今シーズン英国のG1競走で、歴代高額配当勝馬トップ10のうち4頭が誕生するという異例の事態が起きている。しかも、そのうちの2頭はトップ2となっている。
まず7月のサセックスS(G1)で、ペースメーカーの単勝151倍キラートが優勝し、英国G1競走における史上最高配当勝馬となった。そのわずか数週間前には、ノーハーフメジャーズがジュライカップ(G1)を単勝67倍で制し、トップ10入りを果たしていた。
しかし、10月18日(土)の英チャンピオンズスプリントS (G1)で単勝201倍のパワフルグローリーが勝利を収め、キラートはすぐに大穴の王者の座を明け渡した。同馬は2歳時にミルリーフS(G2)を制しているが、3歳になってからの2回の出走では、いずれも精彩を欠いていた。
そのわずか1時間強後には、キケロズギフトがクイーンエリザベス2世S(G1)で内ラチ沿いから抜け出して単勝101倍で勝利を収め、高額配当勝馬トップ10にその名を連ねた。
一体何が起こっているのか究明しよう。
ブックメーカー業界プロフェッショナルの見解
大手ブックメーカー、コーラル社の競馬部門責任者であるジェームズ・ナイト氏は、この大波乱のシーズンを最も的確に解説できる人物の一人である。
彼は、新型コロナウイルス以降、ブックメーカーが大穴のオッズをつける方法に変化があったと考えている。そして、パワフルグローリーやキケロズギフトのオッズは、両馬の今シーズンの実績に基づいた正当な価格が付けられた結果であると述べている。
ナイト氏は次のように説明した。「業界は、パンデミック前よりもこれらの人気薄の馬に正確なオッズをつけています。競馬場内のブックメーカーのオッズに基づいてスターティングプライス(SP、発走直前の最終オッズ)を設定していた時は、人気馬と人気のない馬ではオッズの設定に偏りが多く見られました。例えば、人気馬のオッズはオンラインで取引されるオッズに非常に近くなる一方で、人気薄の馬に対して場内ブックメーカーははるかに控えめなオッズをつける傾向がありました」
「しかし今では、ブックメーカーは、当日の開催全体でより効率的に価格設定をしようとしています。これは、すべての価格帯でほぼ同じオーバーラウンド(訳注:ブックメーカーの利益となる部分)を組み込むということです。その結果、人気薄の馬に対するオッズは、以前よりも魅力的なものになっています。もし今回のレースが10年前に開催されていたら、払戻は101倍や201倍ではなく、67倍や101倍のようなものになっていたかもしれません」。
ナイト氏は、これほど大きな大穴の勝利が3歳以上のスプリント戦やマイル戦で起きているのは偶然ではないと考えており、それは両部門に傑出した有力馬がいないためだと言う。
「これらのG1部門に、フランケルやシーザスターズのような圧倒的なスーパースターがいない場合、そのレースで注目されるような高額オッズの馬が勝利する可能性が高まることになります」。
しかし彼は、このような大穴の勝利が増えることに反対しているわけではなく、むしろそれが競馬というスポーツにとって良いことだと信じており、次のように付け加えた。「ブックメーカーのエンテイン社の店舗でパワフルグローリーに少額(10ポンド)を賭けて大当たりしたという、素晴らしい話がいくつも見られました。私は、これを競馬やチャンピオンズデーにおける構造的な問題として捉えるのではなく、競馬にとってポジティブなこととして捉えたいと思います」
「これは、大手の馬主グループが人気馬でG1レースを独占してしまう状況からの爽やかな気晴らしを提供してくれます。そして最高峰の開催で、馬券購入者が3桁オッズの勝ち馬を見つけるチャンスがあるという事実は、称賛されるべきでしょう」。
レーシング・ポスト紙 賭事部門編集者の見解
賭事部門編集者であるキース・メルローズ氏は、SPの設定における変化と、一部の部門における有力馬の不在が、今シーズンの番狂わせの増加につながったというナイト氏の見解に同意している。しかし、彼はこれに加えて第三の要因があるとし、次のように述べた。
「最後の要因は、賭事マーケット間の結びつきが以前ほど強固ではなくなっていることです。今世紀初頭にベットフェア社が登場して以来、ベッティング・エクスチェンジは公開型の価格調整装置として機能してきました。そして、かつては場外ブックメーカーがベッティング・エクスチェンジの価格に追随していることを皆知っており、その逆というのはなかったのです」
「しかし大口顧客が闇市場に移ったり、あるいはベッティング・エクスチェンジが獲物のいない捕食者だけの水飲み場(市場から経験の少ない一般の賭け手が消え、プロだけが残ってしまった状態)になってしまったためにそこから離れたりした結果、市場に適用されるチェック機能とバランス機能が減ってしまいました。それゆえ、"奇妙な"結果が増加しているのです」。
しかしながら、メルローズ氏は、障害競走シーズンになればこの傾向が落ち着くと考える人々は考え直すべきであり、この超大穴勝馬の傾向は今後数年間続く可能性があると示唆している。
「もしこの第三の要因が大きな要因であるなら、この現象はすぐには消えないでしょう。春の主要開催でもいくつかの予兆が見られましたし、障害競走シーズンに入っても衝撃的な結果が続くことに注意すべきです。もし賭事客がこの流れを利用して利益を上げる方法があるとしたら、それは"市場の知恵とされるもの(オッズが正しいという常識・思い込み)"への忠誠心を緩めることでしょう」。
英国G1競走における歴代高額配当勝馬(1971年パターン競走設立以降)
By Maddy Playle
[Racing Post 2025年10月22日
「What just happened?! From Qirat to Powerful Glory, we look at why so many longshots have won Group 1 races in 2025」]
