海外競馬情報 2022年07月21日 - No.7 - 2
新たな打撃を受け絶滅の危機に晒される豪州障害競走(オーストラリア)【開催・運営】

 南オーストラリア州でこのさき障害競走が施行される予定がないというニュースにより、豪州障害競馬界は新たに大打撃を受けた。同州は強硬な動物愛護団体による長年の抗議活動にもかかわらず、障害競走を実施し続けていた2州のうちの1つである。

 数ヵ月に及ぶ最高裁判所での争い、以前同じ理念のために働いていた者たちの激しい内輪もめ、さらには匿名の殺害予告の末、オークバンク競馬場の障害競走はついに終焉を迎えたようだ。この競馬場は、かつて7万人もの観衆を集めた世界で最も人気のある障害競走の1つ、グレートイースタン・スティープルチェイス競走の開催地である。

 ヴィクトリア州では5月のウォーナンブール・グランドアニュアル・カーニバル(3日間)が過去最多の観客を集めるなど、最近復活の兆しがあったにもかかわらず、かつて隆盛を誇った豪州障害競馬界は今では見る影もない。実際のところ、来シーズンはわずか66レースしか予定されておらず、20年ほど前に比べると大幅に減少しており、障害競走の本場である欧州と比べると微々たるものである。

 南オーストラリア州の競馬統括機関は2021年10月、障害競走を競馬番組から外す動きに出た。この行動は約150年続いた伝統を直ちに終了させるように思われた。しかし特にヴィクトリア州で障害競走が復活を遂げているときに、南オーストラリア州の障害競走のロビイストたちが争いもせずに負けることはなかった。

 だが、今や熾烈な争いに敗れてしまったようだ。

 現在、ヴィクトリア州は豪州で唯一障害競走を施行している州である。ニューサウスウェールズ州は1941年に最後となるハードル競走を実施し、1997年に障害競走を法的に禁止した。一方タスマニア州は2007年初めに予期しない形で障害競走の即時中止を命じて、障害競馬界に大きな衝撃を与えた。

 今もなおヴィクトリア州の競馬番組に障害競走は組み込まれている。その中には総賞金35万豪ドル(約3,325万円)のグランドアニュアル・スティープルチェイス(ウォーナンブール)のほか、グランドナショナル・ハードル(サンダウン)やグランドナショナル・スティープルチェイス(バララット)のような伝統的なレースが含まれているが、全体的なレース数は障害競馬界が以前の栄光に必死にしがみつこうとしている実態を物語るものとになっている。

 公表されているところによると、2019年に豪州全土で障害競走93レースが施行され257頭(実頭数)が出走したが、以後も障害競走数はさらに減少している。それに対し、2019年に英国では3,719レースが施行され8,743頭が出走し、アイルランドでは1,424レースが施行され5,025頭が出走した。

 南オーストラリア州の最近の動きはこれらの減少しつつある障害競走数をさらに脅かしている。オークバンク・レーシングクラブ(ORC)が5~6頭立てのハードル競走とスティープル競走が観客を引き付けにくく関心も低下していることを認め変革の必要性を受け入れたそのときに、闘いの火ぶたが切られることとなった。ORCにとってこの決定はもはや自らの手を離れたものだったのだが、とにかく大混乱が生じることになった。
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 障害競走のロビイストたちは、ORCが偉大な伝統と今もなお障害部門に携わる競馬関係者に背を向けたと主張した。ORCはそれに対し、「この決定を下したのはORCではなく、争うことは無駄であり、平地競走だけの競馬番組を実施するのが一番妥当である」と異議を唱えた。最近の判決が下されるまでの間には、オークバンク競馬場で約18レースからなるイースターカーニバル(2日間)が開催され、その中にはハードル競走とスティープル競走が2レースずつ含まれていた。

 双方は8ヵ月にわたって法廷で争い、「ORC委員会を解散させ、各メンバーに判断を仰ぐこと」が最善の選択であると最終的に合意した。

 そして6月10日(金)の凍るような冬の夜、オークバンク競馬場(アデレードヒルズ)で臨時総会が開かれた。メンバーによる投票の結果、圧倒的多数で委員会は支持され実質上の不信任を求める動きは拒絶されたのである。つまり、南オーストラリア州の障害競走は終焉した。

