海外競馬情報 2019年12月20日 - No.12 - 3
フェニルブタゾンと予後不良事故の関連性を示す研究(アメリカ)【獣医・診療】

 最近発表された研究論文の画期的な結果を受け、米国ジョッキークラブの"事故馬データベース(Equine Injury Database)"を監督するティム・パーキン(Tim Parkin)博士は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)であるフェニルブタゾン(Phenylbutazone)を予後不良事故のリスクファクター(危険因子)に追加する。また各州の競馬統轄機関に対し、競走前に馬体内からこの薬物が完全に消滅していることを義務付ける方針の適用を求める。

 グラスゴー大学の上級講師で臨床疫学者のパーキン博士はこの10年間、"事故馬データベース"の調査を行ってきた。同博士は本誌(ブラッドホース誌)に近々掲載予定のエッセーの中で、競走当日のフェニルブタゾンの閾値をゼロに下げるように勧告している。

 パーキン博士の指導を受ける大学院生テレシタ・ザンブルーノ(Teresita Zambruno)氏はその研究において、フェニルブタゾン[一般的に"ビュート(Bute)"と呼ばれる]と馬の故障(致死性・非致死性)との間に関連性を認めた。これを受けて、米国のカリフォルニア州以外の全州において現在適用されている方針をより厳しくする勧告が出される。

 ザンブルーノ氏の論文は電子ジャーナルに掲載されており、2020年後半には『米国獣医師会誌(Journal of the American Veterinary Medical Association)』の誌面に掲載予定。同氏はこのために、南米の4競馬場において延べ50万頭の出走馬のデータを調査した。これまでリスクファクターを観察する論文はあったが、これはビュートと予後不良の関連性を見いだした初めての論文である。

 ザンブルーノ氏は論文の結論としてこう述べている。「これは、フェニルブタゾンの競走前の投与と予後不良事故のリスクの関連性を明らかに示した最初の論文です。この論文で得られた情報を基に、フェニルブタゾンの投与が許容されている競馬統轄機関の方針もしくはルールを変更させることが次の課題です」。

 パーキン博士は本誌掲載予定のエッセーにおいて、ビュートが体内に残留する出走馬は、この薬物が競走直前に投与されていない出走馬と比較して、予後不良あるいは非致死性の筋骨格の故障を生じるリスクが50%高まると述べている。

 ザンブルーノ氏の論文は、ビュートを投与された馬が故障を発症するリスクを高めるいくつかの潜在的理由を挙げている。それらの理由は、追切り前のビュート使用を制限することも有効である可能性を示している。

 同氏はこう語っている。「ビュートを投与された馬のグループの予後不良事故率が高まる理由は多分、抗炎症剤もしくは鎮静剤が必要な馬に良いパフォーマンスをさせようとしたり、レースに間に合わせようとすることにあるのでしょう。すでに確認されている傷や痛み、あるいはそれまで見つけられなかった傷や痛みが事故の原因となっている可能性があります。ビュート投与により馬は調教やレースで走り続けることができ、筋骨格へのダメージを蓄積させ、パフォーマンス中の予後不良事故率が高まります」。

 全米統一薬物プログラム(National Uniform Medication Program)の規制治療薬リストは、競馬当日に血清あるいは血漿1mlあたり2.0㎍(マイクログラム)までのビュートの存在を許容しており、一般的に使用されているNSAIDが馬体内から消滅するのに24時間以上かかると勧告している。

 米国における多くの薬物ルールの典型であるが、ビュートに関するルールは州ごとに異なる。たとえば、薬物規制標準化委員会(RMTC)によれば、ワイオミング州とサウスダコタ州は依然として競走当日のビュート投与を認めている。また10年ほど前に大半の州がより効果的な競走前検査のためにビュートの閾値を2.0㎍に下げていたにもかかわらず、アリゾナ州は閾値5.0㎍/mlを許容している。

 カリフォルニア州はすでに、パーキン博士の勧告と一致する競走前・調教前のビュート使用についての新たな制限を採用していた。ストロナックグループは今年、所有するサンタアニタパーク競馬場の冬・春開催での予後不良事故頻発を受けて故障を減らす取組みを行っている。そこでストロナックグループはビュートとこれまで認められていた2つのNSAID[フルニキシン(flunixin)とケトプロフェン(ketoprofen)]の閾値を撤廃する際に、内部ルールとしてパーキン博士が現在求めている基準を適用した。新たな基準の勧告では、ビュートの休薬期間を7日間とする。これは世界中の多くの競馬国と足並みを揃えるものであり、競走当日にこれらの薬物が馬体内から完全に消滅していることを確実にする。

 ストロナックグループは、調教前48時間内のNSAID投与も禁止したが、調教時の閾値については現在の2.0㎍を維持している。

 カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board)は3月、ストロナックグループがその所有競馬場に新たな薬物ルールを適用することを認めた。そして4月には、カリフォルニア州の全てのサラブレッド競馬場に対してこの厳格なルールを1年間適用することを承認した。

 カリフォルニア州における効果を評価する上で、1つの変更だけを取りあげることはできない。薬物ルールを徹底的に見直すほか、追加的な競走前検査などの安全措置を取ることで、競走中の予後不良事故は新たな基準の下で大幅に減少している。サンタアニタ競馬場が3月29日にレースを再開してから、ロスアラミトス競馬場、デルマー競馬場でレースが施行され、その後サンタアニタ競馬場の秋開催が行われているが、南カリフォルニアの予後不良事故率は1,000頭中1.09件だった。"事故馬データベース"をもとにすれば、これは米国・カナダの2018年の予後不良事故率1,000頭中1.68件を35%下回る。

 この期間に、カリフォルニア州ではゼロ・トレランス主義(どんな小さな違反も見逃さない考え方)が採用された。南カリフォルニアの平均出走頭数は2018年の7.62頭から7.13頭に減少した。繰返しとなるが、効果を見極めるために、カリフォルニア州で今年採用された多くの新しいルールや手順の中から1つの変更だけを示すのは難しい。

 この論文は、常に注目の話題となっている競走当日のラシックス(別名サリックス、フロセミド)使用についていくつかの洞察も与えている。南米での調査では、ラシックス使用と予後不良事故との関連性は判明しなかった。ザンブルーノ氏は、"調査対象の競馬場の1つはビュートを禁止していたが、公認獣医師がラシックスを投与することは許容していた"と指摘した。その競馬場の統計を検討したところでは、ラシックスと予後不良事故の間に相互関係はなかった。

 米国の主要な競馬場オーナーが中心となって結成したグループは、2020年から競走当日のラシックス使用を段階的に制限することを発表している。そして、運動誘導性肺出血(exercise-induced pulmonary hemorrhage)を予防・軽減するために利尿薬を競走当日に使用することを禁止する連邦法を支持する競馬産業のリーダーもいる。

By Frank Angst

[bloodhorse.com 2019年11月7日「Study Finds Phenylbutazone a Risk Factor in Breakdowns」]