海外競馬情報 2020年07月21日 - No.7 - 2
欧州を離れた後に開花しつつあるマクフィの血統(欧州・日本)【生産】

 欧州の生産者たちは、マクフィを日本から連れ戻すためにチャーター便を手配する心づもりは今すぐにはないかもしれない。しかし最近の結果を踏まえると、彼らは"マクフィを見限ったのは早すぎたのではないか"と物憂げに思っていることだろう。

 生産界の多くの人々がマクフィの初期の種牡馬生活を期待外れとみなしていたが、同馬は "復活"とも言える活躍をしている。

 まず、欧州での供用最終年度に種付けされて生まれた牡駒マクファンシー(Mkfancy)が2019年クリテリウムドサンクルー(G1)で優勝している。さらに、2015年仏2000ギニー(G1)を制した産駒メイクビリーヴ(Make Believe)が種牡馬として好調なスタートを切っており、初年度産駒ミシュリフ(Mishriff)が仏ダービー(G1 7月5日)で優勝したことによりその評価は決定的なものになった。

 またマクフィは現在、ある程度重要なブルードメアサイアー(母父)として浮上している。母父として、ウィンザーキャッスルS(L)とジュライS(G2)を制したタクティカル(Tactical)をはじめ、ポジティブ(Positive)、フィアレスキング(Fearless King)、サセックスガーデン(Sussex Garden)などの優良馬を送り出している。

 欧州ではマクフィは孫の代で成功を収めている一方、日本では供用1年目の産駒102頭(現在2歳)が、まずまずの競走成績を収めている。これまでにルーチェドーロやマテーラフレイバーなど4頭がいずれもダート戦で勝ち上がっている。

 残念ながら、マクフィはいつも成功していたわけではない。欧州で初年度産駒が2歳となったとき、マクフィは自らの地位を確立するために勝馬を切実に求めていたが、優良産駒はそれほどすぐに現れなかった。

 その年の終わりまでに勝馬19頭を送り出したので不名誉な成績ではなかったが、その中でステークス勝馬はわずか1頭だった。それは、14戦目でリステッド競走(仏トゥールーズ競馬場)をようやく制したコーンウォールビル(Cornwallville)である。

 コーンウォールビルは称賛に値する競走馬だった。しかし、2010年英2000ギニー(G1)を制したマクフィ(父ドバウィ)の産駒として期待されていたクラシックを狙えるような素質馬ではなかった。マクフィは、カタールブラッドストック社がツイーンヒルズスタッドで繋養し始めた種牡馬群の1頭として、初年度から種付料2万5,000ポンド(約338万円)で供用されていた。

 さらに重要なのは、マクフィが種牡馬入りした年が欧州の新種牡馬の当たり年だったという不運に見舞われたことだろう。2014年のフレッシュマンサイアーランキングでは、ロペデベガ(Lope De Vega)、シユーニ(Siyouni)、ショーケーシング(Showcasing)が上位を占めており、これらすべてが優秀で人気のある種牡馬となった。また、スタースパングルドバナー(Starspangledbanner)が少数の初年度産駒の中からロイヤルアスコット開催の勝馬2頭を送り出したことで話題を独占した。

 セリ市場は、マクフィへの全面的な期待外れを反映していた。英国・アイルランドの1歳セールに上場されたマクフィの初年度産駒は、平均価格6万4,577ギニー(約915万円)、中間価格3万8,000ギニー(約539万円)で取引されたが、供用2年目の産駒の平均価格は2万6,325ギニー(約373万円)、中間価格は1万7,500ギニー(約248万円)となった。同様に、当歳の産駒への需要も減少し、その平均価格は2012年には7万4,938ギニー(約1,062万円)だったが、2014年には2万7,846ギニー(約395万円)に急落した。

 マクフィは2015年、ボンヌヴァル牧場(Haras de Bonneval)に送られた。この移籍は、コーンウォールビル以外にもまずまずの産駒がフランスで活躍していることから促された。中でも2勝していたメイクビリーヴ(アンドレ・ファーブル厩舎)は将来有望だった。

 メイクビリーヴは3歳となり、仏2000ギニー(G1)で後に仏ダービー馬となるニューベイ(New Bay)に3馬身をつけて優勝した。そのシーズン後半にはフォレ賞(G1)を制し、バリーリンチスタッド(Ballylinch Stud)で種牡馬入りした。

