海外競馬情報 2023年09月21日 - No.9 - 1
プリークネス日程変更以上の大問題に悩むメリーランド競馬(アメリカ)【開催・運営】

 ファーストレーシング社(1/ST Racing)はプリークネスS(G1)の日程を変更したいのかもしれない。しかし、同社のCEOエイダン・バトラー氏が公に向けて行ったコメントがメリーランド州や三冠競走の主要関係者たちの心を動かすことはなかった。
 バトラー氏は三冠競走の二冠目であるプリークネスSの日程を、これまでのケンタッキーダービー(G1)の2週間後ではなく4週間後に変更したいという意向を示してきた。このような日程変更は、三冠目のベルモントS(G1)にも影響を与えるだろう。ベルモントSは従来プリークネスSの3週間後に施行されており、それはダービーの5週間後にあたる。
 サラブレッド・デイリー・ニュース(8月9日付)はバトラー氏の次のような発言を報じている。「社内で議論した結果、プリークネスSをケンタッキーダービーの4週間後に移動させることが、競走馬とその安全にとって最善策であると考えています。そうすれば馬はダービーの疲れからゆっくり回復でき、プリークネスSに出走できるようになるでしょう。伝統よりも馬の安全のほうが大切です。NYRA(ニューヨーク競馬協会)はこの変更がベルモントSにどのような影響を与えるかを認識しており検討しています。続報がありましたらお伝えします」。
 公に向けたこのような発言は、控えめに言ってもプリークネスSおよび三冠競走の関係者の不意を突き、支持を得られなかった。このような発言が出たことに頭を抱える関係者もいる。現在、メリーランド州の競馬の将来が流動的な状態にあり、これから数年間、誰がメリーランド州の競馬場を運営していくのかが不透明な状況にあるからだ。ひきつづきファーストレーシング社(ストロナックグループ)が運営していくのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
 背景として、2020年のメリーランド州議会によるローレルパーク競馬場とピムリコ競馬場の再開発計画の承認がある。これら2つの競馬場は、ファーストレーシング社によりメリーランドジョッキークラブ(MJC)を通じて所有されている。再開発計画では、ローレルパーク競馬場に新設される施設において、競馬は統合されてほぼ通年で施行されることになっていた。ピムリコ競馬場も商業再開発地区およびプリークネスSの開催地として再建される予定だった。費用は3億7,500万ドル(約543億7,500万円)と見積もられ、再開発計画を監督するメリーランド・スタジアム機構(Maryland Stadium Authority)が債券を発行して賄われるかたちだった。
 債券の債務返済は業界ファンドにより行われる予定だったが、新型コロナ・インフレ・金利上昇のほかに重大な税金問題などがローレルの資産価値に影響を及ぼし、再開発計画は停滞していた。
 その結果、6月1日に発足したサラブレッド競馬場運営委員会(Thoroughbred Racetrack Operating Authority:TROA)が、再開発計画を蘇生させ、今後4年間のメリーランド州での競馬の指針を示すことになった。TROAには、州内の競馬・調教用候補地を特定する報告書をウェス・ムーア州知事とメリーランド州議会に12月1日までに提出する任務が課せられている。
 ありうるシナリオとして浮上しているのは、ローレルパークではなくピムリコにおいて競馬が統合されて施行されるというものだ。ピムリコの厩舎地区の規模はそれを実現できるほど大きくないため、調教センターが建設される。
 TROAの業務内容のひとつとして、また州内での議論に基づいて、ファーストレーシング社がメリーランド州の競馬場運営に引き続き関与するかどうかについては協議中である。
 これらすべての要因から、三冠競走の日程変更が再開発計画にどのような影響を及ぼすかについて懸念されている。
 TROAのメンバーでありメリーランド州サラブレッド・ホースメン協会(Maryland Thoroughbred Horsemen's Association:MTHA)の顧問を長年務めるアラン・フォアマン氏はこう語った。「メリーランド州の様相が変わるかもしれず、現在調査が行われています。再開発計画が進めばメリーランド競馬は激変するでしょう。すべてはプリークネスSのために、またこのレースがピムリコを舞台とし続けるために行われています。それが再開発計画全体の原動力になっているのです。ローレルパークにプリークネスSを移して競馬を統合しピムリコを閉鎖するようファーストレーシング社が提案したことに起因しています」。
 ピムリコとローレルパークの運命が宙ぶらりんになった状況で、バトラー氏のあの発言のタイミングと妥当性について疑問が投げかけてられている。それは、三冠競走の二冠目であるプリークネスSの日程(ケンタッキーダービーの2週間後・ベルモントSの3週間前)を変更するというものだ。
 フォアマン氏はこう続けた。「メリーランド州では誰一人としてあの発言について相談されていません。ホースメン協会も生産者も州も、何も聞かされていなかったのです。この日程変更はプリークネスSと三冠競走全体だけでなく、再開発計画にも影響を及ぼす可能性があります」。
 メリーランド州サラブレッド・ホースメン協会(MTHA)の会長を務めるティム・キーフ調教師も、長期にわたって主要関係者のあいだで非公式に議論されてきたテーマが突如として公の場で物議をかもしたことで不意をつかれた一人である。
