海外競馬情報 2025年06月26日 - No.24 - 1
不法滞在している厩舎スタッフへの強制捜査が行われる(アメリカ)【その他】

 6月18日、米国移民・関税執行局(United States Immigration and Customs Enforcement:ICE)は、17日にルイジアナ州ビントンのデルタダウンズ競馬場で強制捜査を実施したことを認めた。しかし、これを受け、全米ホースメン共済協会(National Horsemen's Benevolent and Protective Association:NHBPA)は、協会員および競馬場に対して、ICEやICEの代理人を名乗る人物が「正式な令状」を持っていない場合、厩舎地区への立ち入りを許可しないよう呼びかけている。

 プレスリリースによると、ICEはクォーターホース競走の開催中だった同競馬場で、国境警備隊(U.S. Border Patrol)、ルイジアナ州警察(Louisiana State Police)、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(the Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives)およびFBIと連携して、職場における強制捜査によって約84名の不法滞在者を逮捕したという。

 このほか、カルカシュー郡保安官事務所(Calcasieu Parish Sheriff's Office)やレイクチャールズ警察署(Lake Charles Police Department)も捜査に協力した。

 ICEによれば、今回の強制捜査は「サラブレッドやクォーターホースを所有し、競馬場の厩舎から出走させる事業者とその事業者に雇用され、馬の世話をする厩務員」に重点を置いたものであったという。

 ICEの職員は、デルタダウンズ競馬場の厩舎で不法就労者が雇用されているという情報を得ていた。そして、その後の厩舎地区への立ち入り捜査によって、この「疑惑」が確認されたことを明らかにした。

 ICEは同競馬場周辺の道路を封鎖し、強制捜査にはドローンも活用した。

 逮捕された84名のうち2名には犯罪歴があった。1名は36歳の男性で、飲酒運転(driving under the influence:DUI)で2回、コカイン所持と違法に再入国した罪で1回ずつ、それぞれ有罪判決を受けている。もう1名は40歳の男性で、共謀罪、凶器による加重暴行罪、性的暴行罪および盗撮の罪で逮捕されている。

 「ICEに属する国土安全保障調査局(Homeland Security Investigations:HSI)は、労働搾取や移民法違反のほかに行われた犯罪行為を特定するため、連邦当局や州当局と緊密に協力して、同競馬場での不法就労の事例を個々に調査しています」とICE HSIニューオーリンズ支局長のエリック・デローン特別捜査官は述べた。「このような職場における強制捜査を実施すると、文書偽造や不正受給、マネーロンダリング、人身売買といったほかの犯罪行為が明るみに出ることがよくあります。その結果、我々は犯罪行為を根絶し、危険な外国人犯罪者、越境犯罪組織のメンバーや違法に入国して不法就労をしている悪質な不法滞在者を排除して、地域社会における公共の安全を強化することができます」。

 ICEはプレスリリースで「不法滞在者の雇用に関する潜在的な犯罪行為については調査中であり、民事罰が適切であるかどうかが検討されています」と伝えた。

 今回の強制捜査が、デルタダウンズ競馬場の開催に影響を及ぼすかどうかは未知数だが、競馬関係者はこのような捜査手法によって、馬の安全が脅かされるのではないかとの懸念を示した。

 厩務員が拘束された後、馬が放れたままになっていたり、ウォーキングマシンに乗せられたままになっていたり、壁に繋がれたままになっていたりしたという話もある。

 デイリーレーシングフォーム誌(Daily Racing Form: DRF)によると、NHBPAは18日(水)、「正式な令状を持っていなければ、ICEの捜査員やその代理人を名乗るいかなる人物も競馬場の厩舎地区への立ち入りを許可されてはならないとする指導通知」を協会員と全米の競馬場に発出したという。

 NHBPAの最高経営責任者(CEO)であるエリック・ハメルバック氏はその通知の中で、今回の強制捜査を「ショッキングで混乱を招く」ものであり、「憂慮に値し、容認できない」と表現したとDRFは報じた。

 さらに「競馬場の管理者と警備員に対しても、令状がなければ厩舎地区への立ち入りを許可しないよう、強く求めていかなければなりません」と続けた。

 同氏は、競馬場の厩舎地区を裁判所の令状が必要となる「非公開で立ち入りが制限されている農業の事業所」であるとした。

 「令状のない立ち入りを認めてしまうと、就労者やその場に居合わせた個人の憲法上の権利が侵害され、競馬場と運営者に法的責任を負わせる可能性が生じ、そして管理馬のケアや福祉を脅かすおそれがあるのです」と述べた。

 全米サラブレッド競馬協会(National Thoroughbred Racing Association:NTRA)CEOのトム・ルーニー氏は、会員向けの声明の中で、複数の会員が「今回の措置に対する懸念に加えて、ほかの競馬場で同様の措置が取られた場合に米国競馬界に及ぼす潜在的影響について懸念を示しています」と伝えた。

 懸念の核心には、トランプ大統領が最近、農業や接客業の就労者保護に対する支持を撤回し、明白な方針転換をしたことがある。この方針転換については、6月15日にはICEや米国国土安全保障省(U.S. Department of Homeland Security)の内部に広まっていた。

 ルーニー氏は自身のコメントの中で、トランプ大統領が「現政権の移民政策が米国経済の農業、ホテル、レジャーの各業界に悪影響を及ぼす可能性を認めていました。この発言は、州の認可や規制を受けている競馬場をはじめとした多くの関連施設にとって、移民当局の取り締まりの対象から外れるのではないかという希望の兆しと受け止められていました」と語った。

 「大統領は、法を順守している農業就労者がH-2Bビザの制度を活用して、米国での就労を継続できるようにする法的手続きを支持する姿勢を表明しています。NTRAは、この構想を支持しています」とルーニー氏は述べた。「牧場、種馬場や競馬関連事業に支えられている地域経済にとって、我々の労働力がいかに重要なのかを政府や議会のリーダーに伝えるため、働きかけを一層強めていきます」。

By Joe Perez

[bloodhorse.com 2025年6月18日 「ICE Shares Details of Raid; HBPA Issues Guidance」]