海外競馬情報 2021年03月19日 - No.3 - 2
PCR検査による遺伝子ドーピングの検出方法の開発(アメリカ)【獣医・診療】

 ペンシルベニア大学獣医学部の研究者たちは、違法な遺伝子ドーピング(訳注:遺伝子導入や遺伝子改変などの遺伝子治療技術を悪用し、筋肉増強や持久力強化など、競技能力を高める可能性がある行為)の競技馬への局所的実施を体系的に検出する新たな検査を開発するのに成功した。ペンシルベニア州馬生産者協会(PHBA)とペンシルベニア州競馬委員会(PSHRC)が一部支援したこの新たな研究の成果は、馬スポーツにおける人馬の福祉・公正確保を推進するという共通の闘いに飛躍的な前進をもたらすものである。

 遺伝子ドーピング物質は他の低分子化合物とは異なり、運動能力を向上させるタンパク質が産生される細胞を誘発する。これらのタンパク質は、体内で自然発生したタンパク質と実質的に区別がつかないために確認しにくい。そのことが、動物もしくは人間に遺伝子治療が行われているかどうかをいっそう判別しがたくしている。それが現在までの状況である。

 ペンシルベニア大学獣医学部ニューボルトンセンターの獣医薬理学の助教授であり、馬薬理学研究所の所長であるメアリー・ロビンソン博士が主導するこの研究において、同学部の研究者たちは、定量リアルタイムPCR検査(ポリメラーゼ連鎖反応検査)を考案し、その正当性を立証した。この検査により、馬に遺伝子ドーピング物質が関節内投与されている場合、血漿と関節液からそれを検出できる。

 ロビンソン博士はこう語った。「血液検体に実施したPCR検査によって、馬の関節への局所的な遺伝子治療行為を見抜けることを、私たちは初めて立証しました。この検査は現在のところ特定の遺伝子治療の検出しかできません。それでも、関節への遺伝子治療を血液検体から検出することができるのだという考え方は立証されており、それは迅速かつ簡易、そして将来競走前検査としての実施を目指す我々の長期目標にも沿った方法です。

 ペンシルベニア大学獣医学部の研究者たちは、関節内に遺伝子治療が実施された場合に馬の関節液からそれを検出できただけではない。遺伝子治療実施から28日のあいだ、血中からも検出することができたのだ。これは、競走前検査だけでなく競技外検査の実施も許容する非常に広い時間枠が与えられることを意味する。

 この研究を実施した主要な研究者の1人、ジョアン・ホーガン(Joanne Haughan)氏はこう語った。「関節への局所的な遺伝子治療後に、遺伝子ドーピング物質を血中から検出することができたことによって、この革新的な技術の可能性は一挙に広がるでしょう」。

 「科学は、遺伝子治療の進歩を悪用しようとする者にどんどん迫っています。我々が個々の研究から学ぶほど、不正者が遺伝子ドーピング戦略を用いて制度を出し抜くことがより難しくなるでしょう」。

 この遺伝子ドーピングについて進行中の一連の研究は、ペンシルベニア大学獣医学部ニューボルトンセンターの馬バイオバンク(equine BioBank)を発展させたより重層的な多年度プロジェクトと共に実施されている。レイモンド・ファイアストーン・トラスト研究助成金の内部基金を利用して2017年に設立されこの研究は、2018年にPHBAからの支援を受け拡大した。競技馬の無数の潜在的バイオマーカー(指標となる生体内物質)を探ることを目指して、さまざまな種類の検体を採取・分析したデータベースを拡大している。いつか"生物学的パスポート"を構築することを目標にしつつ、研究者たちはこれらのバイオマーカーは遺伝子ドーピングの検出だけでなく、発症する前の怪我を予測するための鍵にもなると考えている。

 PHBAのブライアン・サンフラテロ(Brian Sanfratello)事務局長はこう語った。「PHBAのメンバーは生産者として、馬の健康・安全・福祉を守ることを心の底からの個人的な優先事項としています。これらの科学的発見は私たちを、"いつか馬スポーツを完全にクリーンなものにする"という夢に一歩近づけます。ロビンソン博士とその専門家チームは、私たちをその夢の実現にますます導いてくれますので、彼らを支援できて光栄に思います」。

 近い将来に第三の研究が完了すれば、ペンシルベニア大学獣医学部の研究者たちは、より長期に遡り多数の遺伝子ドーピング物質を特定できるスクリーニング検査を作り出すために、検査理論のさらなる拡張および精緻化を追究することになる。

 ロビンソン博士はこう付言した。「バイオマーカーの性質とその可能性を全面的に活用する方法をよりよく理解するためには、やるべきことがまだたくさん残っています。しかし、遺伝子ドーピングを検出する科学はこの研究を開始したときに私たちの誰も予測しなかったほど早く前進しています。達成不可能かと思われたアイデア、たとえば携帯できて厩舎でも使える検査装置の開発は今や、現実的で具体的な可能性として視野に入りつつあります。私たちは引き続き、目的の達成に向けて後押ししてくれる支援を必要としています」。

By Blood-Horse Staff 

[bloodhorse.com 2021年2月24日「Penn Vet Researchers Develop Test to Detect Gene Doping」]