海外競馬情報 2015年12月20日 - No.12 - 2
競馬産業内に新しい決定方法をもたらすメンバー協定が締結(イギリス)【開催・運営】

 英国競馬界は11月2日、“競馬にとって画期的な瞬間”を一体となって祝った。しかし、BHA(英国競馬統轄機構)、競馬場協会(Racecourse Association: RCA)、ホースメングループ(Horsemen’s Group)の間で交わされた新協定に対し、ピーター・サヴィル(Peter Savill)氏(元BHB会長)が反対票を投じたために、完全一致までには至らなかった[訳注:BHB(英国競馬公社)はBHAの前身]。

 この協定により、競馬産業内で新しい決定方法が導入され、これまでのように特定部門の利害関係が優先される事態を招かないようにする。また、この協定はBHAが自律的に決定を下す分野(公正確保・懲罰・免許付与など)や、決定に協議を必要とする分野(競馬番組作成など)を明確にする。

 この協定はさらに、競馬界の重要な三団体間で多数決を要する分野(開催日程作成方針など)、三団体間で満場一致の合意を要する分野(主要な資金調達の仕組みについての戦略など)を定める。

 このメンバー協定は、85%の競馬場から承認回答を得た。しかし、2017年3月までの試行期間において、新たな統治体制がどう機能するかについての疑問は残されたままである。

 2016年末以降、この協定の終了を望む者がいれば、3ヵ月の通知期間が設けられる。

 BHAのCEOニック・ラスト(Nick Rust)氏は、“自己本位の団体”は商業的ニーズに合わせるために協定下での決定を無視するだろうし、何者もそれを阻止できないと認めた。しかし、この協定の下、団結して取り組むことで一層大きな利益を得られることを皆認識しているので、このシナリオは現実にはならないだろうと主張した。

 BHAのスティーヴ・ハーマン(Steve Harman)会長は次のように語った。「競馬と競馬産業にとって画期的な瞬間です。競馬産業が一致団結したことで、私たちはかなり強い立場で取り組んでいきます」。

 11月5日にロンドンで報道陣および競馬界の重要人物たちと会った人々が示した連帯感が、その団結の良い例であった。それは、RCAのマギー・カーヴァー(Maggie Carver)会長とCEOのスティーヴン・アトキン(Stephen Atkin)氏、BHAのハーマン会長とCEOのラスト氏、ホースメングループのフィリップ・フリードマン(Philip Freedman)会長、馬主協会(Racehorse Owners Association: ROA)のレイチェル・フード(Rachel Hood)会長である。

 この協定を承認した最後のグループは競馬場である。そして、唯一プランプトン競馬場(サヴィル氏が会長兼共同オーナーを務める)が、この計画を承認しないと回答した。

 この協定での主な意思決定機関であるメンバー委員会は、高度な戦略的意思決定を行う責任を担い、年4回の会合を行う。また、戦略推進にあたり日々生じる問題に対応するために毎月開かれる上級委員会が、メンバー委員会をサポートする。

 メンバー委員会の構成員と持ち票数は以下のとおりである。

 BHA会長(3票)、RCA会長(1票)、その他競馬場の代表2名(1票ずつ)、ROA理事長(1票)、サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders’ Association)の代表(1票)、免許取得者の代表(1票)。

 ラスト氏は次のように語った。「BHAは独立性の高い競馬統轄機関ですが、我々だけで重要な意思決定を下すことはできません。この協定はBHAの役割を明確にするとともに、競馬界の他の団体の役割も暗黙のうちに確かにしていくでしょう」。

 「競馬の減少傾向を防ぎ、成長を促そうとするのであれば、産業全体が団結して戦略的意思決定を行う必要があります」。

 「競馬に最大の利益を与える重大な決定を下すために、この協定は重要な利害関係者を正式な話し合いのテーブルに着かせ、私たちを正しい方向に向かわせるでしょう。そして、私たちを単なる団体の集まり以上のものにします」。

 フリードマン会長は、この協定が締結されても競馬産業の問題がすぐに解決するわけではないことを認め、次のように語った。「この協定は“競馬権”を保証するものではありませんが、それを制定するための前提条件にはなるでしょう。BHA、競馬場、ホースマンが今日のように団結しないかぎり、これら三者から成る競馬機関が運営する“競馬権”を政府が法制化することはとても期待できないでしょう」(訳注:競馬権とは、英国競馬を対象に賭事を提供するいかなる業者も事業を営むために購入しなければならい権利)。

 商業的判断に反していても、協定下での決定を受け入れなければならない理由を聞かれ、ラスト氏は次のように語った。「誰かがそれを受け入れたくないと考え、短期的で自己本位な見解を持ったとすれば、そのようなシナリオは起こり得ます」。

 「しかし、私たちがここでまとめ上げたことを考えると、団結して取組めば一層大きな利益があるということについての強い関心と支持があります」。

 アトキン氏は、依然として意見の不一致があることを認めたが、次のように付言した。「いろいろな意味で、ラスト氏が述べたように、この協定によって核心的な問題は変わりません。しかし、過去数年を振り返れば、私たちは核心的な問題に重点的に取組む前に、プロセスについての話し合いに時間の半分を費やしてきました。これが大きな変化であると考えます」。

 「誰もがプロセスについて事前に認識していることが、この協定の最大の利点です。今後、私たちは直ちに問題に取り組むことができ、時間を浪費することはないでしょう」。

 

 メンバー協定の下での各分野の決定方法
 

BHAが自律的に決定を下す分野

・公正確保

・法令順守

・懲罰

・免許付与

・裁決などの開催当日の競馬運営

・人馬に対する薬物検査と薬物規制

・調査とデータ収集

・国際間での英国代表としての業務

 

決定に協議を必要とする分野

・競馬番組

・パターン競走とリステッド競走の選定基準

・最低賞金額

・ハンデ戦の負担重量やレーティングの方針変更

・出馬投票と出走登録サイクルの変更

・ウェザビーズ社との契約変更

・ルール変更

・BHA予算−料金体系

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三団体間で2:1の多数決を要する分野

・開催日程作成の予定表とプロセス

・開催日程作成の方針

・開催日程作成の協議

・新設競馬場の申請に関する全般的な方針

・模範出走頭数の原則

・競馬開催の地理的重複の定義

 

三団体間で満場一致の合意を要する分野

・主要な資金調達の仕組み(賦課金制度およびその代替制度)など全体的な産業戦略

・政府との関係についての方針

・賦課公社の資金提供に関する提案

・賞金額契約の草案(このような契約はBHAとホースマンが個別の競馬場と交渉し、RCAは代表を務めない)。

 

 

 

 

 

 

 

 

By Bill Barber

[Racing Post 2015年11月3日「Landmark agreement brings key players together」]