 しかしメイクビリーヴの快挙は、マクフィの名誉を挽回させるには十分ではなかった。マクフィの初年度産駒からはメイクビリーヴを含む4頭の重賞勝馬が輩出した。しかしそのうちの2頭であるファブリケート(Fabricate)とマジックサークル(Magic Circle)が重賞勝利を達成したのはそれぞれ5歳と6歳なってからだった。性急なセリ市場にとってはあまりにも遅すぎた。

 そのため、ボンヌヴァル牧場での2年目の供用生活を終えたマクフィの日本軽種馬協会(JBBA)への売却が発表されたとき、欧州の生産者はほとんど悲しまなかった。その後にデビューしたマクフィ産駒の競走成績もほとんど後悔をもたらさなかった。

 ツイーンヒルズスタッド時代に送り出したその後の3世代のマクフィ産駒からは、1世代につきわずか1頭の重賞勝馬が輩出した。しかし、ボンヌヴァル牧場での1年目の産駒(現在4歳)からは重賞勝馬は出ておらず、2年目にして最後の世代の産駒からはマクファンシーが出ている。

 マクフィの月並みな種牡馬成績は、メイクビリーヴが種牡馬として幸先の良いスタートを切ることへの妨げにはならなかった。同馬にとって助けになったのは、米国G1馬ドバウィハイツ(Dubawi Heights 父ドバウィ)と¾兄弟であることである。2頭の母ロジーズポージー(父スワーヴダンサー)は、スプリントカップ(G1 ヘイドック)の優勝牝馬タントローズ(Tante Rose)の半姉であり、おまけに素晴らしい馬格をしている。

 メイクビリーヴは初年度に2万ユーロ(約240万円)で供用され、初年度産駒からは仏ダービー馬ミシュリフ、7月9日のムシドラS(G3)優勝馬ローズオブキルデア(Rose Of Kildare)が出てきた。ローズオブキルデアは1歳のときにマーク・ジョンストン調教師にわずか3,000ユーロ(約36万円)で購買された馬であり、他の2頭のステークス勝馬オーシャンファンタジー(Ocean Fantasy)およびタマニ(Tammani)とともに父メイクビリーヴの代表的な産駒となっている。

 もう1頭注目に値するメイクビリーヴ産駒はフィスカルルールズ(Fiscal Rules)である。まだ未勝利であるものの、前2走の愛2000ギニー(G1)と愛ダービー(G1)でいずれも5着となっている。

 メイクビリーヴは、バリーリンチスタッド・競走馬時代の馬主ファイサル殿下・シンジケートメンバーの支援を得て、揺るぎない人気の種牡馬になるのに有利な立場にいるようだ。当然のことながら、メイクビリーヴを売り込むにあたり父マクフィの略歴はほとんど考慮されていないが、メイクビリーヴ産駒が父のパワーを証明している今ではさほど重要なことではない。

 マクフィが母父として活躍することは予想されていた。なぜなら、初期の供用生活で強力な支援を受けた種牡馬は、たとえ種牡馬として不発に終わっても、将来的に有能な繁殖牝馬となる良い血統の牝馬を送り出しているからだ。血統というものはある程度受け継がれるものである。

 たしかに、タクティカルはエリザベス女王に生産され、母はリステッド3着内馬メイクファースト(Make Fast)、祖母(2代母)はオーソーシャープS(G3)優勝馬レイミコヤ(Raymi Coya)である。また、ポジティブはチェヴァリーパークスタッドに生産され、母はG3優勝馬ゾンダーランド(Zonderland)の半姉オシポヴァ(Osipova)である。そしてオシポヴァの祖母(2代母)は同スタッドの偉大な繁殖牝馬ロシアンリズム(Russian Rhythm)である。

 実際には、マクフィは母父として出走馬26頭、勝馬11頭(うちブラックタイプ勝馬3頭)を送り出している。このことは、以前はセリ名簿で当歳馬・1歳馬の父名が"マクフィ"であるのを見て鼻であしらっていたエージェント(馬売買仲介者)たちが、繁殖セールでは"マクフィ"の名前をより好意的に見ることで成功していることを示している。

 おそらく繁殖牝馬所有者にとって、マクフィの物語から得られる最も重要な教訓とは、「見解にある程度の柔軟性を保つこと」と「競走成績から新たな情報を得たときに、長年抱いてきた偏見を取り払う心づもりをしておくこと」である。

 生きているといろいろ学ぶことがあるものだ。

By Martin Stevens

(1ポンド=約135円、1ユーロ=約120円)

[Racing Post 2020年7月13日「Makfi making amends for early misfire through his gifted grandchildren」]