海外競馬情報 2022年05月23日 - No.5 - 5
ヨシダがサンデーサイレンスのサイアーラインを取り戻す(アメリカ)【生産】

 北米の傑出したサラブレッド生産者の多くは、吉田ファミリーをはじめとする日本の生産者たちが20年以上にわたって世界最高級の繁殖牝馬、もしくは将来有望な繁殖牝馬を集めてきたことに注目してきた。そしてその優良馬が競馬場に衝撃波をもたらすのを待っていた。

 その衝撃波の最先端は2021年のブリーダーズカップ開催に到達した。日本で生産されて調教されたマルシュロレーヌがBCディスタフ(G1)を、ラヴズオンリーユーがBCフィリー&メアターフ(芝G1)を制したのである。

 日本勢の世界最高峰級レースへの最近の進撃は実際のところ、1990年から始まっている。この年、北海道の社台ファームは米国二冠馬サンデーサイレンス(父ヘイロー)を獲得したのだ。サンデーサイレンスは1995年から2007年までサイアーランキングの首位に君臨し、日本で最も偉大な種牡馬となった。彼は2002年にこの世を去ったが、その影響は産駒のディープインパクト、ハーツクライ、ステイゴールド、アグネスタキオン、ゴールドアリュール、ダイワメジャーなどを通じて今も強く残っている

 「ナスルーラがボールドルーラーを送り出して世界のサラブレッド生産の首都を欧州から米国に変えたように、1頭の種牡馬が世界を変えられるのです。日本のサラブレッド産業にとって、サンデーサイレンスはまさにそのような種牡馬です」と、サンデーサイレンスの死をうけて吉田照哉氏は『トレーナーマガジン』に語っている。

 創業者吉田善哉氏のビジョンに導かれ、吉田ファミリーは馬の質に焦点を当ててきた。1989年以来キーンランド協会とファシグ・ティプトン社のセリで繁殖牝馬や将来の繁殖牝馬候補を購買するためにおよそ1億9,800万ドルを費やした。購買馬の中には2002年の年度代表馬アゼリ、G1馬のコンテスティッド、ヒルダズパッション、インランジェリー、シャンパンドーロ、ザズーなど多くの優秀な競走馬がいた。最近では2020年プリークネスS(G1)優勝馬スイススカイダイバーを獲得した。

 日本の血統が強化されていることを認識したウィンスターファームのCEO兼社長のエリオット・ウォルデン氏と、1998年に社台で働いた経験のあるSFブラッドストック社のトム・ライアン氏は、2015年に日本競走馬協会(JRHA)のセレクトセール(1歳・当歳)に購買しに行く必要があると判断した。

 ウォルデン氏は「新たな産駒を連れて帰るきっかけがないかなと思っていました。うまくいけば、まず国際的なサンデーサイレンス系のG1馬が出てきて、日本のセリで注目される馬を購買し、サンデーサイレンスの血を取り戻すことができるでしょう」と語った。

 ウォルデン氏とライアン氏は購買旅行で合計170万9,681ドル(約2億2,226万円)を支出し5頭を購買した。1歳のエンパイアメーカー牡駒2頭とハーツクライ牡駒1頭、そして当歳馬2頭(ステイゴールド牡駒とエンパイアメーカー牡駒)である。一番の高額を支払ったのは米国のG1馬でコースレコードを保持するヒルダズパッションを母とするハーツクライ牡駒であり、9,400万円で購買した。この牡駒は吉田勝己氏のノーザンファームで生産された。

 「このハーツクライ牡駒をターゲットと見なしていました。とても美しい馬なので、ぴったりだと思っていました。母はサラトガ競馬場でG1を制したヒルダズパッションであり、ダートに向いたファミリー(牝系)であり、バランスもよくとれていました。トムと私は予算を少し超えてしまったもののそのまま購買を続けました。日本は賞金が高いので、購買するのが大変でした。20万~100万ドル(約2,600万~1億3,000万円)の馬は引く手あまたでした」。

 ライアン氏は日本の馬の質の高さを痛感しながらも、北米で活躍できる馬を探さなければならなかったと述べた。

 「血統の完璧なブレンドを見つけることが最も大きなハードルでした。日本の伝統的な競走距離2400mに能力が限定されない馬を探しました。ハーツクライはすでに優秀な種牡馬でした。ヒルダズパッションは早くにダートで実力を発揮してきたG1馬です。それに優勝したレースの平均距離は6.5ハロン(約1300m)でした」。

