海外競馬情報 2017年05月20日 - No.5 - 5
アブドゥラ殿下、事業強化のために2牧場を売却(イギリス・アメリカ)【生産】

 カリド・アブドゥラ(Khalid Abdullah)殿下は、所有するサラブレッド資産を統合強化する長期計画の一環として、合計約1,500エーカーの2つの牧場を売却した。その中にはバークシャー州ウォーグレーブのジャドモントファーム創設当初の牧場が含まれている。

 アブドゥラ殿下のサラブレッド資産売却で最も注目されるこのウォーグレーブの牧場(890エーカー)は、殿下が1982年に購買してジャドモントファームを創設し、その競走馬生産への初期の情熱を育んだ土地である。一方のファームスリー(Farm Three)として知られている牧場(570エーカー ケンタッキー州)は、クールモア牧場により購買された。

 これらの牧場の売却は、一連の秘密保持条項に準拠して実施されたが、ウォーグレーブの牧場の買い手は、英国に手を広げることを望む南アフリカの名の知れた生産者だと考えられている。

 ジャドモントファームのCEOであるダグラス・アースキン-クラム(Douglas Erskine-Crum)氏は5月7日、これらの取引を認め、こう語った。「私たちの牧場の中でもとりわけ全てが始まったウォーグレーブの牧場を売却することは、簡単には決心できませんでした。殿下の世界クラスの生産・競走事業を確立する構想は、ここで生まれました」。

 アブドゥラ殿下が最近所有馬頭数のスリム化を決定したことを受けて、これらの牧場は過剰と見なされた。殿下が4年前にサラブレッド資産全体の見直しを命じた結果の1つとして、ジャドモントファームの繁殖牝馬は2014年以降50頭以上がセリで売却され、200頭にまで減少した。現在では、自家生産馬を育成する土地を縮小することが要求されている。

 アブドゥラ殿下は、ニューマーケット近郊のバンステッドマナースタッド(Banstead Manor Stud)周辺での生産プログラムを重視していたので、以前は中軸となっていたウォーグレーブの牧場は、その役目を失いつつあった。バンステッドマナースタッドはジャドモントファームの英国の拠点であり、フランケル(Frankel)、ダンシリ(Dansili)、オアシスドリーム(Oasis Dream)などの種牡馬が供用されている。

 ウォーグレーブの牧場で繋養される25頭強の繁殖牝馬は、英国とアイルランドにいる他の繁殖牝馬と統合され、現在は125頭となった。さらにケンタッキー州に残るジャドモントファームの3つの牧場には、繁殖牝馬75頭が繋養されている。同州の各牧場は並んで立地しているが、ファームスリーはそこから20マイル(約32 km)離れていて、レキシントンの西にあるクールモア牧場の米国の拠点アシュフォードスタッド(Ashford Stud)に近い。

 アースキン-クラム氏は、その他に関しては通常どおりに運営されていると強調した。そして、「殿下は欧州と米国の最高レベルのレースに、所有馬を出走させ続けることを楽しみにしています。まだ2つの運営中の主要牧場があります。レキシントン近郊の牧場とバンステッドマナースタッドです」と語った。

 近年、アブドゥラ殿下がサラブレッド事業をどうするつもりなのかについて、様々な憶測が広まっていた。79歳の殿下は、競馬場にめっきり姿を見せなくなっている。子息達が殿下とサラブレッドに対する情熱を分かち合っていないという事実は、これまで収集された世界最高級のサラブレッドコレクションの一部あるいは全体を処分するのではないかとの噂に火をつけた。しかし、殿下は依然としてジャドモントファームの舵をしっかりと握っており、すべての重要な決定を自ら下している。

 これらの展開には対称性があり、アブドゥラ殿下の牧場売却の規模は、20%強を削減した繁殖牝馬のスリム化の程度に比例している。英国・アイルランド・米国のジャドモントファームの所有牧場の合計面積は、1,450エーカーの売却により5,350エーカーまで縮小したが、この削減の割合も同じく20%である。

 アースキン-クラム氏は、アブドゥラ殿下が推進した見直しは、競馬に対して抱く喜びを一層高めることが動機であると述べ、「ジャドモントファームのサラブレッドを将来にわたって継続させるとともに、その質を維持するために適切な戦略を採ることが、現在の最優先事項です」と付言した。

 ジャドモントファームはレースで素晴らしい成績を挙げ、実り多い時期を享受している。今年はすでに、アロゲートがペガサスワールドカップ(G1)とドバイワールドカップ(G1)で優勝した。英国には、英オークス(G1)の有力馬の1頭シャッタースピード(Shutter Speed)がいる。米国では、アロゲートの引退後の交配相手として購買されたポーラスシルヴァーライニング(Paulassilverlining)が、5月6日にG1・2勝目を挙げている。

 このサラブレッド資産の見直しは、カリフォルニア州において存在感を再び高めたいというアブドゥラ殿下の願いも受け入れている。同州では、ボビー・フランケル(Bobby Frankel)調教師が2009年に69歳で白血病のために亡くなるまで、殿下の所有馬を管理して功績を挙げた。

 アブドゥラ殿下が2013年に6頭の1歳馬を購買してボブ・バファート(Bob Baffert)厩舎に預託するまでの4年間、米国ではジャドモントファームの勝負服はほとんど見られなかった。これらの馬の中で抜群の優良馬は、世界最高のレーティングと競馬史上最高賞金を獲得したアロゲートである。

 アロゲートは2017年末に引退して、ジャドモントファームの米国の付属牧場で供用されると考えられている。 アロゲートがもうすぐ種牡馬入りすることから、ジャドモントファームは最終的に適切な交配相手となるダート血統の優良牝馬を求めて、1歳セリで購買を行っている。最近のジャドモントファームの米国での購買は厳選されたものであるが、購買頭数では2対1で欧州を上回っている。

 アブドゥラ殿下は繁殖牝馬群に新しい血統を取り入れるために、今年はより大きな割合の繁殖牝馬を外部の種牡馬へ送るだろう。バンステッドマナースタッドで供用される5頭の種牡馬すべてが自家生産馬であり、それらの種牡馬の全体的な成功は、内部の優良牝馬のサポートに大きくかかっている。しかしその一方で、繁殖牝馬群の血統的な構成を広げることを意識した努力がなされている。

By Julian Muscat

[Racing Post 2017年5月8日「Abdullah sells 1,500 acres after significant cull of broodmare band」]