海外競馬情報 2016年10月20日 - No.10 - 1
凱旋門賞ウィークエンドで学んだ6つのこと(フランス)【開催・運営】

 シャンティイ競馬場で初めて開催された凱旋門賞ウィークエンドから学んだ6つのことを振り返ってみたい。

(1)エイダン・オブライエン調教師は天才である

 それは、凱旋門賞ウィークエンドで判明したわけではなく、何年も前から周知の事実である。しかし凱旋門賞(G1・10月2日)の1着~3着独占は、オブライエン調教師の才能の究極の証明であり、その輝かしいキャリアの中でも抜きん出た偉業である。

 2着常連のファウンド(Found)、堅実な競走成績を残しているが決して並外れた能力を持つ馬とは言えないハイランドリール(Highland Reel)、ステイヤー界の王者オーダーオブセントジョージ(Order Of St George)でこの偉業を達成できたことは、オブライエン調教師の大一番で馬をピークに持ってくる才能がただならぬものであることを表している。

 オブライエン調教師はまさしく、この結果が示すとおりのレベルにある欧州の卓越した調教師である。1着~3着馬がすべてガリレオ産駒であったことよりも、このレースにガリレオ産駒がたった3頭しか出走していなかったことの方が意外だっただろう。

(2)苦戦しているフランス人調教師たち

 クリケット・ヘッド-マアレク(Criquette Head-Maarek)調教師がナショナルディフェンス(National Defence)でジャンリュックラガルデール賞(G1)を制したことにより、凱旋門賞ウィークエンドのG1・7レースでフランス人調教師が白星ゼロとなる事態はなんとか免れた。しかし、フランス人調教師たちの不振は凱旋門賞ウィークエンドに限られたものではなかった。ナショナルディフェンスの勝利はヘッド-マアレク調教師にとって、今年わずか3勝目だったのだ。さらに、アンドレ・ファーブル(Andre Fabre)調教師も今年G1・2勝(うち1勝はドイツでの勝利)しかしておらず、世界でG1・18勝を挙げているオブライエン調教師とは比較にならない(訳注:オブライエン調教師は凱旋門賞優勝後、フィリーズマイルとデューハーストSを制し、10月20日現在でG1・20勝を挙げている)。

 ジャン-クロード・ルジェ(Jean-Claude Rouget)調教師はG1・8勝を挙げ、フランスでは向かうところ敵なしだった。しかし、凱旋門賞に向けての仕上げ段階でラクレソニエール(La Cressonniere)が故障し、同レースを回避せざるをえない不運に見舞われた。そして、愛チャンピオンS(G1)でファウンドを3/4馬身差で下したアルマンゾル(Almanzor)を追加登録しないことに決定した。その代わり、アルマンゾルは英チャンピオンズデーに施行されるチャンピオンS(G1)に向かう。そこで優勝を果たせれば、フランスにとって名誉挽回となるだろう。(訳注:アルマンゾルは10月15日施行のチャンピオンSで優勝した。ファウンドは2馬身差の2)。

(3)1番人気馬の不振

 2日間に施行されたすべての重賞レースにおいて、1番人気馬は3勝しかしなかった。そのうちの1勝は、アラブ競走における単勝オッズ1-2(1.5倍)がつけられた馬によるものである。サラブレッド競走に限れば、1番人気で優勝したのは土曜日第1レースのショドネイ賞(G2)を制したドーハドリーム(Doha Dream)と、日曜日最終レースのフォレ賞(G1)を制したリマト(Limato)だけである。

 ザラック(Zarak)、ヴァジラバド(Vazirabad)、ホワイトクリフスオブドーヴァー(Whitecliffsofdover)、ソーミダー(So Mi Dar)、ポストポンド(Postponed)、メッカズエンジェル(Mecca's Angel)はすべて、一番人気を裏切った。開催場がロンシャンからシャンティイに変わったことで出走馬の調教に違いが出てくることが、馬券購入の際の検討要素に十分入れられていなかったのだろう。

