海外競馬情報 2016年12月20日 - No.12 - 5
ケンタッキーの生産者、トランプ次期大統領に期待(アメリカ)【その他】

 米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏が選出されたことで世界は衝撃を受けたが、キーンランド11月繁殖セール(Keeneland November Breeding Stock Sale ケンタッキー州レキシントン)では、堅調な取引が次々に成立していた。

 全体的に見て、購買者の支出ぶりや意見に表れていたように、米国の生産者と馬主は大統領選後の将来について楽観的であるようだ。トランプ氏が当選後のスピーチで、伝説の三冠馬セクレタリアト(Secretariat)をスーパースターとして言及し称賛さえしたことを指摘する人もいる。これまでの政治指導者は滅多にこのようなことを言わなかった。

 1999年からサラブレッド馬主・生産者協会(Thoroughbred Owners and Breeders Association)の理事長を務めるダン・メツガー(Dan Metzger)氏は、「競馬界にとっては素晴らしいことでした。小さいけれど、私たちは脚光を浴びることができました」と述べた。そして多くの人々と同様に、トランプ政権下で生じるかもしれないことを予測するのは時期尚早だと付言した。

 しかし、トランプ氏のずけずけとした物言いとクリントン候補を優勢とする大方の予測にもかかわらず、大統領選後、サラブレッド産業のリーダーたちの間に差し迫った大きな懸念は見られない。

 キーンランド11月繁殖セール(全13日)の11日目を終えた段階で、平均価格は8万9,708ドル(約1,032万円)と前年をわずかに2%下回っただけであり、計19頭の上場馬が100万ドル(約1億1,500万円)以上で購買されている。

 トランプ氏が正式に大統領となり、共和党が上下両院で主導権を握った場合、政策は減税と規制緩和の方向に転換されるだろうと述べたセリ参加者もいた。そして「このような体制は、これまでのオバマ政権下の8年間とは対照的に、競馬界と生産界にとって前向きな環境を作り上げます」と述べた。

 ケンタッキー州サラブレッド協会(Kentucky Thoroughbred Association)とケンタッキー州サラブレッド馬主・生産者協会(Kentucky Thoroughbred Owners and Breeders Association)の専務理事を務めるチョーンシー・モリス(Chauncey Morris)氏は、「共和党政権は一般的に、減税・規制改革・自由貿易などを進めるので、競馬産業にとってとても期待できます」と観測する。

 スペンドスリフト牧場(Spendthrift Farm)のネッド・トフィー(Ned Toffey)場長は、キーンランド11月繁殖セールの好調ぶりだけではなく、急騰する米国金融市場に言及し、「長期的に見れば、この騒ぎが収まったら、トランプ氏があの言葉遣いにもかかわらず我々の産業を助ける人物となることが分かるでしょう」と語った。

 ウォール街の強気相場は、11月8日の開票直後の急上昇の後も続いている。大統領選後、米国の株価指数として最も引用されるダウ平均株価は1週間上がり続け、史上最高の18,868.69ドルに達した(訳注:その後もダウ平均株価は上がり続け、12月15日現在では19,792.53ドルに達している)。

 テイラーメイド牧場(Taylor Made Farm)の販売・セリ運営担当副会長であるマーク・テイラー(Mark Taylor)氏もトフィー場長と同様、トランプ氏が最終的に競馬界に利益をもたらすと信じている。選挙後に市場が不安定になることを心配していたが、そのような反応は見られなかったと、同氏は語った。

 そしてこう続けた。「トランプ氏が石油ガス部門を支援するいくつかの政策を実行に移すつもりだと直感しています。この部門の不振が1歳セールにやや活気がなかった理由の1つであったと考えています」。

 「北米には、オクラホマ州・テキサス州・カナダ西部から競走馬を購買しに来たいと考えている人が沢山いますが、彼らは原油価格下落のためにじっと耐えています」。

 共和党が主導する政権がもたらす変化は、他の面でも都合が良いかもしれない。

 テイラー氏はこう語った。「知り合いの多くは、小規模あるいは中規模の事業を営む人々であり、彼らはオバマケア(医療保険制度改革)やその他の負担を背負わされています。これまで多くの規制ができました。ビジネスの面から見れば、私たちは増え続ける規制と基本税に悩まされています。オバマケアだけでテイラーメイド牧場は年間10万ドル(約1,150万円)を追加的に負担しています」。

 「事業運営がますます困難になっています。トランプ氏が我々の問題に解決策を出すかどうかは分かりませんが、これらの規制のいくつかから解放されれば多くの人々が助かることになるでしょう。そうなれば、彼らはサラブレッドビジネスに注ぎ込める資金をもっと得られるでしょう」。

 ウィスパーヒル牧場(Whisper Hill Farm)のマンディ・ポープ(Mandy Pope)氏は、キーンランド11月繁殖セールで100万ドル(約1億1,500万円)以上の牝馬を2頭購買した後、このセリの最高価格馬となるアンライバルドベル(Unrivaled Belle)を380万ドル(約4億3,700万円)で購買した。同氏はその際、トランプ氏が選出されたことで経済情勢がいずれ改善することを望んでいると述べた。

 ポープ氏は、トランプ氏のカジノへの投資を引合いに出しながらこう語った。「経済が上向き、賞金額が増加することを望んでいます。トランプ氏が競馬ファンであれば良いと思っています。あのようなギャンブラーですので、馬産業に少し投資してくれるかどうか見守りたいと思います」。

 クレイボーン牧場(Claiborne Farm)のウォーカー・ハンコック(Walker Hancock)会長は、トランプ氏の選出が生産界の成長にとって有益なのかもしれないと考えられるや否や、サラブレッド市場は活気づいたと述べ、こう続けた。

 「トランプ氏の選出は、サラブレッド産業の多くの人々というよりも大半の人々にショックを与えましたが、市場に悪影響を及ぼしていないようです。優良馬を購買するのはまだ困難ですが、売却するのは難しいことではありません」。

 ハンコック会長は、大統領選後の数日間において株式市場と同時に米ドル相場が上昇したことは、サラブレッド産業にとって幸先の良いものであると述べ、米国人はこのドル高により世界中のセリでもっと頻繁にトップバイヤーとなるだろうと予測した。

 ハンコック会長はこう付言した。「ドル高のおかげで、外国に行って購買活動がしやすくなります。素晴らしいことです。新しい血統を米国に持ち帰ることができます」。

 「馬産業が成長し続ければ、より多くの良血馬が米国に戻って来るでしょう。それを待ち望んでいます」。

By Michele MacDonald

(1ドル=約115円)

[Racing Post 2016年11月20日「Kentucky industry leaders give Trump thumbs up in hope of economic stimulus」]