海外競馬情報 2019年08月21日 - No.8 - 3
サンタアニタの騒動続きのシーズンがもたらした教訓(アメリカ)【開催・運営】

 今シーズン、カリフォルニア州においてジェリー・ホレンドーファー(Jerry Hollendorfer)調教師の管理馬6頭が予後不良となった。サンタアニタ競馬場、デルマー競馬場、その他の競馬管轄区が、同調教師の免許を停止した。今後、これが法的措置の範囲内での行動であったかどうかの裁定は、弁護士および法廷に委ねられる。

 しかし、このことにより得られた教訓は1人の男の命運よりもはるかに大きなものである。ホースマンの旧態依然としたやり方は、もはや受け入れられないということだ。カリフォルニアおよび米国の他の地域で政治的にどのような風が吹いているかを考慮すれば、そのやり方は今では競走馬と騎手にとって不十分である。やり方を変えたくないホースマンにはもう居場所がないことを理解しなければならない。

 ホレンドーファー調教師は数十年間トップトレーナーとして君臨し、競馬の殿堂入りを果たすのにふさわしかった。他の調教師に負けず劣らず一生懸命働いてきた。早朝にキーンランド9月1歳セールに行き、セリ場の外の机でその日のセリ名簿を丹念に調べる姿が見られた。誰も同調教師が仕事を奪われるのを見たくはなかった。

 ホレンドーファー調教師は数十年間トップクラスの馬を手掛ける一方で、格下の馬も管理してきた。そしてそのことにより、ずっと昔から北カリフォルニアのリーディングトレーナーであり続けていた。しかし今や、それは現在の基準には合わない。同調教師の変化に対するためらいは理解できる。昨年12月26日にサンタアニタ開催が開幕した頃、ホレンドーファー調教師はストロナックグループの"できるだけ頻繁に馬を出走させる"という運営方針を代表する存在だった。

 それは皮肉なことに、サンタアニタ競馬場が予後不良事故頻発を受けて心を入れ替えて刷新に取り組んだときに、同調教師が追放される事態を招いたのだ。サンタアニタを所有するストロナックグループは、調教師に対して「馬房を失いたくなければ馬を出走させること」と促す方針が問題であることに気づくと、「ぎりぎりの状態の馬を走らせることによってリスクを冒さないこと」という警告を発表していた。ホレンドーファー調教師と競い合ったカリフォルニアの有名なホースマンは、「彼は問題が見つかるような馬を一か八かで走らせるべきではなかった」と述べた。競走当日の獣医師による検査は役立つが、調教師よりもその管理馬をよく知っている者はいない。その後、ホレンドーファー調教師の管理馬はさらに2頭が予後不良となった。その警告に効果が無かったのは明らかだった。同調教師の追放は、どこからともなく生じたものではなかった。

 2年前にホレンドーファー調教師と馬主のリック・ポーター(Rick Porter)氏の間にいざこざがあり、広く報道された。それはエクリプス賞を2回受賞した牝馬ソングバード(Songbird)についてのものだった。ポーター氏のチームの数人がパーソナルエンスンS(G1)の数日前にサラトガ競馬場に滞在するソングバードを見て、ポーター氏に「背中に不具合があるように思う」と述べた。ソングバードはこのレースで2着に敗れた。ホレンドーファー調教師はポーター氏に、「曳き運動やジョグをさせ、回らせてみたが、問題なかった」と述べた。そして翌日もその考えを変えなかった。

 納得しなかったポーター氏は、ソングバードをロッド&リドル馬診療所に送った。同診療所のラリー・ブラムラージ(Larry Bramlage)博士は馬運車で輸送されてきたソングバードを出迎え、自ら傾斜台から降ろした。ポーター氏によれば、ブラムラージ博士は地面に降りるまでに異常を感じていた。レントゲン検査の結果、いつ重大な影響を及ぼすか分からない鋭利な骨片が球節にあることがわかった。同博士はポーター氏に治療不可能であると伝え、彼女は第二のキャリアを始めることを余儀なくされた。ポーター氏は調教師の反対を押し切って、このチャンピオン牝馬を引退させた。

 ホレンドーファー氏の事案についての法廷での争いの結果はどのようなものになろうとも、調教師がこれまでとは違うやり方で自らの技術を磨く必要があるという事実の重大性の前ではかすんでしまう。現在生じていることは、北米競馬産業全体への警鐘として役立つだろう。その警鐘はけたたましく鳴り響いている。

 競馬におけるすべての決定は、競走馬そして騎乗者にとって何が最善であるかを優先して下されるべきである。これまでのようなやり方はもはや通用しない。そしてそれこそが、この騒動続きのシーズンがもたらした教訓である。

By Lenny Shulman

[bloodhorse.com 2019年7月31日「What's Going On Here ― Business As Usual Must End」]