新設されたアイルランド賭事規制当局(Gambling Regulatory Authority of Ireland: GRAI)CEOのアン・マリー・コーフィールド氏が、先週レーシングポストのインタビューで述べた発言は、大きな波紋を呼んだ。
コーフィールド氏は、賭事広告を失うことでレーシングTVの放送は停止を余儀なくされるという意見に疑問を呈し、代替広告主の獲得は可能であると主張した。同氏は、タバコスポンサーの撤退でスヌーカー界が直面した経験に似ているとしたが、競馬関係者はこの比較は不適切だと指摘した。
しかし、コーフィールド氏の立場は驚くべきものではない。賭事規制法案が競馬に重大な問題をもたらすことが明らかになって以来、政府レベルで維持されてきた立場から逸脱するものではないのだ。
これらの問題は過去12年間にわたり予見されてきたものであり、競馬界はこの悪夢に向かってある意味無自覚に突き進んでしまったと言える。
2013年に賭事規制法案の草案を進めることが承認されたが、実際には2018年に動きだした。現在の立法案とほぼ同様の趣旨は既にその中には含まれており、その影響は今後数ヶ月でより深刻に感じられるだろう。この法案には、誘導の禁止、日中の賭事広告の制限、ソーシャル・インパクト・ファンドの設立、および賭事に関する法定機関の創設が含まれていた。
2020年の下院解散により延期されたものの、大きな進展があった。現行審議されている法案の一般的な枠組みは2021年10月に承認され、翌年5月に報告書が公表された。最初の草案は、当時の司法省担当大臣のジェームズ・ブラウン氏によって7ヶ月後に下院に提出され、同氏はこれを「画期的な立法」であり「非常に重要な節目」であると称した。
同年7月12日、立法案が委員会段階(法案が審査され修正が加えられる段階)を通過した翌日、レーシングTVとスカイスポーツレーシングは、法案が現在の形で成立した場合、アイルランド在住の視聴者が日頃視聴している競馬中継を視聴できなくなるという衝撃的な事実を公表した。
その瞬間、パニックボタンが押されたが、法案に有意義な修正を加えるには既に手遅れだった。
ホースレーシング・アイルランド(HRI)は2021年2月に政府と賭事関連法案に関する最初の協議を行い、2022年4月に業界への影響を懸念して複数の下院議員へのロビー活動が開始されたと理解している。
HRIは2023年1月または2月に司法省と会合を持ち、法案の内容を確認したが、残念ながら、アイルランド競馬の統括機関が指摘した懸念は、7月に法案が報告段階に入る前に公表された改訂案には反映されていなかった。
ブラウン氏との会合を十分な事前通知をもって要請したが、法案が立法手続きの報告段階に入る前のHRIとの会合は拒否された。この段階で委員会段階での修正が検討され、新たな修正案を提出することはほぼ不可能となった。
HRIは7月下旬に再び会合を要請し、9月に議論が行われたが、実質的な変更を行うための窓はほぼ閉ざされていた。この段階では、文言の解釈を調整する余地はあったが、それ以外のことはほぼ不可能だった。
実際、委員会段階から提出された下院議員の修正案の公開リストでは、190件中1件のみが広告の時間帯規制に関する条項に言及しており、その内容は賭事に関する広告規制の緩和に関するものだった。
地方の下院議員の間で不満が高まっていると報告されたが、誰も修正案を提出したり、特別委員会での議論で発言したりしなかった。おそらく、しゃしゃり出て画期的な賭事改革を台無しにすると思われるよりは、大臣に私的にロビー活動を行うことを選択したのだろう。
報告段階の討論では、ティペラリー・サウス選出のマティ・マクグラス議員だけが競馬界の懸念を表明し、競馬界が「合理的な修正」を求めているにもかかわらず、ブラウン大臣が業界と面談すら行わなかったことを厳しく非難した。
競馬存続の危機は上院でさらに大きく取り上げられ、ティミー・ドゥーリー、シャロン・キーガン、ギャレット・アハーン各上院議員が、ブックメーカーのテレビ広告がない状態でアイルランドの競馬が存続できるかどうかについて懸念を表明した。アハーン氏は、レーシングTVやスカイスポーツレーシングなどの「視聴者は 18 歳以上で、クレジットカードを所有し、個人情報を提供して購読を申し込む必要があり」、そうした有料プラットフォームにおける賭事広告を禁止することについて疑問を呈した。また、オーストラリアの例を挙げて、競馬専門チャンネルを例外とするのであれば 24 時間の賭事広告の禁止は問題ないと言及した。これに対しブラウン氏は、競馬チャンネルに「賭事広告の独占権を与えること」は明らかに不適切であり、競争法に違反すると主張した。
HRIの怠慢や不作為を批判する正当性については議論の余地があるが、ブラウン氏が終始頑固で、HRIの懸念を公然と軽視したことに疑いはない。
2023年10月、RTEラジオ1の「モーニング・アイルランド」のインタビューで、ブラウン氏はHRIが同年の5月に締結した4,700万ユーロ(約80億円)のメディア権利契約について「下院が広告禁止措置に関する方針を表明して随分たってから」締結されたとして批判した。この契約によって、2029年までアイルランドの全競馬開催の生中継がレーシングTVにおいて確保されたのだ。これはまた、ブックメーカーからの収入に過度に依存する競馬界に対し、執拗に疑問を呈した。
この批判は奇妙なものだった。なぜなら、ブラウン氏は過去に何度もこの法案がアイルランド競馬の放送を妨げないとの発言を繰り返していた。つまり同氏が行った抗議は、法案の成立前に交渉された重要な契約について嘆いていたことも考えると、競馬放送の状況が一変することを事実上認めるものだったのだ。
現在、住宅・計画・地方政府省の大臣としてアイルランドの深刻な住宅状況の解決を任されているブラウン氏は、司法大臣として在任していた間、この法案を成立させるため、業界の声を無視して突き進む執念を見せていた。現在競馬は、この法案がアイルランドの地方と経済にとって不可欠な産業に与える影響を十分に理解していない人々によって左右される状況にある。これは、ブラウン前大臣が業界の懸念を締め出してきたためだ。
今こそ、私たちはより声を大にして訴える必要がある。レーシングTVの免除に関する措置は既に手遅れだが、競馬界は権力者に対し、競馬と賭事の不可分な関係を認識させるため、より集中的なロビー活動を行う必要がある。
この関係は、競馬が多くの面で依存しているものだが、賭事業界は競馬に依存しているわけではない。この認識が政府や規制当局のレベルで理解されない限り、誤った目標が「両者を分離し」、長期的な競馬衰退の第一歩となるだろう。
By Conor Fennelly
(1ユーロ=約170円)
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[Racing Post 2025年7月14日 「Controversial comments by gambling regulator can't come as a surprise when the Irish government has been stonewalling racing for years」]