海外競馬情報 2021年08月23日 - No.8 - 1
ブレグジット後の馬の移動を円滑にするEパスポート(欧州)【生産】

 欧州サラブレッド生産者協会連盟(EFTBA)の支援を受けて、ブレグジット(英国のEU離脱)後の繁殖馬の移動を容易にするキャンペーンが活発化している。

 EFTBAのジョー・ハーノン会長は、農業・食糧・海洋省の最高獣医責任者であるマーティン・ブレイク氏に宛てて書簡を送り、サラブレッド繁殖馬に対する「健全性の高い繁殖馬(High Health Breed : HHB)」ステータス制度を欧州全域で導入することについて、アイルランドの支持を要請した。この制度は、稼働したてのウェザビーズEパスポートを使って運営される。

 HHBステータスを新しいデジタルパスポートに結びつけるというコンセプトは、英国・アイルランド・フランスの主要な馬関連機関により構成されるタスクフォースの取組みから生み出された。このタスクフォースは、英国のEU離脱に伴う三国協定の終了後に、新たな馬の移動方法の舵取りを行う目的で召集された。

 この計画では、認定試験所が3つの疾病、CEM(馬伝染性子宮炎)・EIA(馬伝染性貧血)・EVA(馬ウイルス性動脈炎)についての法定認証を繁殖馬に与えるという現行の制度を活用しながら、Eパスポートにアップロードできる独自のデジタル識別子の作成を行うことになる。

 タスクフォースのメンバーであるアイリッシュ・エクワイン・センター(Irish Equine Centre)のデズ・レドゥン(Des Leadon)氏は、こう述べている。「三ヵ国の政府はこれが自己認証ではないという確約を必要としており、この場合は明らかに自己認証ではなくなります。血液検体は輸送元の国の登録獣医師によって採取されなければならず、スワブ検査も同様です」。

 「血液検体は登録獣医師から認定試験所に送られなければなりません。証明書を発行するときにQRコードやバーコードを付けるという作業を認定試験所に依頼したのは、新たな試みです。それが馬とその検査結果の固有の識別子となります」。

 「3つの結果がすべて揃った時点でアップロードできます。EIAとEVAの証明書があってもCEMの陰性の検査結果がなければ種馬場に入れないのと同様に、HHBステータスを部分的に得ることはできません」。

 「3つの結果が揃ってからようやくHHBステータスが得られ、Eパスポートに記録されます。そして、いつでもどこでもそれを提示できます。このステータスは既存の紙の証明書による制度と同様に、その年のあいだは有効です。馬がこれらの疾病に感染しない限り有効なのですが、この環境で感染する可能性は非常に低いでしょう」。

 健康証明書のデジタル化は繁殖牝馬の種付予約を行うプロセスを簡素化する一方で、各政府にその国のサラブレッドの健康状態に関するリアルタイムのデータを提供することもできる。

 またHHBステータスにより、各政府やEUから新たに発生した輸送前や国境検疫所での規制の負担を大幅に省けるという信頼を得られると、この計画の提案者たちは考えている。

 サラブレッド生産界向けの解決策が何かないと、来年英国がアイルランドやフランスに設けられたものに相当する独自の国境検疫所を導入したとき、こうした負担はさらに増えるだけになるだろう。

 レドゥン氏はこう語った。「ウェザビーズのデータは、以前三国協定のあった国のあいだでの交配が60%減少していることを明確に示しています。また、ドイツでも同様の傾向が示されています」。

 「個々の種馬場経営者の中には、自らの経験とは違っていると言う人もいるでしょう。優良種牡馬を供用していたり、外国の投資家がその種馬場にいる種牡馬の株を大口で所有していたりすると、このような傾向はないかもしれません」。

 「しかしある有名な種馬場の経営チームと話したところ、彼らの種馬場は今年、外国からの種付予約がまったくなかったそうです。彼らは、"ここでずっと繋養されている外国の繁殖牝馬に種付けを行っているが、国境を越えてきた繁殖牝馬は1頭もいない"と報告しました」。

 EFTBAだけでなく、競馬産業の獣医アドバイザーで構成される国際実施規則委員会(International Code of Practice Committee)や、タスクフォースのメンバーであるサイモン・クーパー氏が所属するウェザビーズも、提案されているHHBステータス制度の採用を支持している。

 ハーノン会長はこう語った。「EFTBAの最高獣医責任者やアイルランドの農業・食糧・海洋省のマーティン・ブレイク氏と良好な関係を築いています。彼はこの書簡を受理したことを確認し、今週中に会合を開く予定です。彼らは計画にはゴーサインを出してくれているので、これを認めてくれることを期待していますし、そうしてくれると思います」。


 「種馬場の観点から言えば、私が種付権利の販売などの取引を行っている海外の人々は、自らが所有する価値の高いサラブレッドが国境検疫所で引っかかることなく、円滑かつ安全に移動できるのかを知りたがっています。私たちも繁殖牝馬を海外に送り出しているので、その気持ちはよく分かります」。

 「今後、タタソールズ、アルカナ、ゴフスで行われる1歳セールや繁殖セールに向けて、馬に国境を越える移動をさせなければなりません。これはそのための方法なのです」。

 ハーノン会長はこう付言した。

 「セリに出される馬はすべて、認証を確実に得られ移動することができます。これまでのように、アイルランドやフランスに戻る馬が英国で証明書の書き直しを待つために1週間あるいは10日間も英国で拘束されるようなことはないでしょう。HHBステータス制度の方針はこのような事態を回避するものであり、私たちはこの方針を明確に支持します。現状を正さなければなりません」。

By Scott Burton

 (関連記事)海外競馬ニュース 2020年No.38「ウェザビーズEパスポート、2021年に起動(イギリス・アイルランド)」、海外競馬情報 2021年No.4「馬の自由な移動を保証する三国協定を復活させる取組み(欧州)

[Racing Post 2021年7月19日「How the new ePassport system could ease European horse movement post-Brexit」]