英国の王立獣医大学(RVC)の新たな研究によると、加齢に伴い馬の腱において血管が著しく減少することが明らかになった。この発見は、高齢の馬や人間が腱損傷を起こしやすく、またその治癒に時間がかかり十分に完治しない理由を解明するのに重要な知見を提供する。本研究成果は、獣医師や調教師が損傷リスクの高い馬を特定し、回復を促進するための最適な治療法やリハビリ方法を選択する上で役立つだろう。
腱損傷は馬の跛行やパフォーマンス低下の主要な原因であり、加齢に伴いそのリスクは高まる。にもかかわらず、この加齢に伴う機能低下の生物学的背景は明らかになっていなかった。血流と組織構造が加齢とともにどのように変化するかを理解することは、高齢馬のためのより効果的な治療法やリハビリ方法の開発を支える上で不可欠であると同時に、人における同様のプロセスへの知見を提供するものである。
RVC研究チームは、博士研究員のイワサキ・ノドカ博士と、RVC比較生物医学科基礎科学講師のチャヴォーン・ソープ博士が率い、高度な3D技術を用いて若齢馬(2~5歳)と高齢馬(18~22歳)の腱組織の詳細画像を撮影し、腱の血管網をこれまでにない詳細さで可視化・定量化することに成功した。本研究では特に浅指屈筋腱(SDFT)内の血管を詳細に調査した。SDFTの構造は人間のアキレス腱と機能的に類似しており、競走馬などで損傷が非常に多い部位である。画像解析の結果、高齢馬では腱内の総血管容積が70%減少しており、腱内を流れる血液量が大幅に減少していることが判明した。また血管径は30%縮小し、血管総数は若齢馬と比較して74%減少していた。これは高齢馬の腱に流れ込む血量がかなり少なくなっているため、損傷を受けやすく治癒には時間がかかることを意味する。
同時に、研究チームは高齢馬の腱内でより細い血管の形成が増加していることを観察した。これは組織が大きな血管の喪失を補おうとしていることを示唆している。しかし、この新たな血管網は無秩序な状態に見え、血管バランスの喪失、すなわち血管の正常な構造と血管同士の連携が損なわれていることを示していた。これらの変化は、新たに形成された無秩序な血管が効果的に機能しない可能性を示唆しており、馬の加齢に伴い腱の健康状態を注意深く監視する必要性を裏付けている。
イワサキ博士は次のように述べた。「本研究では、高度な3Dイメージング技術を用いて、馬の腱への血液供給が加齢とともにどのように変化するかを初めて明らかにしました。高齢馬の腱では、修復と回復に不可欠な大きな血管の多くが失われることが判明しました。これは、高齢馬が腱損傷を起こしやすく、その治癒に時間がかかる理由を説明する一助となります。現在、この加齢に伴う機能低下を予防する方法を模索しており、腱損傷と診断された高齢馬の治療成果向上を目指しています」。
また、ソープ博士は次のようにコメントした。「高解像度3D画像技術を用いて、我々は加齢に伴い損傷を受けやすいSDFTへの血流が劇的に変化し、特により太い血管が失われることを明らかにしました。これは高齢馬の腱損傷のリスクが高い理由の説明になるかもしれません。血流の低下は腱の治癒能力を低下させるからです。現在、この加齢に伴う機能低下を予防する手法を開発中です。成功すれば、腱損傷と診断された高齢馬の予後改善につながる可能性があります」。
本研究は競馬賭事賦課公社(Horserace Betting Levy Board)の資金提供を受け、ギリシャのアリストテレス・テッサロニキ大学研究者らと共同で実施された。今回の研究は、腱の生物学・損傷・修復に関する世界最先端の革新的研究を実施し貢献してきたRVCが馬科学分野で培った専門性とリーダーシップを基盤としている。RVCは、幹細胞治療、蹄葉炎、馬クッシング病、跛行、競走馬の引退後の生活など、様々な分野の研究を主導し続けている。
論文全文はこちらからアクセスできる。
Unedited Press Release
By Royal Veterinary College
[bloodhorse.com 2025年11月19日「Study: Aging Causes Blood Vessel Loss in Horse Tendons」]
