海外競馬情報 2020年10月20日 - No.10 - 2
凱旋門賞で4頭の出走取消、問われる検査体制の信頼性(欧州)【開催・運営】

 2004年1月、長期化した法廷闘争の末、ビーマイロイヤル(Be My Royal)の2002年ヘネシーゴールドカップ(ニューベリ競馬場)での優勝は遅ればせながら取り消された。飼料中に禁止薬物が混入していたために、同馬が競走後の薬物検査で陽性反応を示したからだ。

 約40頭が薬物検査で陽性反応を示して16頭の優勝が取り消されるにいたったこの事案がもたらした副次的影響は、長く続いた。ヘネシーゴールドカップで単勝34倍のビーマイロイヤルがデヴィッド・ケーシー(David Casey)騎手を背にジャンジャンブル(Gingembre)を負かした14年後の2016年12月、馬用飼料会社のコノリーズ・レッドミルズ社(Connolly's Red Mills)がトルク社(Torc ダブリンを拠点とする飼料原料輸入業者)を相手に起こした訴訟は、ようやく和解にいたった。

 コノリーズ・レッドミルズ社は、トルク社が2002年に納品したピーナッツ2万9,000トンに大量のモルヒネが含まれており、それがビーマイロイヤルをはじめ多数の馬が薬物検査で陽性反応を示すという事態を引き起こしたと申し立てた。トルク社はその申立てを否定した。

 当時、ビーマイロイヤルを管理したウィリー・マリンズ調教師はヘネシーゴールドカップでの失格を"深刻な不公平"と述べ、それに異議を申し立てるために利用可能なあらゆる法的手段を実行していた。

 同調教師が当時のジョッキークラブの調査結果を不服として起こした訴訟は、2004年8月に最終的に却下された。2005年10月には高等法院への上訴が却下された末に、暫定費用として3万5,000ポンド(約473万円)の支払いが裁定された。

 ビーマイロイヤルが優勝を取り消されたヘネシーゴールドカップの優勝賞金は6万900ポンド(約822万円)だった。一方、10月4日(日)のロンシャン競馬場では、すべてのG1競走の優勝賞金は10万ポンド(約1,350万円)を上回り、欧州最高賞金を誇る凱旋門賞(G1)の優勝賞金は約160万ユーロ(約2億円)、総賞金は300万ユーロ(約3億7,500万円)だった。

 エイダン・オブライエン調教師は通常の出走登録料とは別に、サーペンタイン(Serpentine)をクールモアの代表の1頭として出走させるために7万2,000ユーロ(約900万円)の追加登録料を支払っていた。

 オブライエン調教師とその2人の息子ジョセフ氏とドナカ氏は、10月4日の凱旋門賞開催日に合計11頭を出走取消とした。これらの馬は、数百万ポンドもの賞金額を受け取る可能性と引退後の繁殖馬としての商業的価値を高めるチャンスを失った。

 今回のスキャンダルの中心にいるのは、もう1つのアイルランドにおける大手馬用飼料会社ゲイン・エクワイン・ニュートリション社(Gain Equine Nutrition)である。フランスギャロ(France Galop)の薬物検査で5頭から禁止薬物であるジルパテロール(Zilpaterol)の陽性反応が出たことが発覚し、このスキャンダルは明るみになった。

 ここで重要なのは、オブライエン調教師が週末にロンシャンで出走する予定の馬から採取した尿検体を10月2日(金)午前に提出し、3日(土)に「陽性」の結果が返ってきたことだ。

 この薬物は4日(日)までに馬体からすっかり消滅していたかもしれないが、オブライエン調教師とその息子たちは、英国でロジャー・ヴェリアン調教師が行ったように、出馬投票したすべての管理馬を自主的に出走取消とした。

 他の調教師たちは今や、オブライエン厩舎の公表された検査結果を知っている。彼らは日曜日に管理馬が優勝馬と同様に検査を受けたとしても、ジルパテロールの痕跡がまったく現れないだろうという計算済みの危険を冒すことに決めた。

 あえて言うならば、今後数週間にわたって数人の調教師はびくびくすることになるだろう。私は1週間前のこのコラム欄を、「パリに行くのはいつでも良いアイデアだ」という古い名言で締め括った。現在、それが依然として真実なのかをこれからの数週間心配することになるはずだ。

 オブライエン調教師は法的措置を取ることには魅力を感じないだろう。しかし、それがクールモアからであろうと他からであろうと、今回の状況においては法的措置を取られることも考えられないわけではない。

 同様に好奇心をそそられることは、さまざまな競馬管轄区においてこれらの結果がどのように比較されるかということだ。今までのところ、フランスギャロが言及した5例だけが私たちが知る陽性症例である。

 オブライエン調教師は、フランスもしくはどこであろうとも管理馬から陽性反応が出るなどとは意識していなかったので、それらの薬物検査は自身の厩舎には関係ないものと思っていたと述べた。

 アイルランド競馬監理委員会(Irish Horseracing Regulatory Board:IHRB)は、禁止薬物ジルパテロールの使用についての証拠に遭遇したことはないと述べている。しかし、オブライエン調教師がフランスギャロの利用するフランスにある研究所に検体を送ったところ、これらの検体についてジルパテロールを正確に検査することができていたとは納得しなかったようで、馬体内にジルパテロールが存在することが確認された。

 IHRBは2018年にリムリックのBHP研究所との契約を解消した後、現在はBHAと同様にLGC研究所(ニューマーケット)に検体を送っている。ちょうどこの移行と同時期に、陽性症例の件数が440%増加し、それ以来、陽性症例はほとんど見逃されていないというコンセンサスがある。

 しかし、オブライエン調教師がピーナッツそのものに実施した検査も3日(金)夜に陽性の結果であることが判明した。つまり、同調教師の管理馬の飼料にジルパテロールが混入したことは確実であり、その結果として馬体内に入ったということだ。

 どれぐらいの量の飼料に影響が及ぼされているのかを認識していないので、どれぐらいの期間にわたり馬がその飼料を摂取していたのか分からない。しかし、薬物検査で陰性が確認されて賞金が送金されるのは通常、レースが終わってから15日後である。オブライエン厩舎は相変わらず勝馬に欠くことなく、10月3日(土)にティペラリー競馬場でカーライルベイ(Carlisle Bay)が優勝している。

 現時点では、まずい事態を構成するニュースはない。関係者が潔白であれば馬が不当に追放されることには満足いかないし、むしろ信頼性に欠ける検査体制にも決して満足いくものではない。

By Richard Forristal
(1ポンド=約135円、1ユーロ=約125円)

[Racing Post 2020年10月7日「O'Brien feed saga just beginning as focus turns to reliable testing」]