海外競馬情報 2020年12月22日 - No.12 - 4
英国競馬界に確実に存在するコカイン問題への対処を考える(イギリス)【開催・運営】

 今回の介入は大事であり必要なものであった。騎手たちのあいだにコカイン問題があることを認めたのは第三者ではなく、騎手協会(PJA)のCEOだった。

 ネイサン・エヴァンズ(Nathan Evans)騎手に11月下旬に科された6ヵ月間の騎乗停止処分によってさらなる証拠がもたらされ、コカイン問題が確実に存在することはむしろ論じやすくなっている。一方、フランスギャロのコカイン検査の方法に問題があるとは論じにくくなっている。

 この20年間で、英国のリーディングジョッキーのうち3人がフランスのコカイン検査で陽性反応が出たために騎乗停止処分を科されている。これらの事案をはじめとする出来事でフランスを槍玉にあげようとする人々は、お門違いの非難をしているのだろう。

 PJAのCEOポール・ストラサーズ氏が、コカインについての自らのコメントとフランスギャロがオイシン・マーフィー騎手に科した3ヵ月間の騎乗停止処分を区別したがっていたのは理解できる。

 「フランスの裁決委員はマーフィー騎手の禁止薬物使用についての疑いを完全に晴らした」と言うのは間違っているだろう。彼らは、蓋然性を比較することによって、同騎手の陽性反応に関する説明に納得したのだ。その点を考えると、同騎手にとって6ヵ月間ではなく3ヵ月間の騎乗停止処分が科されたという事実は、非常に有利なものといえる。

 ロビー・ダウニー(Robbie Downey)騎手は昨年、フランスギャロにより6ヵ月間の騎乗停止処分を科された。そのとき同騎手は決定的に主張を裏付けると考えられる証拠を提出し無実を訴えた。そのため、マーフィー騎手への処分が発表されたことをうけてダウニー騎手がそのツイートで悲嘆に暮れているようだったのは当然だろう。そうは言っても、カタールレーシングの主戦であるマーフィー騎手が無罪放免にならなかったことも確かである。

 今やマーフィー騎手の名前には禁止薬物によって騎乗停止処分を受けたことがつきまとう。それはおそらく英国、アイルランド、そしてフランスにおいても同騎手の経歴に傷をつけることはないだろう。ただし日本と香港の競馬統括機関がどのように反応するかはいまひとつ明確ではない。

 日本はマーフィー騎手にとって第二の拠点と言っても良い。マーフィー騎手は過去2回の冬を日本で過ごし、とてつもない成績を収め、ちょうど1年前にはスワーヴリチャードでジャパンカップ(G1)を制すという最高の快挙を達成した。

 一般論として、日本社会はドラッグに対してかなりの強硬路線を取っている。日本での騎乗を望む外国人騎手に短期免許を付与するJRAがその考えを反映していることはよく知られている。マーフィー騎手は日本にふたたび行くチャンスに深刻な打撃が与えられないことを望んでいるはずだ。

 マーフィー騎手は声明(11月29日付)において、フランスギャロとその裁定を尊重することを強調した。そのような適切な態度を目の当たりにすることは喜ばしかった。誰もがこのような態度を取るべきだろう。

 フランスギャロに過失はない。しかし、フランスギャロの薬物検査の閾値レベルが低すぎるというPJAの見解にはいくらか共感できる人もいるだろう。PJAは、競走能力向上薬を使用するアスリートを追跡する世界反ドーピング機関(WADA)が設定した閾値に合わせているだけと考えている。フランスギャロは、フランスで出走する馬とその騎手の安全を守るためにできる限りのことを試みているにすぎないと言うだろう。その議論には明らかに理がある。

 さらにフランスで騎乗する者はすべて、好むと好まざるとにかかわりなく、フランスのルールを知っている。ラブ・ハヴリン(Rab Havlin)騎手が6ヵ月間の騎乗停止処分を受けてから、騎手たちはそれらのルールを心に刻んでおり、"知らなかった"とは主張できない。それゆえマーフィー騎手は環境汚染が生じうる状況に身を置いたことを認めるほど成熟した態度を取り、「プロのスポーツマンとして同じような状況に身を置くことは二度とできない」と述べた。

 その中に問題の核心の1つがある。騎手たちは、我々の多くが知ることのないプレッシャーと労苦を経験している。ローリー・マック・ニース(Rory Mac Niece)弁護士はエヴァンズ騎手が制裁を受けた際に、それを雄弁に表現した。

 しかし、騎手はプロのスポーツマンである。公平であろうとなかろうと、私たちの大半が納得するよりも高い基準を満たすことが要求される。どのような理由であれその基準を満たさない者を見つけ出すのに、フランスギャロは非常に長けている。

 フランスギャロは公式研究所である競馬研究所(LCH)の協力を得て、規制において大成功を収めている。LCHの2018年の年間予算総額は、オリンピック選手の検査に費やされる総額とほぼ同額の約1,200万ユーロ(約15億円)だった。

 LCHは競走馬の薬物検査も担当している。今年の凱旋門賞ウィークエンドで注目されたように、フランスはその分野においても目覚ましいほどの成績を挙げている。実際、もしフランスギャロのルールがばかばかしいほど厳格であれば、フランスの騎手たちは毎週のように陽性反応を示すだろう。しかしそのような事態にはいたっていない。

 私たちはもっと身近なところを見なければならない。だからこそ、コカインとの闘いのためにもっと手を尽くしたいと考えているPJAのCEOとメンバーたちは称賛されなければならない。パストラルケア(心理療法)は不可欠である。それはアイルランドで一般的に実施されているように、薬物検査の件数を大幅に増やしたり、騎乗停止処分の期間を長くすることを意味していない。それは有用ではないだろう。

 競馬界のコカイン問題について特別記事を書いてから2年弱が経つ。コカインの常用者は、アルコール中毒とメンタルヘルスの不調にも苦しんでいるというものだ。その記事は英国とアイルランドの騎手が現在利用できるサポートサービスを紹介し、コカイン使用のために騎乗停止処分に服した匿名の騎手も取り上げた。

 その匿名騎手はこう語った。「薬物検査で引っ掛かる前は、ドラッグを頻繁に使用していました。常習性のあるドラッグなので、たちまち虜になってしまいます。数時間は現実逃避できます。問題は自分自身を騙してしまうことです。コカインはあなたを気持ちよくするよりも、ずっと悪い状況に追い込みます」。

 それは今でも事実と寸分違わない。それゆえ、この問題に対処する方法を再考することは、歓迎すべき一歩となるにすぎない。

By Lee Mottershead

(1ユーロ=約125円)

[Racing Post 2020年11月29日「Focus on our own cocaine problem instead of blaming France for positive tests」]