海外競馬情報 2023年07月20日 - No.7 - 2
中国への馬輸出再開で豪州生産界の期待が高まる(オーストラリア)【生産】

 中国本土への豪州産サラブレッドの輸出が8月に再開されることになった。中国が4年前に課した事実上の輸入制限措置が解除されたのだ。

 豪州から中国への馬の輸入許可は、2019年にスコット・モリソン政権下で二国間の関係が急激に悪化する中で停止された。

 大麦やワインをはじめとする豪州産品への輸入制限措置が大々的に発表された一方で、サラブレッドへの輸入制限措置はひっそりと実施され、経験豊富な輸入業者であっても中国当局により申請を却下された。

 しかしアンソニー・アルバニージー政権下で二国間の関係が大幅に改善される中、北京はサラブレッドの輸入がふたたび可能になったことを確認した。

 レーシングオーストラリア・ファクトブック(Racing Australia Fact Book)の数字によれば、中国本土に競馬の礎を築くという最新の試みを通じて、豪州から中国へのサラブレッド輸出は2012-13年に106頭だったのが2016-17年には261頭に増加した。二国間の関係が凍り始めた2018-19年には88頭に減少し、過去3シーズンは0頭だった。
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 これは対中貿易総額のほんのわずかに過ぎない。しかしシンガポールが2024年10月に競馬を廃止すると発表した直後だけに、今回の輸入制限措置の解除は豪州の生産者にとってありがたいものとなる。

 輸入制限措置が出される前の6シーズンにおいて、中国へのサラブレッド輸出はシンガポールへの輸出に迫る勢いだった。そのうちの1シーズンについてはシンガポールの202頭に対して中国の方が261頭を輸入し、かなり上回っていた。

 オーストラリア・サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders Australia : TBA)は2022年5月にアルバニージー政権が誕生した直後から、この輸入制限措置を解除するようロビー活動を続けてきた。そして7月初旬にキャンベラから、中国当局が輸入許可をふたたび発行したとの正式な通知を受け取ったという。

 TBAのCEOであるトム・ライリー氏は、この問題の解決に取り組んだドン・ファレル貿易相とハンターバレー地区選出のメリル・スワンソン議員に感謝の意を表明した。

 ライリー氏は本紙(ANZブラッドストックニュース)に対してこう語った。「極めて前向きな展開です。この分野に尽力してくださったドン・ファレル大臣とメリル・スワンソン議員には大変感謝しています」。

 「過去4年ほどのあいだ中国との貿易が途絶えたことで、多くの産業が打撃を受けました。ドルベースでもっと高価なものもありましたが、中国人購買者がサラブレッド市場で重要な役割を担っていることを私たちは知っています。だから彼らが戻って来て、馬を中国に連れて帰ることができると認識し、信頼を持って購買してくれることが重要なのです」。

 「政府がかなり広範にわたる議論の中に馬を含めることができたことを嬉しく思っています」。

 正式な確認が取れたのは7月初旬になってからだが、再開1回目の輸出(8月予定)には、5月にマジックミリオンズ社の3つのセールで4人の中国人購買者が落札した18頭が含まれる。彼らは禁止措置の解除が迫っていることを知って購買を行ったと考えられている。

 この18頭には1万~7万豪ドル(約95万~665万円)で落札された5頭の繁殖牝馬と、マジックミリオンズ社ナショナル1歳セールで落札された3,000~10万豪ドル(約29万~950万円)の11頭が含まれる。これらの1歳馬の平均価格は3万1,000豪ドル(約295万円)であり、10万豪ドルの値がついたのは、グランドビュースタッド(クイーンズランド州)が上場したズーザイン(Zousain)の牡駒である。

 マジックミリオンズ社はこのニュースを歓迎した。彼らも数ヵ月前から禁止措置の解除を示唆する憶測を耳にしていたようだ。

 マジックミリオンズ社のセリ担当理事であるデヴィッド・チェスター氏はこう語った。「シンガポール競馬が終焉を迎えるので、これはありがたいことです。シンガポールは市場にぽっかりと大きな穴をあけることになるでしょう。それを補うために新しい市場を見つけなければならないのです」。

 「中国は今のところ大きな市場ではありませんが、重要なのです。願わくは5年後、10年後、15年後に成長し、私たちにとって最大の市場の1つとなることを期待しています。かつてジェリー・ハーヴェイ氏は、1997年にマジックミリオンズ社を購入した理由の1つは、いつか中国が巨大な競馬国になると考えていたからだと語っていました。だから彼の頭の片隅にはいつもそのことがあったのです」。

 中国競馬の再興に向けた最新の動きの中心にあるのは、2008年に玉龍の億万長者である張月勝氏が玉龍ジョッキークラブを設立したことと、同時期の武漢競馬場における競馬再開である。中国では1949年に毛沢東の共産党政権が誕生して以来競馬は禁止されていた。