 このハーツクライの牡駒はG1・2勝馬ヨシダへと成長した。ウィンスターファームが当初チャイナホースクラブとともにこの馬を出走させ、後にヘッドオブプレーンズパートナーズ社が加わった。ビル・モット調教師に手掛けられ、3歳シーズンの2戦目、ジェームズWマーフィーS(芝 ピムリコ)を制してステークス勝馬となった。その後、2つの重賞で3着内に入り、ヒルプリンスS(芝G3 ベルモントパーク)で初の重賞制覇を果たした。4歳シーズンにはオールドフォレスターターフクラシック(芝G1 チャーチルダウンズ)を制して初のG1勝利を達成した。

 ヨシダは芝で頻繁に勝利を収めていたものの、ウォルデン氏とモット調教師はしばしばダート挑戦について話していた。

 「成功を収めているときに路線変更するのは難しいこともあります。しかしビルと私はそれについて何度も話していたのです。そうこうしていて、たまたま、初めてのダート戦となったウッドワードS(G1)をヨシダが制してしまったのです」とウォルデン氏は語った。

 サラトガ競馬場の本馬場1⅛マイル(約1800m)で施行された2018年ウッドワードSの前半、ヨシダとジョエル・ロザリオ騎手は好機が訪れるのを待っていた。直線入口で大外を回り、直線半ばに差し掛かると先頭に立っていたレオフリック(Leofric)と追走していたラリークライ(Rally Cry)を撃退しにかかった。終盤にガンナヴェラ(Gunnevera)が追い込んできたが、ヨシダはこれを振り切りゴールで2馬身差をつけて勝利した。

 ウォルデン氏はこう語った。「信じられないようなレースをしましたが、彼がダートのG1競走で勝ったことに驚きはありませんでした。日本馬は世界中でダートでも芝でも勝利を収めているのです。ブリーダーズカップ開催でもドバイでもそのような光景を見ました。日本馬は侮れない力をもっており、その多くの血統をさかのぼれば偉大な競走馬だったサンデーサイレンスがいると考えられます」。

 またライアン氏は、2015年の日本のセレクトセールでヨシダが発散していたただならぬオーラが証明されたことに感動していると述べた。

 「理論上は筋が通っています。サンデーサイレンスの輝かしい血統と、サラトガでG1を制した馬の抜群のスピードを米国に再導入できました。ヨシダは豊かな土地で効果的な方法で育てられていました。この馬がどのような馬になるか想像する必要はありませんでした。堂々とした1歳馬で、時間とともにG1・2勝馬に成長しました」。

 ヨシダは2020年にウィンスターファームで供用され、種付料2万ドル(約260万円)で148頭に種付けを行った。今年1歳となる初年度産駒にはしっかりとした馬格と精神的な強さが受け継がれていると、ウォルデン氏は語った。

 「最も印象深いのは産駒の強さです。ヨシダはとても丈夫でバランスのとれた馬で、胴まわりがとても深いのです。彼を目立たせているのはサンデーサイレンスの要素を持っているところです。これを『イット・ファクター(ほかと違う何か)』と呼ぼうと思います。この馬は気性がはげしく、血気盛んで、大胆不敵で、引き下がらないタイプの馬です。多くの産駒にそのような傾向が見られます。執拗さを見せていることとその振舞い方で、出走馬の中でどれがヨシダ産駒かすぐに分かります」。

 ウォルデン氏によると、日本馬が最近世界中で勝利を収めているからヨシダは米国の生産者からより注目されるようになったという。

 同氏は「最初はハーツクライということで難色を示す人もいました」と言い、ハーツクライがG1を何度か制しているもののそれらはすべて芝レースだったことを指摘した。そして「今では競走馬を生産する世界一ホットな場所は日本であることを、人々は理解しはじめていると思います」と語った。

 ライアン氏は、日本馬が世界最高峰級レースの異なる馬場や距離で勝ち続けることはないというのは思い違いだと述べた。

 「私はかなり長いあいだ日本にいました。彼らは30年間も世界で認められる瞬間を目指して備えてきたのですから、驚く話ではありません。現在さまざまな競走距離や馬場で結果が出ているのを目にしているのです。これは始まりに過ぎないと強く信じています。彼らには生産頭数を増やして最高レベルで競うだけの材料がすべて揃っているのです。もはやプロトタイプではないのです」。

By Eric Mitchell

(1ドル=約130円)

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[bloodhorse.com 2022年4月13日「Yoshida Brings Sunday Silence Back to U.S. Breeders」]