海外競馬情報 2019年10月23日 - No.10 - 4
ピムリコ競馬場とローレルパーク競馬場、取り壊して再建へ(アメリカ)【開催・運営】

 ピムリコ競馬場とローレルパーク競馬場は、メリーランド州の政府機関に譲渡され、競馬場オーナー・州のホースマン・さまざまな地元政府関係者が提案する計画の下、新たな競馬施設として再開発されることが発表された。

 この計画の支援者グループが10月5日(土)に配布した文書によると、この野心的な計画は競馬産業と政府関係者の4ヵ月間にわたる協議の末に打ち出された。この計画では、再開発資金に充てられる3億7,500万ドル(約412億5,000万円)を公債で支援するため、現行の州法の下で承認されたカジノ収入からの補助金を利用する。そのためには州議会の承認が必要である。次に州議会が招集される来年初めまでの今後数ヵ月間、この計画の支持者も反対者も、その詳細について議論することになるだろう。

 この計画の下、ストロナックグループが所有するメリーランド州の競馬資産は、州あるいは地方公共団体に譲渡される。そして、プリークネスS(G1)の開催場であるピムリコ競馬場とローレルパーク競馬場は取り壊され、代わりに小規模なグランドスタンドと厩舎施設が建設される。ピムリコ競馬場では、その大部分に再開発工事が実施されるため、三冠競走の第2戦目のプリークネスSが施行される際には、大観衆を収容する仮設スタンドが建てられるだろう。

 計画によれば、ストロナックグループは2つの競馬場で競馬を運営し続けるために、これらの敷地を賃借する。ローレルパーク競馬場はメリーランド州の大半のライブレーシングを運営する一方で、ピムリコ競馬場は主にプリークネスSを中心とした短い期間の競馬フェスティバル開催地として利用される。同グループの役員によれば、ライブレーシングの開催日程には改築工事の影響が及ぶだろうが、同州は工事中もほぼ1年中サーキット(ある地域内で開催日が重ならないように日程を合議して決められた競馬場一群)で競馬を施行し続けるように努める。

 この提案は、ピムリコ競馬場とプリークネスSの将来に関する長年の懸念に終止符を打たせようとするものである。同競馬場は、何十年も批判に晒されてきた不利な地域にあり、老朽化が著しい。今年、プリークネスSを他場に移すというストロナックグループの計画に異議を唱える訴訟をボルチモア市が起こしたが、両者はその訴訟を取り下げることに合意した。

 この合意を導いた取決めは、ジャック・ヤング(Jack Young)ボルチモア市長、ストロナックグループのべリンダ・ストロナック会長、州のホースマンおよび様々な地元政府関係者の代表の支持を得て、10月5日(土)に発表された。

 州知事および州議会のリーダーたちに宛てた、この計画の支援者が共同で署名した書簡には、「数ヵ月間の集中的かつ実りある議論を経て、原則として合意に達したことをお知らせすることを光栄に思います」と記されている。

 ピムリコ競馬場の再開発を監督するのは、州政府関係機関であるメリーランド州スタジアム機構(Maryland Stadium Authority)である。1年の大半において、この敷地は競馬以外にも他のさまざまな目的のために利用されるだろう。

 プリークネスS開催週には、有名ゴルフトーナメントや大規模なレースイベントで使われるような仮設スタンドが多数建てられ、数万人もの観客のために幅広い種類のチケットが提供されるだろう。また、毎年プリークネスSの時期に開かれる盛大な野外フェスティバルに馬場内エリアが引き続き使われるだろう。プリークネスSは他の2つの三冠競走と同様に、1日の馬券売上げが数千万ドルにも上る。

 メリーランド州における競馬関連の取組みに長年深く関わり交渉を担当してきたフォアマン(Alan Foreman)氏は、仮設スタンドに言及してこう語った。「どの高額イベントでも見られるような、ラグジュアリーエリアを設けます。高額イベントは大きく進化し、提供できるものが充実しています。もちろん、私たちは馬場内エリアに人々が来られるようにします。そして一年の残りの期間については、この敷地内で実施可能なあらゆるイベントを行います」。

 ボルチモア市とワシントンD.C.の中間に位置するローレルパーク競馬場も取り壊されて、新しいデザインのグランドスランドが建設され、3つのコース(ダート・タペタ・芝)が敷設される。これにより、1年中調教活動ができるようになる。

 フォアマン氏は、「計画案では、ローレルパーク競馬場の工事から着手する予定で、新たな厩舎地区の建設と調教用タペタ馬場の敷設に重点が置かれます。その間、ローレルパークの在厩馬はピムリコ競馬場とティモニアム競馬場に移動し、レースの大半はピムリコ競馬場で施行されます。ローレルパークの厩舎地区が完成したら、馬もローレルパークに戻ってきて敷地内の他の工事も仕上げられるでしょう。ローレルパークの工事が完了すれば、ピムリコが取り壊されて再建されます。しかしプリークネスSは毎年ピムリコで施行されます」と語った。

 同氏は、工程表はおおまかなスケッチに過ぎず、設計作業・インフラ整備・調達手続きは、州議会および新たな州・地元自治体の運営者の手腕に掛かっていると述べた。支援者たちは、建設工事が2021年に始まることを期待している。

 フォアマン氏は、「立ち退きもあるでしょうが、工事期間は1年あるいは18ヵ月以上にはならないでしょう。私たちは1,500頭もの馬を扱っており、スタジアム建設と同じようにはいきません」。

 同氏によると、この提案を実行するには、敷地と建設工事の管理のために、必然的にいくつかの新たな政府機関を設立する必要性が出てくる。また、ストロナックグループはピムリコとローレルパークの2つの競馬場で運営免許を取得する。そして州当局が同グループの業績に不満を持てば、その免許は他の競馬事業者に付与される可能性がある。

 メリーランド州の有名な弁護士であるアラン・リフキン(Alan Rifkin)氏は、この交渉でストロナックグループの代理人を務めた。同氏はこう述べた。「競馬産業や多くの利害関係者にとって斬新なプランを提出したと、私たちは考えています。しかも、すでに競馬産業とボルチモア市が使える既存の資金源の範囲内でプランは実行されます」。

 ストロナックグループの役員は過去数年間、プリークネスSをローレルパーク競馬場に移動させることを公に提起してきた。それは、ボルチモア市の幹部および数人の州議会議員を憤慨させ、今年プリークネスSの運営権をボルチモア市に移そうとする訴訟が起こされるに至った。

 昨年、ストロナックグループとの協議を受けてメリーランド州スタジアム機構が作成した報告書には、「ピムリコ競馬場は耐用年数を過ぎている」と記されており、競馬場の全面改修と敷地内の小売・住宅地区の開発に4億2,400万ドル(約466億4,000万円)の費用が必要であると見積もられていた。この見積額は、三冠競走の1つを施行するのにふさわしい競馬場であるというビジョンに基づいていた。新たなプランでは、2つの競馬場の再開発の費用は当初の見積もりよりも5,000万ドル(約55億円)下回る。

 ストロナックグループは、今年のプリークネスSのわずか2週間前、構造エンジニアリング会社がグランドスタンドの一部を危険であると判断したとして、ピムリコ競馬場のグランドスタンドの大部分を閉鎖した。問題となった箇所は、グランドスタンドの1万4,000席のうち約7,000席を占めていた。

By Matt Hegarty

(1ドル=約110円)

[drf.com 2019年10月5日「Coalition lays out plan for major redevelopment of Pimlico, Laurel」]