海外競馬情報 2016年11月29日 - No.11 - 1
中国での競馬開始は間近に迫っているか?(中国)【開催・運営】

 チャイナホースクラブ(China Horse Club: CHC)の創立者でありCEOのテオ・アー・キン(Teo Ah Khing)氏は、「国民の競馬への関心の高まりが、中国政府にもうすぐ商業競馬への道を開かせることを期待している」と述べた。

 CHCが8月に中国のオルドス(内モンゴル自治区)で競馬を開催した際、テオ氏は本誌のインタビューで「CHCが内モンゴル自治区に設置した新施設は、将来賭事を伴う商業競馬を始めるにあたりふさわしい"実験例"となるでしょう」と語った。

 そして、「CHCは創立からわずか3年しか経っていませんが、会員数は自ら課していた目標の300人にすでに到達し、100万ドル(約1億1,000万円)の入会費が支払われました」と続けた。それを基盤として、CHCとその会員はトップクラスの競走馬の所有権を購買し、CHCの勝負服を背負った馬でビッグレースを制したほか、スイス、オーストラリア、カリブ海諸国などでレジャー施設を開発してきた。

 またCHCは、アイルランドのクールモア牧場、米国ケンタッキー州のウィンスター牧場(WinStar Farm)やキーンランド協会(Keeneland Association)を始めとする大手の生産事業体やセリ会社との関係を構築している。

 CHCは最近、オルドスでグランドスタンド、厩舎エリア、馬場、生産牧場用地の長期賃貸契約を締結した。このような冒険的事業は、中国においてCHCの認知度を高める。

 CHCは主に、資金を使う機会が限られている中国の新興富裕層を勧誘している。宣伝文句は、「競馬を中心とした魅力的で人脈が広がる"ライフスタイル"」である。

 8月にオルドスで開催されたレースは、国際基準に照らし合わせれば控え目なものだった。しかし、多数のCHC会員に対し、週末のディナー、モンゴル・中国の文化イベント、会員同士の交流機会を提供したので、参加者の満足度は高かった。

 テオ氏はレースの合間にこう語った。「本日、CHC会員はレースに興奮しているだけではなく、私たちが彼らに約束していたことに満足感を覚えていると思います」。

 テオ氏は主に建設業で財をなした。そして、ドバイワールドカップ(G1)を開催する巨大なメイダン競馬場の建設を請け負ったときに、競馬に魅了された。CHCは会員の期待に応えるだけではなくそれ以上のことを目標としている、とテオ氏は述べた。その目標とは、中国政府が競馬に意識を向け商業競馬の発展を促進する行動を取るように、競馬への関心を高めることである。

 テオ氏はこう続けた。「競馬が盛り上がって数百万もの人々が見るようになったとき、やがて大きな力が働いて、自ずと多くのことが起こるようになると思います」。

 「サッカーを見てください。今日、中国企業は選手やクラブを買収しています。5年前は、そんなことは不可能でした。前向きに考えれば、競馬がそのような重要性や魅力を持つようになれば、政府はかなり抜本的なことを行うと思います」。

 "抜本的なこと"とは賭事認可のことですか?と聞かれたテオ氏は、「そのとおりです」と答えた。

 そして、今後の見通しについてこう語った。「オルドスにグランドスタンドと生産牧場を設けることに政府が同意するまで、わずか6ヵ月しか掛かりませんでした。ここ5年間で、そのような迅速な決定を私は見たことがありません。内モンゴル自治区でその種の決定があったことから推測すると、かなり控え目に言っても、来年には多くの事が起こると思います」。

 テオ氏は、賭事認可などの大きな転換には内部での十分な考察が要求されることを認め、こう続けた。

 「中国政府はとても賢明です。10億の国民の社会的な安全を考えなくてはなりません。ギャンブル依存症に陥る国民が出てきたら、そのような社会悪をどう解決するのでしょうか?したがって、政府は『わかりました。実験的に競馬を始めてみましょう』と言う前に、すべての解決策を考えておかなくてはならないのです」。

 テオ氏は微笑みながら、「しかしそうなれば、私たちは競馬を開始する場所としてオルドスを推すかもしれません」と付言した。

 8月のレースが何かを暗示しているとすれば、オルドスは競馬を始めるのにふさわしい場所ということかもしれない。よく晴れた蒸し暑い日に、約2万6,000人の観客がオルドスに押し寄せたのである。何百もの家族の大半が子供を連れ、遠く離れた駐車場からグランドスタンドまでの長い距離を歩いた。