 シャンティイでは位置取りが鍵となる。直線1000mで施行されるアベイドロンシャン賞(G1)を別にすれば、最後の直線へと向かう長いコーナーで外を回って優勝した馬は1頭もいなかった。ファウンドは内柵すれすれに、オーダーオブセントジョージとハイランドリールは内に1頭入る程度でコーナーを回った。一番人気のポストポンドは内に3頭、2番人気のマカヒキは内に5頭入る程度でコーナーを回った。これでは勝利に手は届かない。

(4)来年のクラシック競走の手掛かり

 マルセルブサック賞(G1)優勝馬ウハイダ(Wuheida)とジャンリュックラガルデール賞優勝馬ナショナルディフェンスは両馬とも、来シーズンのクラシック競走に大きな影響を与えるだろう。

 ウハイダがマルセルブサック賞を制した後、チャーリー・アップルビー(Charlie Appleby)調教師はこう語った。「ウハイダは3歳シーズンに向けて成長する牝馬という意味では、厩舎では一番目立つ1頭です。愛らしく大柄で素質ある牝馬で、私たちはオークス有力馬と見ています」。

 ナショナルディフェンスについても、プレッシャーを掛けられている時に落ち着いてレースを進め、合図を送られたときに突進する様子は、数時間後にリマトが見せたパフォーマンスに驚くほど似ており、クラシックホースの気配が漂っていた。

(5)名声を確立しつつある若手騎手

 優勝騎手に目を向けると、世代交代とまではいかないまでも、数名の騎手が存在感を示し始めていることが感じられる。確かに、卓越しているライアン・ムーア(Ryan Moore)騎手は凱旋門賞を制し、また、マルセルブサック賞を制したウィリアム・ビュイック(William Buick)騎手はこの数年間最高レベルのパフォーマンスを見せている。しかし一方で、ジョージ・ベイカー(George Baker)騎手、ピエール-シャルル・ブドー(Pierre-Charles Boudot)騎手、フレディ・ティリキ(Freddie Tylicki)騎手、ルーク・モリス(Luke Morris)騎手、ハリー・ベントレー(Harry Bentley)騎手も、名声を獲得したシーズンを締めくくるのにふさわしい勝利を収めた。

 弱冠23歳にして、ブドー騎手(ジャンリュックラガルデール賞優勝)はすでにフランスのトップ騎手の1人となっている(訳注:10月16日に史上最多の年間229勝目を挙げたブドー騎手は、昨年に続き仏リーディングジョッキーにほぼ確定している)。また、ベイカー騎手(カドラン賞優勝)にとって今回の勝利は、この3年間でG1・4勝目となり、着々とその地位を確立している。ベントレー騎手(フォレ賞優勝)とティリキ騎手(オペラ賞優勝)は、同じ馬で今年すでに果たしたG1優勝がフロックではないことを示した。さらに、検量室で誰もが認める一番の努力家モリス騎手(アベイドロンシャン賞優勝)にとっては、今回の勝利はその努力に対する正当な報酬に過ぎない。

(6)舞台を変えることは良策だ

 ロンシャン競馬場の改築のため、今年の凱旋門賞の舞台がシャンティイに変わった事は、素晴らしいことだった。この変更はレースにこれまでとは別の要素をもたらした。つまり、いつもとは違うタイプの馬に合っていたということである。

 これは競馬にとって、一考に値することではなかろうか。新たな課題と条件を提供するために、自転車競技の世界選手権は毎年持ち回り開催であり、サッカーワールドカップやクリケットのテストマッチは毎回開催地を変えている。

 凱旋門賞が毎年開催場を変えてはいけない理由などあるのだろうか?凱旋門賞ウィークエンドの舞台を変えてみてはどうだろうか?このような大観衆を収容することのできる競馬場は限られているが、ブリーダーズカップ開催のように大規模な競馬開催は持ち回りにしてもいいのではなかろうか?

By Stuart Riley

[Racing Post 2016年10月3日「Six things we learned from Arc weekend」]