ゴドルフィンが達成した週末の快挙は、不死鳥の復活を確信させるものだった。12年前のマームード・アル・ザルーニ元調教師が火種となったスキャンダルから効率化された組織が誕生し、まだ始まったばかりの平地競走の新シーズンにおいて、大西洋の両岸で主要レースを次々と手中に収めた。
一体、誰が想像しえただろうか?2013年にアル・ザルーニ氏が管理馬15頭に対してアナボリック・ステロイドを投与したとして追放されたとき、モハメド殿下はこのスポーツから撤退する可能性さえあった。
しかしゴドルフィンは、上から下までの大幅な改革を経て、肥大化して方向性の無い組織から、よりスリムで目的に特化した組織へと変貌を遂げた。
その結果、ケンタッキーオークスとケンタッキーダービーの双方を制覇するのみならず、組織が拠点を置くニューマーケットでも英2000ギニーと英1000ギニーを勝利するという前代未聞の快挙を成し遂げたのだ。
これは、お金だけでは決して十分ではないという教訓だ。底なしの資金をもってしても、やがて崩れ落ちる土台の欠陥を隠すことはできない。
アル・ザルーニ氏はチームプレーヤーではなかった。彼は自分のやり方で物事を進める権限を委託され、自らの狭い世界の中で自律的に動いていた。変革は遅きに失してしまった。そこで新任者を迎え入れ、古い管理体制と古い手法の多くを一掃した。彼らの代わりにより具体的な信念を持つ者が現れたことで、ゴドルフィンの自家生産馬やセリでの購入馬をどのように若いうちから育てていくかという新しい青写真が描かれた。
つい最近まで、ゴドルフィンがニューマーケットのハミルトン・ロードに取得した育成きゅう舎は、毎年フレッシュな新戦力を送り込むための施設だった。馬にとっての贅を極めた施設には設備面で何の不足もなかったが、今それらは売却されたか、あるいは売りに出されている。
その結果がいかに甘美なものであったことか。エイダン・オブライエン調教師がニューマーケットのクラシック戦線で失速する一方で、チャーリー・アップルビー調教師はそのアドバンテージを存分に活かした。同師は両ギニーを勝利し、エプソムダービーでも優位に立っていることに加え、無敗でリステッド競走を制したアルパイントレイルでダービートライアルに挑もうとしている。有力馬が尽きることはないのだ。
タンカーが航路を変えるように、アル・ザルーニ氏の後任がコンパスをリセットするには時間がかかった。アップルビー師は2013年と2014年の最初の2シーズン、イギリスの調教師ランキングで20位と13位に終わった。それ以降は、トップ10圏外となったのは2019年(11位)の一度だけだ。2021年に最初の調教師リーディングを獲得し、その12カ月後にもリーディングに輝いた。この週末の活躍の後、彼が今年3回目のタイトルを獲得するというオッズは、低くなるだろう。
それでもなお、ソヴリンティのケンタッキーダービー勝利は、ゴドルフィンがどれほど変化したのかを物語っている。世界の主要競走のなかでも、「ラン・フォー・ザ・ローゼズ」は過去25年間、なかなか勝つことができなかった。
その当初、ゴドルフィンはドバイで調教した馬でこのレースの制覇を狙っていた。ケンタッキーに向かう馬には多くの期待が注がれたが、それは見当違いに終わった。
言ってみればそれは無理難題だった。シティーオブトロイが昨年のブリーダーズカップ・クラシックに挑戦して頓挫したように、ダートレースでは芝とはまったく異なる規律が要求される。UAEダービーを地味なメンバーを相手に勝つこととしても、チャーチルダウンズ競馬場で20頭もの強豪馬を相手にひたすら突っ走る喧騒とは別世界の話だ。メンデルスゾーンが2018年のUAEダービー(G2)を大差で圧勝し、ケンタッキーダービーでも勝てるのではという希望が生まれたときには、クールモア関係者でさえその夢に魅了されていた。(結果はケンタッキーダービー20着)
一方で、ゴドルフィンは自分たちの夢を実現させるため、アメリカのトップ調教師に目を向けた。そして、その夢はすぐに実現した。4年前のダービーはブラッド・コックス調教師のエッセンシャルクオリティが3着となったが、ビル・モット調教師が管理するゴドルフィンの自家生産馬ソヴリンティで悲願を達成した。
イギリスでも、ゴドルフィンには多くの楽しみがある。ジャスティファイ産駒がエプソム競馬場での800m距離延長に同じような活躍を見せるとは考えにくいものの、ルーリングコートの2000ギニー制覇はダービーへの完璧な足がかりとなった。
同馬の血統には複雑なメッセージが含まれているが、牝系は良血を引いており、その代表馬はほとんどがマイラーだった。中距離でもそのスピードを維持することができれば、本当に優れた馬ということになるだろう。
対照的に、もう一頭の管理馬シャドウオブライトは、ニューマーケットのラスト1ハロンで先頭に立ち、ルーリングコートの後塵を拝して3着となったが、スプリント路線を得意としそうだ。最後に追い抜かれたものの、ラスト400mから200mの間で見せた電光石火のスピードはトップクラスのスプリンターを感じさせた。
シャドウオブライトがセントジェームズパレスS(G1, 1,590m)への路線を歩むのであれば、彼が本当にマイルの距離をこなすことができるかが分かるだろう。もう少し慎重に騎乗されていれば2000ギニーを勝っていたという専門家いるが、昨シーズンのミドルパークS(G1, 1,200m)を制した後の関係者の言葉を思い出す価値はあるだろう。アップルビー師は「この馬の得意とする距離、つまりスプリント戦に専念する」と示唆した。いずれにせよ、シャドウオブライトは絶大な素質を持っており、大活躍が期待される。ブリーダーズカップ・マイルにはうってつけに見える。
平地レースの新シーズンが活気づいた週末、アップルビー調教師はまだエンジンの掛からないバリードイルに挑戦状を叩きつけた。しかしそれも、オブライエン調教師が次々とダービー候補を放つ中、この2週間ですべてが変わるかもしれない。しかし重要なのは、オブライエン調教師が今回ガリレオ産駒の隠れた能力のある若馬たちには頼れないということだ。最終的には、それがすべての違いを生むのかもしれない。
By Julian Muscat
[Racing Post 2025年5月5日
「Godolphin's triumphant Classic weekend proves that the phoenix has truly risen from the ashes of the Al Zarooni scandal」]