海外競馬情報 2017年10月20日 - No.10 - 3
パリ会議:英国のEU離脱が欧州内の馬の移動を困難にする可能性(欧州)【開催・運営】

 英国がEU(欧州連合)を離脱する2019年3月には(あるいはその後ずっと)、英国・アイルランド・フランスそしてその他の欧州諸国のサラブレッド市場に大きな問題が生じるかもしれない。10月2日のIFHA(国際競馬統括機関連盟)年次総会(通称:パリ会議)で、その詳細が明らかにされた。

 凱旋門賞(G1)翌日のパリ会議の出席者たちは、英国がEUを離脱して"第三国"となったときに三国協定は消滅するというEUの見解を初めて耳にした。1960年代に締結されたこの三国協定は、欧州の競馬主要3ヵ国である英国・アイルランド・フランスにおいて馬の自由な移動を可能にしていた。

 BHA(英国競馬統轄機構)のCEOニック・ラスト(Nick Rust)氏、ホースレーシングアイルランド(HRI)のCEOブライアン・カヴァナー(Brian Kavanagh)氏、フランスギャロ(France Galop)の最高獣医責任者であり欧州・地中海血統書連絡委員会(European & Mediterranean Stud Book Liaison Committee)の共同議長であるポール-マリー・ガド(Paul-Marie Gadot)氏は9月末、ブリュッセルのEU交渉担当者と会い、望んでいなかったこの情報を手にした。

消滅する三国協定

 ガド氏は、ブレキジット(英国のEU離脱)を"苦痛を伴う話題"と表現し、パリ会議の出席者たちにこう語った。「EU交渉担当者の立場は一貫して変わらず、『2019年3月29日をもって英国はEUの第三国となるので、三国協定はもはや存在しなくなる』というものでした」。

 「"この三国協定は1973年に英国とアイルランドがEC(欧州共同体 EUの前身)に加盟する前に締結され、ブレキジット前に実施されていたので、今後も存続される"と主張するには無理があります。なぜならこの三国協定は2009年、欧州委員会指令に基づきEUにより承認され、法律の一部となったからです」。

 「英国は将来、ブレキジット前の地位を失うかもしれません。さらに、現在のスイスと同じ地位は手に入れられないだろうと言われました。スイスはEU加盟国ではありませんが、特別な協定を締結しているので、スイスとフランス・ドイツとの間では容易に馬を移動させることができます」。

不利がもたらされる

 ガド氏は最終的に、競馬産業の地位が最も重要視されるべきであるとし、こう語った。「経済的利益と技術面での利益を保護しなければなりません。英国に規制が課されれば、アイルランドとフランスだけでなく、英国と取引のある他の欧州諸国にも不利をもたらすでしょう」。

 「私たちはEU交渉担当者に、『英国はEUを離脱しようとしていますが、あなた方はEU加盟国であるアイルランドとフランスの競馬産業に不利を与えようとしています。注意してもらわないと困ります』と言いました」。

 この課題に取り組み解決策を探るために、ガド氏はサラブレッドを良好な健康状態に保つことや血統書についての相互認識を持つ必要性を指摘した。そして「そうしなければ、ジェネラルスタッドブック(英国とアイルランドのサラブレッド血統書)が欧州委員会に認められないという悪夢を見ることになるかもしれません」と述べ、三国協定は進化した形で継続されなければならないと主張した。

新しい制度

 ガド氏はこう語った。「これまでの協定を"三国協定"と呼べなくなることは明らかです。しかし、三国間で馬が容易に移動できる新しい制度を作り出していきます。新しい制度の下、国境検問所で円滑な税関手続きを可能にしなければなりません。そうしなければ、サラブレッド取引と馬の福祉に影響が及ぶことになります」。

 「もし2019年3月29日に数千頭もの馬が国境を越えることになれば、国境検問所を何百台もの馬運車が通過しようとするでしょう。これは私たちだけではなくEUの問題でもあります。なぜなら、EUはこれまで必要ではなかったことのために、多額の資金を費やさなければならないからです」。

 ガド氏は、英国・アイルランド・フランスはすでに共通の立場で協力して取り組んでいると述べた。そして、他の欧州諸国も欧州委員に対して深刻な懸念を表明していると指摘した。

 一方、カヴァナー氏は3ヵ国による共同の取組みについてこう述べた。「困難な状況に何かしら良いことがあるとすればこのことです。このプロセスは私たちに課題を与えますが、基本を考える良い機会です。英国・アイルランド・フランスは協力して取り組むしかありません。それは欧州委員会に強力なメッセージを送っています」。

By Howard Wright

[Racing Post 2017年10月2日「Free movement of horses proving 'a very painful subject'」]