のコスト増になるとの見通しを示した。
ラドブロークス社とコーラル社を傘下に持つエンテイン社は自衛策を講じなければ、イギリスとアイルランドのオンライン事業者にとって約2億ポンド(約410億円)の負担増になると明かした。
エンテイン社CEOのステラ・デイビッド氏は、予算案が「イギリスの賭事事業やゲーミング事業にとどまらず、顧客にとっても大惨事」であると酷評し、「唯一の勝者は違法市場で、彼らは大当たりを引きました」と続けた。
予算案の公表後、財務省は違法賭事市場対策のために今後3年間、賭事委員会へ2,600万ポンド(約53億3,000万円)の追加資金を提供することも明らかにした。
By Bill Barber
(1ポンド=約205円)
[Racing Post 2025年11月26日
「Racing hails 'positive' result following budget but bookmakers warn sport will be hit by other gambling tax hikes」]
