海外競馬情報 2016年09月20日 - No.9 - 2
ニューマーケットに新しい坂路を建設(イギリス)【開催・運営】

 ジョッキークラブは8月24日、ニューマーケットに"象徴的な"坂路コースを新設する計画を発表した。これにより、"レースコースサイド(ニューマーケット競馬場ローリーマイルコースに隣接する調教エリア)"を拠点とする調教師たちは近いうちに、"ウォレンヒル(Warren Hill ニューマーケットの町を見下ろす調教場)"に似た環境で調教活動ができる。

 人口密集地のハミルトンロードがあるこの調教エリアを活性化する試みの1つとして、全長4½ハロン(約900m)で高低差30mのオールウェザーの坂路コースを建設することを、ジョッキークラブは計画している。総工費は1,000万ポンド(約13億5,000万円)を超える見込み。

 この坂路コースによって、世界的に有名な"ウォレンヒル"と同じ環境が整えられる。これまで、このエリアの調教師たちは坂路を使用するために、多くの場合1時間半以上かけて馬に町を横切らせなければならなかったが、その必要がなくなる。

 コースの幅はニューマーケットの他の調教コースと同じ4.5mで、脇に緊急車両用の走路も整備される。

 この坂路コースにより、"レースコースサイド"が馬主・調教師にとって一層魅力的になることが期待されている。"バリーサイド(バリーロードや鉄道線路の近くの調教エリア)"の収容率は89%である一方で、現在"レースコースサイド"の収容率は59%にすぎない。

 ジョッキークラブエステーツ社(Jockey Club Estates)のウィリアム・ギタス(William Gittus)社長はこう語った。「ニューマーケットの調教場の発展には我々も目を見張っていますが、これは今後も続くでしょう」。

 「"バリーサイド"は収容可能頭数ぎりぎりで、調教場はもちろん馬房を追加で建設しようにもほとんどスペースがありません」。

 「要求に応えるのであれば、"レースコースサイド"を対象としなければなりませんでしたが、人々への説得は難航しています。しかし、このエリアの調教師たちは、重要な坂路コースをもつ"ウォレンヒル"を利用するのに1時間45分もかけて移動しています」。

 ギタス社長は、2011年からこの計画に取り組んできたジョッキークラブエステーツ社の社員に敬意を表した。当初の計画では新しい坂路コースの高低差は20mとされていた。しかし、日本で人工の坂路を視察した後、高低差を30mとするほうが望ましいと考え、この計画をスケールアップした。これにより、新しい坂路は高低差40mのウォレンヒルに近いものとなる。

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 30mの高低差をつけるために、自然の高低差15mに加え、地面を掘って坂路の出発点を地下5mとする一方、ゴール地点は盛土により10m嵩上げする。

 ギタス社長はこう語った。「途方もない量の仕事でしたが、当社のチームは多くの厄介な問題に取り組み、ここまで到達しました」。

 「滅多にないことですが、5~6人の調教師を含むワーキンググループは、全員この計画に賛成しました。この段階に来られたことは素晴らしい快挙です」。

 ギタス社長はこの坂路の竣工予定時期について明言しなかったが、今後の様々な段階を踏まえれば、2020年以降になると見込まれる。

 同社長はこう続けた。「私たちはこれを5年計画ではなく今後50年以上続く計画と見ています」。

 「人々は今、バリーロードを歴史的なものとして語っていますが、100年前にはそのような歴史はありませんでした。私たちはここで長年事業を行っており、100年後に象徴となるものを作り上げることを望んでいます」。

 「これまでの仕事で多くの歴史的資産を扱ってきましたが、今の時代に適応するものだけが存続しています」。

 「伝統を尊重しないという意味ではなく、人々に来てほしいと思うのであれば、最新のものを取り入れ続けるべきです」。

 ジョッキークラブエステーツ社のニック・パットン(Nick Patton)副社長が指揮したワーキンググループに参加した調教師の中には、バリーサイドを拠点とし、ヒースコミッティー(Heath Committee)の議長であるサー・マーク・プレスコット(Sir Mark Prescott)調教師がいた。

 プレスコット調教師は、ハミルトンロードを拠点とするスチュアート・ウィリアムズ(Stuart Williams)調教師などに誘われてこのワーキンググループに参加したが、この計画を全面的に支持しており、ニューマーケットの誰もが恩恵を受けると考えている。

 プレスコット調教師はこう語った。「新しい坂路の建設は、よほど目障りなものが出来ないかぎり、たいへん良い計画になるだろうと思います。日本で坂路を視察しましたが、新たに建設される坂路は馬にとって有効で、調教師にとって抜群の立地だと確信しています。ただ、英国を象徴する地の一つであるこの町の景観を害さないか心配していました」。

 「しかし計画が明らかになって、その心配もなくなり、"レースコースサイド"が一層人々の役に立つエリアになるだろうと確信しつつあります」。

 「皆に恩恵をもたらす高いクオリティーを持つ坂路です。これにより"バリーサイド"では、"レースコースサイド"からの往来が減少しますので、混雑は解消されるでしょう。一方、"レースコースサイド"の調教師には対等の条件が与えられ、ニューマーケットの住民も混雑の軽減により恩恵を受けるでしょう」。

 プレスコット調教師は、ジョッキークラブがニューマーケットの将来の見通しを確かなものにするために尽力したことを称賛した。そして、新しい坂路が供用され、その効果を見るまで調教活動を続けていたいと述べた。

 同調教師はこう語った。「この坂路建設は大きな意義を持つ一歩であり、ニューマーケットへの厚い信頼を示していると考えます。私たちは、50年後に起こることについて大いに関心を持っており、今から楽しみにしています」。

 「初めてニューマーケットに来た時、調教師は35人、現役馬は750頭でした。今や調教師は81人で現役馬は2,700頭を超えています。したがって、ジョッキークラブはこの拡大に対応するために革新的でなければならず、先手を打たなければなりません」。

 ニューマーケット選出のマシュー・ハンコック(Matthew Hancock)下院議員も、ジョッキークラブエステーツ社の計画を歓迎し、こう語った。

 「ニューマーケットはますます活気づいています。現役馬は増え、"バリーサイド"では馬が溢れそうなくらい密集しています」。

 「新しい坂路の建設は、ニューマーケットの英国一の調教拠点という立場を強化し、この町の発展をさらに後押しするでしょう」。

 「この坂路建設の計画を軌道に乗せるために、膨大な仕事がなされました。ニューマーケットの将来、また英国競馬の将来を強化するために一丸となって取り組むすべての人々を称賛します」。

By Mark Scully

(1ポンド=約135円)

[Racing Post 2016年8月25日「Revolution in Newmarket with plans for amazing £10m gallop」]