海外競馬情報 2018年06月20日 - No.6 - 5
BHA、心電図モニタリングアプリを活用(イギリス)【獣医・診療】

 BHA(英国競馬統轄機構)は、馬の心拍数を瞬時に測定する"モニター・スマートフォンアプリ"を所属するすべての獣医師に配布しているところである。

 BHAはとりわけ競馬開催日に可能な限り最善のケアを馬に提供するよう取り組んでいるが、これはその最新の進展である。

 "アライヴコア(AliveCor)"と呼ばれるこの製品は、手持ちサイズの小さいモニターおよびアプリを通じて、その場で心電図テストを行うことを可能にする。

 アライヴコアは通常、競馬開催日にスプリンターサクレ(Sprinter Sacre)やエドウルフ(Edwulf)が遭遇したような出来事の際に使用されるだろう。また、不整脈や熱中症を経験した馬が再び出走するときのモニタリングのためにも使用される。

 [訳注:スプリンターサクレは10連勝後に臨んだ2013年デザートオーキッドチェイス(G2)で競走を中止した。発作性心房細動との診断。ジョセフ・オブライエン厩舎のエドウルフは2017年ナショナルハントチェイス(G2 約4マイル)の終盤、酸欠状態で地面に40分間も座り込んだ。両馬は長い年月を掛けてケアされ、再び勝利を挙げるまで回復した]。

 アライヴコアは次のようなさまざまな状況で使用される。 (1) 歩様検査で馬を速足で走らせたとき、 (2) 長いブランクを経た馬が再出走する前、 (3) 馬がレースで鼻出血を発症したとき、 (4) 裁決委員が競走後の検査を要求したとき、 (5) 馬が競走後に検査を受けるとき、 (6) 馬がレース中に適切に停止されなかったと厩務員が報告したとき、 (7) 馬のレースの疲労からの回復が遅れているとき。

 アダプターは馬の胸前に取り付けられ、記録された心電図はスマートフォンの画面で見ることができる。不整脈の兆候がある場合、これが一貫した状況であることを確かめるために、15分後にもう一度心電図を見る。

 異常な状況が続いていることが記録されれば、BHAの獣医師は、ロスデールス馬診療所(Rossdales Equine Hospital)かニューマーケット馬診療所(Newmarket Equine Hospital)に情報を送って診断を聞いてもいいか調教師に確認し、BHAが費用を負担する心臓の精密検査が必要かどうかについて助言する。

 アライヴコアは、ノッティンガム大学の学生たちによってテストされた。学生たちは、ノッティンガム競馬場、ハンティンドン競馬場、レスター競馬場で競走を終えたばかりの馬を対象に、600件もの心電図を撮った。

 ロスデールス馬診療所の馬内科学専門医であるセリア・マー(Celia Marr)氏はこう語った。「心電図600件のうち2件に、心房細動が確認されました。これは他の研究と一致します。出走馬300頭あたり1頭の割合で発症するので、心房細動は比較的よくある症状だと言えます。そして、一般的に自然に治癒します。日本の研究では、発症後5分以内に治癒する馬もいることを示していました。心房細動は、いつになく精彩を欠くパフォーマンスをしたときの1つの説明となり得ます。馬がゴールした時に誰も不振の理由を見つけられない場合、しばしばツイッターで"心房細動ではないか"と呟かれます」。

 アライヴコアはとりわけ障害競走の開催日に重宝されるだろう。

 マー氏はこう説明した。「スティープルチェイス(固定障害競走)では、心臓が大きい馬ほど優秀であると言われます。しかし、大きな心臓をもつ馬ほど心房細動を発症しやすいようなのです」。

 「デンマン(Denman)とスプリンターサクレに心臓のCT検査を行ったところ、彼らは丈夫で大きな心臓を持っていることが分かりました。大きな心臓を持っているゆえに、心房細動を発症しやすい傾向にあったようです。したがって、大きな心臓をもつことは強みではありますが、そのためにいくらかリスクがもたらされます」。

 [訳注:デンマンは2008年チェルトナムゴールドカップ(G1)優勝後、徐々に体調を崩し、持続性心房細動と診断された。手厚いケアを受け、2009年ヘネシーゴールドカップ(G3)で優勝するほどまで回復した]。

 「スティープルチェイスに出走する馬の平均的な体重は約550kgです。心臓は概してその1%なので約5.5kgです。しかし、デンマンとスプリンターサクレの心臓はいずれも、約6.5kgだったのです」。

By Mark Storey

[Racing Post 2018年5月23日「Quicker, smarter, better BHA veterinary officers to get heart-rate monitor and smartphone app」]