 新たな委員構成をみると、ORC委員会は競馬統括機関により事実上両手を縛られることになり障害競走の存続が議論される望みはほぼなくなった。9つの空席が競われ、元委員の1人は立候補していなかった。再び立候補した8人のメンバーはすべて再選された。議長のアラベラ・ブランソン氏は続投し、クリス・ディトマー氏、ジェームズ・ジョーダン氏、バーニー・ガスク氏、ジョン・ルイス氏、スティーヴン・チャールトン氏、アンドリュー・ワトソン氏、トレント・ショートランド氏に加え、ギャリー・コリス氏が唯一の新メンバーとして委員会に加わることになる。

 独立監査法人ウィリアム・バックが監督した投票の結果を読み上げた後、臨時総会の議長であるティム・アンダーソン弁護士は会議を終了させようとしていた。そのとき障害競走のロビイストたちが意見を聞くように要求した。アンダーソン弁護士は、障害競走のロビイストのリーダーであるフランシス・ネルソン弁護士(元レーシングSA会長)が唱える投票の正当性に対する疑義について聴取を行うことにしぶしぶ同意した。

 ネルソン氏は、同じく抗議を行ったORCの元会長ジョン・グラッツ氏とともにこの異議申し立てを先導した。投票プロセスを非難し、臨時総会が"失敗だった"と主張したのだ。

 ネルソン氏は、「終身メンバーなど数人のメンバーが投票用紙を受け取っていないことについて、監査役や新しい委員会は説明できますか?この総会は失敗しました。メンバーは投票するという民主的権利を行使できませんでした。これで終わりにはならないでしょう」と述べた。

 再選を果たしたブランソン氏は、ORCの将来にとってこの投票は勝利だと語った。「この投票により、正しい方向に向かっているというお墨付きが与えられました。活気に満ち、存続できる、現代的なレーシングクラブを運営する仕事に取り掛かりましょう」。

 ブランソン氏は、自分たちが決めていないことで委員会の存続をかけ争うことになったのは実にもどかしかったと述べた。そして裁判のための費用はORCの財政に"多大な損害を与えた"と主張した。

 「委員会メンバーは、一部の方が経験したような罵詈雑言の対象となる事を避けながら、ORCを通じ最善の結果をひたすら実現しようとしていたわけですが、本当に辛い思いをしました」。

 「ORCには昨年10月から法律顧問が入っており、それに加えて監査費用はちゃんと公表されています。相手側は、監査法人に投票手続きを引き受けてもらうことが最も透明性があって公正な方法であるということに合意しています。この手続きは、ORC側と相手側の弁護士が交渉した和解文書に明確に記載されており、不正行為があったとする批判はまったくの誤りです」。

 「彼らは事実をよく認識しているはずなのに、まったくがっかりするような反応をしました。投票を実施した非常に専門的で評判の高い監査法人をかなり侮辱していると思います」。

 その議論に加え、ウォーナンブールレーシングクラブがメンバーたちに対してORCに入会して障害競走に好意的な委員会を承認するように依頼するEメールを送信したことが物議を醸した。南オーストラリア州の障害競走を支援しようとしたのだ。Eメールには、障害競走に好意的な委員会が承認された場合、メンバー資格をさらに1年延長するという約束も含まれていた。これは南オーストラリア州とヴィクトリア州のいずれの競馬統括機関からも強い批判を受けた。

 レーシングヴィクトリアは、ヴィクトリア州のレースクラブが南オーストラリア州のレースクラブの委員会の選挙の結果に影響を与えようとしてメンバーに働きかけるのは"まったく不適切である"と述べた。また、レーシングSAはこの行為を"道義的に許しがたい"と表現した。

 このオークバンクの争いは南オーストラリア州内外の競馬関係者の分断を引き起こした。そして、それは「horseracingkills.com」というウェブサイトを運営する競走馬保護連合(Coalition for the Protection of Racehorses)が率いる反競馬団体に格好の餌を与えた。

 競走馬保護連合は究極的には競馬を廃止しようとしており、今年は障害競走が施行されなかったにもかかわらず、オークバンクで抗議活動を行っていた。不要かつ残酷な行為と主張する舌縛りの廃止を訴えていたのである。

 現在、競馬界はオークバンク自体が障害競走の終焉に果たした役割についてしきりに議論をしているが、また別の犠牲者も彼らは生み出してしまったようだ。

By Shane McNally

(1豪ドル=約95円)

[Thoroughbred Racing Commentary 2022年6月26日「Endangered species? Body blow for Aussie jumping as obstacles are removed at famous racing club」]