英国競馬は、同国でのサラブレッド生産頭数の急速な落ち込みが早急に解決されなければ、壊滅的な結果を招く可能性がある。
サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders Association: TBA)が発表したデータによると、生産頭数は予測を大幅に上回るペースで減少しており、2026年の生産頭数は、当初2051年まで到達しないと予想されていた水準まで急落する見込みである。
TBA会長のフィリップ・ニュートン氏は、対策が講じられない場合、賦課金や放映権料の減少、競馬場閉鎖の可能性など壊滅的な影響を及ぼすと警告した。
英国の生産頭数は、2008年の金融危機前に5,920頭に達したが、その後急激に減少した後、2022年には4,601頭に回復した。
2022年にコンサルティング会社PwCが実施した業界の経済影響調査では、2051年の年間生産頭数の推計値が、最悪の想定では2,719頭、最良の想定では3,730頭という結果が示され、中央値は3,263頭だった。
しかし、実際の減少は予想より速いペースで進んでいる。TBAは2024年の交配牝馬頭数に基づき、2025年の生産頭数を6%減と推計し、2026年にはさらに最低でも6%の減が見込まれている。
TBAの分析によると、2026年の生産頭数は3,447頭まで減少する可能性があり、これは2022年の数値から25%減となり、PwCが当初2051年に予測した最良の想定を既に下回る水準である。さらに、最悪の想定では2035年までに2,237頭を下回る水準まで減少する可能性があるとしている。
これは英国競馬界全体に重大な影響を与えるとニュートン氏は主張し、特に、これらの予測は保守的なものである可能性もあると指摘している。
これらの予測は2024年の傾向を基にしており、英国の生産者が現在直面している、国民保険拠出金の引き上げや最低賃金の上昇、相続税の変更などの重大な課題や経済的圧力を考慮していない。
ニュートン氏は次のように述べた。「この予測モデルは、2026年末までに生産頭数の25%が減少する可能性を示しています。これは単純計算で、競馬番組のうち25%が脅威にさらされることを意味します」
「このメッセージは広く伝えられる必要があります。全競馬場が脅威にさらされているからです。馬が減れば、競馬や競馬開催も減り、賦課金や放映権料も減少するでしょう」
「生産頭数の25%が失われれば、単純計算で、我々は全競馬場の75%しか支援できず、4分の1が閉鎖されることになります。下位25%の業績不振競馬場を選別するというわけにはいきません。生産界は全競馬場に馬を供給しているため、全競馬場を対象に考える必要があります」。
【小規模生産者は打撃を受けている】
TBAは昨年のセリに深刻な懸念を抱き、当該シーズンの詳細な分析を委託した。
その結果、2024年にセリに上場された1歳馬の29%しか利益を出せず、英国市場の上位5%が売上高の40%を占めたことが判明した。また、2024年に英国で牝馬を購入したトップ20のうち、種牡馬を供用している牧場は4分の1のみだった。
分析ではさらに、オーナーブリーダーは2020年に生産頭数の52%を所有していたが、2024年には40%に減少したことも明らかになった。
ニュートン氏は次のように述べた。「4頭中3頭以上が損失を計上している状況については本当に大幅な是正が必要です。既に行われた予測がかなり控えめであったと証明される可能性があるのです」。
ニューイングランド・スタッドの共同オーナーであるピーター・スタンレー氏は、この問題を「非常に重大」と表現した。
彼は次のように述べた。「私はかつて英ジョッキークラブの理事を務めており、常に強調していたのは、業界の存続を支援することの重要性でした」
「皆さんは見出しを読むのです - セールで700万ポンド(約1億3,650万円)、500万ポンド(約9,750万円)、200万ポンド(約3,900万円) - 活気ある業界のように見えますが、実際は下位50%の馬にとって価格はますます下がる一方で、生産コストが増加し続けています」
「残念ながら、こういった状況は小規模な生産者を打ちのめし、彼らは深刻な打撃を受け、多くが業界から撤退しました」。
ニュートン氏は、競馬開催を補うための馬の輸入を「一時的な対策」と表現し、長期的な選択肢ではないと指摘した。
