海外競馬情報 2018年04月20日 - No.4 - 2
若馬へのビスフォスフォネート使用は科学的調査が不十分(アメリカ)【獣医・診療】

 獣医師のジェフ・ブレア(Jeff Blea)氏は、全米馬臨床獣医師協会(American Association of Equine Practitioners)の競馬委員会の委員長を務めている。同氏は2年前、馬臨床獣医師が200人ほど集まった会場で「ビスフォスフォネート(bisphosphonate 骨吸収抑制薬。骨粗鬆症の治療薬の1つ)を使ったことがありますか?」と尋ねた。すると、4人~5人が手を挙げたのだが・・・。

 ブレア氏は、「その後、会場にいた25人~30人はビスフォスフォネートの薬物検査があるのか尋ねてきました。人間の骨粗鬆症(骨吸収量と骨形成量の不均衡あるいは低下による骨量の病的減少)の治療に使われるこの薬物は、馬臨床獣医師の間で人気のあるものになっていました」と述べた。

 4月4日、北中米競馬委員会協会(RCI)の動物福祉フォーラムがアーカンソー州ホットスプリングスで開催された。ブレア氏は、"競走馬へのビスフォスフォネートの使用の妥当性"についてのパネル討論会に参加した際に、この2年前の話を引合いに出した。

 人間の骨と同様に、馬の骨は常に新陳代謝を繰り返している。そして、圧力に応えるために骨細胞が増加するときの必要性に基づき再形成される。骨を再生できない、あるいは運動が制限されている人間の場合、ビスフォスフォネートは骨細胞の破壊を予防し、ひいては骨密度を維持する。

 しかしサラブレッドの場合は、競走に耐えうる健康的な骨を形成するために、骨を再生するプロセスが重要となる。

 ブレア氏とカリフォルニア大学デイヴィス校獣医学部のスー・ストーヴァー(Sue Stover)氏は、調教前あるいは馴致中の若馬にしばしば使用されるビスフォフォネートの効果と副作用について、参考にできる情報は限られていると指摘した。

 ブレア氏はこう語った。「実際、ビスフォスフォネートについての知識は限られています。それにも関わらず、サラブレッドの1歳馬と2歳馬のセリにおいて、この薬物の使用は蔓延しています。現役の競走馬にも使用されていると聞いたことがあります」。

 マクマーホールファーム(Machmer Hall Farm)のキャリー・ブログデン(Carrie Brogden)氏は、この議論はとても有意義であると述べた。なぜなら、若馬の種子骨炎や軟骨下骨嚢胞の治療のためにビスフォスフォネートの使用を獣医師が推奨しているのを聞いたことがあるからだ。ブログデン氏は、「多くの生産者はその薬物を使用していますが、私たちの牧場には抵抗感があります」と語った。

 ストーヴァー氏は、若馬へのビスフォスフォネートの使用は妥当であると信じる獣医師もいるが、科学的な調査が欠如していることに懸念を抱いていると述べた。

 ストーヴァー氏とミネソタ競馬委員会(Minnesota Racing Commission)の馬医学担当理事のリン・ホダ(Lynn Hovda)氏は、ビスフォスフォネートを使用すると患部だけを治療できず、馬の骨全体に影響を及ぼすと述べた。

 ホダ氏はこう語った。「ビスフォスフォネートを使用するときは、馬体全体を治療していると意識しなければなりません。その効果は、種子骨炎や軟骨下骨嚢胞だけではなく骨全体に行き渡ります。それに、この薬物を使用しないでそれらの症状をケアする方法があるかもしれません」。

 そのことを念頭に置けば、ビスフォスフォネートを若馬に使用した場合、骨の再生プロセスに長期的にもたらされる影響について、いくつかの疑問がある。ストーヴァー氏は、人間を対象に行った調査を考察すれば結果はさまざまであると述べた。

 ストーヴァー氏は、「競走馬の場合、どのような症状にビスフォスフォネートが使用されるのが妥当かについて、共通の認識がありません」と語った。同氏は、承認適応症外である背中や膝の痛みのためにビスフォスフォネートが使用されていると聞いたことがある。そして、この薬物の鎮痛効果や抗炎症効果についても懸念している。

 ブレア氏は、「"実際骨にどのように作用するのか?"というだけではなく、ビスフォスフォネートの痛みを抑える効果も懸念の1つです。若馬に生じる影響と鎮痛効果を把握するために、科学的な調査をさらに実施しなければなりません」と述べた。

 BHA(英国競馬統轄機構)は昨年、ビスフォスフォネートの使用ルールを以下のように厳格化した。


・ 3歳半に達していない若馬への使用を禁止。

・ 英国馬への使用認可薬品に限り制限的な使用が可能。

・ 適切な治療を目的とした使用であることを裏付ける獣医師の診断書が必要。また、獣医師による使用を義務化。


 米国において若馬へのビスフォスフォネートの使用をどのように規制することができるか考察するにあたり、北中米競馬委員会協会(RCI)のエド・マーティン(Ed Martin)理事長は、大手セリ会社とともに取り組むことを示唆した。

 ブレア氏はこう付言した。「この問題は競馬界と生産界の多くの人々に注目されてきました。ビスフォスフォネートは今や、競馬界だけではなく生産界にとっても"核のボタン"となっています」。

By Frank Angst

[bloodhorse.com 2018年4月4日「ARCI Convention: Panel Raises Bisphosphonate Concerns」]