 「私たちに連絡はありませんでしたね。読んで初めて知ったのです。何も相談されませんでした。驚きましたね。あのような発言をするのであれば、ここメリーランド州、そしてケンタッキー州やニューヨーク州といった地域の競馬界のリーダーたちともっと協議すべきだと思いますよね」。
 ファーストレーシング社やメリーランドジョッキークラブとの交渉はストレスのたまるものだが、これがその最新の例だと、キーフ調教師は述べた。
 「彼らのやることの典型ですね。勝手に意向を発表し、自分たちにとって一番利益になるだろうと内心で思っていることをやるのです。残念なことです。驚きはしましたが、そんなものだと思います。がっかりさせられました。時々、疑わしいことがあっても好意的に解釈しようとします。彼らは自分たちのしていることを本当はよく考えていて、彼らの決断には何らかの根拠があるのだろうと思おうとするのです。しかし多くの場合、彼らの意思決定には何の考えも根拠もないというのが現実なのです」。
 信頼できる情報筋は、NYRAにとってバトラー氏の発言は "青天の霹靂"だったと語っている。NYRAはこのコメントに納得がいかなかったようであり、発言から2週間が経っても、この件についてファーストレーシング社と議論していない。
 NYRAのコミュニケ―ション担当副社長であるマット・マッケナ氏は、「NYRAは三冠競走の構成を土台から変えることに懸念を抱いています。ベルモントSの日程を変更するという計画はありません」と述べた。
 バトラー氏はこれらの反応についてあらゆる方面からコメントを求められているが、回答を拒否している。
 NYRAがベルモントSの日程をそのままにした場合、2週間先送りにされたプリークネスSはベルモントSの1週間前に施行されることになるため、プリークネスSの日程変更は無意味なものとなるか、三冠競走を破壊するものになってしまう。
 近年、プリークネスS(約1900m)はダービー出走馬を引き付けるのに苦労している。
 今年のケンタッキーダービー優勝馬メイジはダービーの出走馬の中で唯一プリークネスSに駒を進めた。昨年は単勝81倍でケンタッキーダービーを制したリッチストライクがプリークネスSをスキップしたが、2着のエピセンターを含む3頭のダービー出走馬がプリークネスSに出走した。
 2021年には3頭のダービー出走馬がプリークネスSに出走したが、その中にはダービーの1位入線馬メディーナスピリットが含まれていた。
 ここ最近でダービーの1着&2着馬がプリークネスSで再戦を果たしたのは2018年である。最終的に三冠馬となるジャスティファイとダービー2着馬グッドマジックが対決したのだ。2017年にも同じシナリオが展開された。
 しかし1~2週間の猶予を与えたところで、プリークネスSがどれだけ多くの出走馬を引き付けられるかについては議論の余地がある。ケンタッキーダービー出走馬が三冠目のベルモントSまで出走しなかったり、三冠戦線から脱落したりする理由として、中1週というレース間隔が槍玉にあげられるが、3歳馬の関係者が晩春から夏にかけて高額賞金レースを選ぶこともまた、プリークネス回避の大きな要因となっているのだ。
 キーフ調教師は「1~2週間遅らせたところで何も変わらないでしょう」と述べる。
 フォアマン氏も、わずか一握りのダービー出走馬だけしか総賞金150万ドル(約2億1,750万円)のプリークネスSに挑戦しないのはタイミングだけが理由ではないことに同意した。
 フォアマン氏はこう続けた。「この議論は、視聴率に対するテレビ局の懸念によって影響される部分もあります。レースに関していえば、大半のダービー出走馬はプリークネスに出走登録されていませんし、日程が変更されてもそれは変わらないでしょう。現在は選択肢が多すぎるのです。それに入場者数・ほかのスポーツとの兼ね合い・視聴率に対する懸念から、三冠競走を7月に移動させることに消極的なのです」。
 また、ダービー出走馬が2週後のプリークネスSに出走することで悪影響を被ることを示す統計データもない。
 プリークネスS開催日の発売金は通常、ケンタッキーダービー開催日やベルモントS開催日よりも少ない。ほかの2つの開催日の競馬番組の内容が以下のとおり強力なのだ。

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 おそらくファーストレーシング社はプリークネスSの前座レースにもっとスターホースを連れてきて、最終的に格を上げていくチャンスを見いだそうしているのだろう。しかしそのような努力は、メトロポリタンH(G1)・オグデンフィップスS(G1)・マンハッタンS(芝G1)といったベルモントSの前座レースにトップホースを引き付けているNYRAと協力して行わなければならないようだ。
 プリークネスSはピムリコ競馬場が老朽化していることでも困難に直面している。グランドスタンドの一部は使用不適と宣告され立入禁止となっている。ブラックアイドスーザンデー(プリークネスS前日の金曜日)とプリークネスS開催日を合わせた入場者数は2019年に18万2,000人だったのに対し、今年は6万5,000人にとどまった。
 フォアマン氏は、「以前から言われているように、現在競馬界には多くの問題がありますが、三冠競走の日程調整はその中には入っていません。現在のフォーマットで三冠を達成するのは並外れた偉業であり、それこそが三冠競走を特別なものにしているのです。このような劇的な変更を決断する前に、慎重に行動すべきです」と締めくくった。

By Bob Ehalt
(1ドル=約145円)

[bloodhorse.com 2023年8月22日「Key Players Surprised, Unmoved About Preakness Comments」]