 テオ氏は笑いながら「来てもらうためにお金を払ったわけではありません」と述べ、観衆の競馬への熱狂ぶりについて語った。CHCの見込みでは、約140万人もの中国人がインターネットのライブストリーミングでレースを観戦したとされており、同じような熱狂ぶりを示していた。

 オルドスのレースに出走するCHCの馬を仕上げた、CHCの首席トレーナーであるジャレッド・クッツェー(Jarred Coetzee)調教師は、商業競馬に対する中国人の熱意は相当な下準備によって支えられていると述べた。しかし、同調教師も商業競馬開始に必要な政策変更は高いハードルであることを認めている。

 南アフリカの競馬一家の出身で、南ア・英国・豪州・香港で経験を積んできたクッツェー調教師は、「中国では賭事は扱いにくい問題です。しかし商業競馬が開始されることを信じています。数え切れないほどの人々が競馬を楽しんでいるのですから」と語った。

 そしてこう続けた。「中国で競馬を開始するためにあらゆる支援がなされています。例えば、香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)は競馬場のような調教施設を建設しています。中国で一番美しいインフラが整いつつあります。HKJCはただその施設を建設して帰って行きます。もったいないことです。その施設には全てが盛り込まれていて、誰もが競馬の開始を待っています」。

 CHC国際諮問委員会の委員長に任命されたジョン・ウォレン(John Warren)氏も同じ意見を持っていた。同氏はエリザベス女王の生産アドバイザーである。

 ウォレン氏はオルドスの競馬開催日のガラディナーでこう語った。「オルドスの地に集まった米国・英国・豪州・アイルランド・フランス・ニュージーランド・マレーシア、そしてロシアの競馬界のリーダーたちの姿を見ると、とても勇気付けられます」。

 「この状況は、世界中の競馬関係者が中国の人々と協力関係を築くことに熱意と興味を持っていることの表れです。私たちは、中国の人々がスポーツで大きな成功を収める能力を持っていることを目にしてきました。適切な支援があれば、彼らがサラブレッドビジネスでも成功できると考えられる十分な根拠があります。5000年以上も馬と関わってきた歴史を持つ国ですから、中国と言えば馬の国であるというのが適切でしょう」。

 CHCは楽観的だが、中国政府は1940年代から続いている賭事禁止の措置を変更しようとする明白な意思を示していない。2014年に香港で開催されたアジア競馬会議(Asian Racing Conference)に参加したある競馬統轄機関の代表は、中国の商業競馬を推進する提案を求めたが、それに対するフォローはなかった。

 しかし、CHCは政策変更を実現する取組みをゼロから始めているわけではない。賭事は公式に禁止されているが、中国本土の複数の場所でレースは行なわれている。

 メイダングループ(Meydan Group)は、競馬開催に関連するインフラと出走馬をドバイから持ち込んで、四川省で3回の春競馬開催を施行し、すべて成功させた。同グループは開催後にそれらをドバイに持ち帰った。

 クッツェー調教師が述べたように、世界で最も影響力を持つ競馬統轄機関の1つであるHKJCは、香港の北側の中国本土(広州)に調教施設を建設中であり、それは現在最終段階に入っている。これは、収容頭数を増加させ厩舎環境を改善することで香港競馬の強化を図るための投資活動とされている。しかし、少し手を入れるだけで、その施設が世界トップクラスの競馬施設に変身するのは明らかである。

 何が政策変更の引き金になるのだろうか?

 テオ氏はこう語った。「中国で競馬産業が誕生すれば雇用がもたらされるので、中国政府の理解が進み、競馬の重要性は認識されるようになると確信しています」。

 CHCはその間、競馬への関心を高め、関係を構築し、来たるべき時のためにオルドスで準備を整えるだろう。

 ウィンスター牧場の会長兼CEOでレーシングマネージャーでもあるエリオット・ウォールデン(Elliott Walden)氏は、8月のオルドスでの競馬開催に参加してこう述べた。「今回の競馬開催は、欧州、豪州、米国でもそうであったように、ある日、中国でも競馬事業が急速に展開する可能性があることを示しています。是非ともここに戻ってきたいと思っています。いつかレースに出走させるために我々の牧場の生産馬を連れて来るかもしれません」。

By Bob Kieckhefer

(1ドル=約110円)

[The Blood-Horse 2016年10月1日「Can racing in China be around the corner?」]