他の地域でも生産頭数が減少している。アイルランド生産頭数の約60%は英国に競走馬として輸出されているが、昨年は2015年以来の最低水準に落ち込んだ
「私たちはあらゆる面で強固かつ持続可能な英国における生産を確立する必要があります」とニュートン氏は述べ、生産頭数4,000頭が「適切な数」だと主張した。
スタンレー氏は続けて「単に馬を買い付けてくればよいというわけではありません。一部の人々は単純に考えすぎです。私たちは自国で馬を生産する必要があるのです」と述べた。
BHA(英国競馬統括機関)の競馬担当理事であるリチャード・ウェイマン氏は、生産頭数減少は懸念すべき傾向であり、業界に問題を引き起こす可能性があると指摘した。
同氏は次のように述べた。「昨年、英国とアイルランドで生産頭数が大幅に減少したことは、非常に懸念しています。この世代が競走馬としてデビューする数年後、確実に影響は表れてくるでしょう」
「昨年の交配牝馬頭数に基づく予測を見ると、今年はさらに生産頭数が減少すると予想されており、他のほとんどの主要競馬国でも同様の傾向が見られることから、近い将来、馬の調達に問題が生じる可能性が高いと考えられます」。
【競馬場は「平均出走頭数の長期的な安定」に懸念】
競馬場協会(Racecourse Association: RCA))最高責任者のデビッド・アームストロング氏は、最近の落ち込みまでは出走頭数は健全な状態を維持していたと述べた一方で、今後問題が生じる可能性もあることを認めた。
「生産部門、特に障害競馬では、競走馬に育て上げるまでの期間が相当長いため、現在の調教馬数は健全に見えるかもしれませんが、5 年後もそうであるとは限りません。TBA はその点を懸念していると思います」と同氏は言う。
「現時点では、競馬場の閉鎖などについてはまったく考えていませんが、例えば平均出走頭数の長期的な安定については懸念があります。それが賭事、競馬場の経営、その他あらゆる面においていかに重要かは、私たちもよく理解しています。短期的から中期的には、その点が私の懸念です」と述べている。
英国産牝馬の繁殖、購入もしくは出走に対して奨励を行い、報奨を与える「グレート・ブリティッシュ・ボーナス」などの取り組みは、ポジティブな効果をもたらしている。しかしニュートン氏は、英国の生産界は転換点に差し掛かっていると見ている。
「その答えは、TBA も明確に表明しているとおり、賞金の増額によって底上げができるというものです」と、英国競馬における新たな価値を見出し、開発することを目的とした業界横断プロジェクト「プロジェクトペース(Project Pace)」を率いるニュートン氏は付言した。
「どこからでも魔法のように解決できると期待しても意味はありません。変革をもたらす資金調達を見つけるためには、今あるものに対して抜本的な改革を行う必要があります」
ウェイマン氏は、世界的な経済動向と最近になって適用された相続税に関する変更、最低賃金の引き上げが厳しい背景を生み出していると指摘した。そして、BHAがTBAを含む関係者と「将来にわたって十分な競走馬を確保するため」に協力し、生産者と馬主を支援する方法を模索していると強調した。
また、次のように述べた。「その目標を達成するための単一の解決策があるかは疑問ですが、直近のグレート・ブリティッシュ・ボーナスを通じて、慎重にターゲットを絞った投資が前向きな影響をもたらしうることが分かりました。」
「長期的に強固な英国競馬と生産界を支えるため、複数の分野でさらに踏み込んだ行動を取ることは不可欠です」。
ニュートン氏は、業界全体が直面する問題の深刻さを認識しており、解決策を探る努力をしていくということで一致しているとした。
「手をこまねいてはいられない」と彼は述べた。
「問題は現実であり、今まさに起こっているのです」「業界を離れる生産者が増えるなかで、競馬業界全体の問題である資金調達と財政状況の問題が解決されるまで、生産者が仕事を続けるための投資を提供する必要があります。」。
By Bill Barber
(1ポンド=約195円)
[Racing Post 2025年5月5日
「'The problem is real, the problem is now' - the foal crops crisis that could have disastrous consequences」]