 玉龍ジョッキークラブは、北京の西500キロに位置し、張氏のかつての故郷である内モンゴル自治区に近い右玉(Youyu 山西省)を本拠地としている。現役馬が500頭ほどいて、18人の調教師がそれらの馬を管理している。レースは夏に開催される。生産部門には繁殖牝馬200頭と種牡馬5頭がいると報告されている。

 豪州に対する輸入制限措置を受け、張氏は中国に輸入する馬を欧州で購買するようになった。

 イングリス社の生産事業担当社長であるジョナサン・ダーシー氏は、輸入制限措置の解除を「中国本土の馬主と豪州のサラブレッド産業にとって素晴らしいニュース」と評した。

 ダーシー氏は声明においてこう述べている。「豪州産馬は玉龍競馬場や武漢競馬場で勝利を収めてきたこと、そして香港という競馬の本場で優勢を誇っていることから、中国で高く評価されています」。

 「イングリス社は玉龍ジョッキークラブの創設当初からのスポンサーであり、現在も同クラブとの強い関係性を育んでいるのです。このニュースは中国の地方における馬産業の発展に寄与するでしょう。中国に輸出するのに適した馬を生産する豪州の多くの生産者を支援することになります」。

 「馬輸出市場としてのシンガポールの終焉が差し迫っており、中国本土からの購買者がブリーズアップセールなどの市場で空いた穴を埋めてくれることが期待されます。輸入制限措置が取られる2019年以前には、イングリス社は当歳馬や1歳馬のセールやレディ・トゥ・レース・セール(Ready2Race sale)に中国からの多くの個人購買者を迎えました」。

 「今週、イングリス・アジア社の代表であるジン・ティエン(Jin Tian)氏が玉龍に滞在しています。そして中国人購買者たちが厩舎に連れて帰るために豪州産馬にふたたび食指を動かしているという前向きな報告を受けています」。

 このニュースは豪州で出走させるために1歳馬を購買する資金力のある中国人購買者が再度増えるきっかけにもなると期待されている。

 ライリー氏はこう語った。「多くの中国人購買者は低価格帯の馬を積極的に購買していました。一方、かなり高額の購買ができる人たちもいましたが、ここ数年は遠ざかってしまっていたようです」。

 「まずまずの価格で馬を購買して、豪州で成績が上がらないのであれば、中国に連れて帰れば良いという考えだったのです。だからその方法がふたたび可能になった今、いっそう多くの中国人購買者や彼らのエージェントがここで馬を買うようになることを期待しています」。

 サム・フェアグレイ氏もこの意見に賛同した。彼は1歳馬の売り手であると同時に玉龍の豪州での事業のCEOを務めており、2つの陣営に足を踏み入れている。

 「間違いなくいいことですね。輸出が停止となる前に、かなりの頭数が中国に渡っていました。今後おそらく、ふたたび中国へ多くの馬を輸出しだすようになるでしょう」。

 「中国人購買者に対して市場を開放することになるという面でも素晴らしいことです。かなり多くの人々がここに戻りはじめています。今では、彼らは馬を中国に連れて帰れることを知っています。そうした動きによっても、次第に市場が活性化していく様子を目の当たりにするだろうと考えます」。

 アローフィールドスタッドのジョン・メッサーラ会長をはじめとする豪州の生産者たちは、この解禁を歓迎している。

 メッサーラ会長は、「シンガポール競馬の終焉は言うまでもなく残念ですが、中国が豪州から馬をふたたび受け入れるかもしれないというニュースは心強いものです。長期的にはかなり重要なことの始まりになるかもしれません」と語った。

 ヴァイナリースタッドの生産マネージャーであるアダム・ホワイト氏はこう述べる。「輸出先がもうひとつあるということで、前向きなこととして見ています。シンガポール競馬の終焉は今年半ばに私たちの業界に衝撃を与えました。中国が市場に戻ってきたことで勢いがつき、将来的にその恩恵を受けることができればいいのですが」。

 ヤラマンパークスタッドのアーサー・ミッチェル場長はこう語る。「シンガポールを失ってしまったので、どのようなものであっても市場が開かれるのは朗報です。中国は可能性を秘めています。どれほど成長していくか分かりませんが、間違いなくこれは出発点となります」。

 マジックミリオンズ社のチェスター氏は輸入制限措置が解除された今、豪州政府は中国に対してヘンドラウイルス(Hendra virus)のワクチン接種馬の輸入禁止措置を解除するように働きかけるべきだと付け加えた。

 「この措置は中国人購買者にとって悩ましいものになっています。なぜなら落札できる頭数が減ってしまうからです。豪州政府とオズホース(Aushorse)が取り組むべき問題です」。

By Trevor Marshallsea

[Racing Post 2023年7月7日「'Definitely a good thing' - boost for Australian bloodstock industry after China lifts tacit ban」]