海外競馬情報 2015年10月20日 - No.10 - 3
IFHA、馬の福祉を重要課題として取り上げる(国際)【開催・運営】

 10月5日のIFHA(国際競馬統括機関連盟)年次総会(通称:パリ会議)の演説において、ルイ・ロマネ(Louis Romanet)会長は、“国際レベルでの競馬の将来にとって不可欠な課題”について概説した。

 年次総会で演説したロマネ会長は、検査施設認定制度、馬と騎手の福祉、ルールの統一化、主要競走に関するマーケティングについて重点的に語った。世界中の競馬管轄区において質の高い規制と最良の実施を推進することが、IFHAの任務である。

 数年来、薬物検査の統一方針と統一手順の作成を進めてきたロマネ会長は、今回の会議で改めて説明を行った。

 同会長は次のように語った。「IFHA諮問委員会(IFHA Advisory Council)の作業部会が設定した基準を満たす世界各地の検査施設の監査・認定を完了させるため、我々は熱心に取り組まなければなりません。これにより、現時点で最高の水準を満たし、全ての地域からの照会に対応できる検査施設を世界各地に置くことができます」。

 「近い将来、これらの検査施設が国際的に重要な全てのレースの薬物検査を実施することを願っています。これは、生産・競走・賭事を形作る競馬が、可能な限り最も厳格な薬物検査の下、実施されているということを保証する手段となります」。

 ロマネ会長は福祉と安全について、人々はそれを求めていると述べ、次のように語った。

 「適切な判断に基づいた安楽死措置、引退、再調教、引退競走馬の新たな馬主への引渡し、鞭使用法についての情報をさらに蓄積し、最良な方法で実践することを目指さなければなりません。このため、IFHA馬福祉委員会(Horse Welfare Committee)に対し、競馬産業の利害関係者や団体とともにこの課題に取組むよう指示しました。また、馬の殺処分のような繊細な課題に共同で取組む時期でもあります。一方、騎手に関しては、できる限り安全に騎乗できる環境を確保するため、あらゆる手段を講じなければなりません」。

 ロマネ会長は、「ルール統一化は、大半の競馬統括機関の目標ですが、様々な方針と管理体制を考えれば、その実現は難しいことです。しかし、競馬にとって最も基本的なこととして要求されています」と語った。そして、裁決委員が走行妨害の審議をした時にソーシャルメディアネットワーク上でなされる議論や、その裁決が統括機関ごとに異なることについて指摘した。

 そして次のように語った。「関連国が世界中に分散し、競馬運営についての考え方が根本的に異なっていることを考慮すれば、この任務が大変なものであるとひしひしと感じます。しかし、馬主・調教師・賭事客・ファンは、これまでこの違いをあまり意識してこなかったと言えます。それでも昨今においては、(降着や審議のあった)ビヴァリーDS(G1)、セントレジャーS(G1)、愛チャンピオンS(G1)の後のソーシャルメディア上の議論を見れば、走行妨害などに関するルールの統一を求める声はこれまで以上に高まっています」。

 またロマネ会長は、優れた馬・ホースマン・競走のプロモーションを行うことが、競馬への関心を高めるために不可欠であると述べ、次のように続けた。

 「現代では、消費者にお金を使わせるレジャーはますます多様化しています。他のエンターテインメントやスポーツは、より多くの資金を投じ、最高のブランドとイベントを確立するために財源を割り当てています。競馬界が同じように取組み、競馬産業のイメージアップにつながるパートナーを探すことは必要不可欠です」。

 レーシングオーストラリア(Racing Australia)の会長であり、アローフィールドスタッド(Arrowfield Stud)のオーナーであるジョン・メッサーラ(John Messara)氏は、10月5日に基調演説を行った。同氏は1979年の時点では株式ブローカーであったが、サラブレッド産業に深く関係するようになった人物である。

 メッサーラ氏は豪州競馬界における経験に基づき、次の結論を提示した。「公正確保や薬物のない競馬環境の存在を信じていますが、その実施は非常に難しいことです。私たちは、世界で最高の実施例となり、豪州全体で統一した競馬施行規程を定めるつもりです」。

 「世界中から参加者が訪れる競馬を提供し続けるために、私たちは取り組みます。これまで同様、主要競馬カーニバルを強化し、オーストラリア独特のホスピタリティーと魅力的な賞金額、それに高水準の検疫施設を用意して世界中の参加者を迎えます。私たちは、競馬参加者の事業活動における新技術の利用や近代化、透明化を進めて、スポーツとしての競馬を振興し、次世代に向け競馬をプロモートするために取組みます」。

 「私たちは動物福祉など社会の期待に応え続けます。また、すべての国際フォーラムやIFHAのような所属組織において、私たちの役割を引き続き果たします」。

 今回のパリ会議において、IFHAとロンジン社の提携延長と、ロンジンワールドベストホースレース賞(Longines World's Best Horse Race award)の創設が発表された。この賞は、ロンジンワールドベストレースホースランキング委員会が最高レーティングを付けたG1競走に贈られる。そのレーティングは、当該レースの過去3年間の上位4頭のレーティングが基準となる。

 その他、競馬研究所(Laboratoire des Course Hippiques: LCH)の理事であるイヴ・ボネール(Yves Bonnaire)博士が、前出のIFHA検査施設認定プログラムの最新情報を説明した。また、国際血統書委員会(International Stud Book Committee:ISBC)およびウェザビーズ社(Weatherbys)の会長であるジョニー・ウェザビー(Johnny Weatherby)氏が、ISBC年次総会とウェザビーズ社の概要について発表した。

 香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club:HKJC)の競馬統括担当専務理事であるアンドリュー・ハーディング(Andrew Harding)氏は、IFHAと国際獣疫事務局(OIE)の現在の関係と、現行の馬の国際移動手段について詳しく説明した。また、欧州・地中海競馬連盟(European Mediterranean Horseracing Federation)の事務局長であるポール・カーン(Paull Khan)博士は、中央・東ヨーロッパ諸国で行われている様々な競馬について概説した。

 この会議では、2つの討論会も開催された。IFHA副会長のウィンフリード・エンゲルブレヒト-ブレスケス(Winfried Engelbrecht-Bresges)氏は、世界の不正賭事市場についてのセッションの司会を行い、HKJCのマーティン・ピュアブリック(Martin Purbrick)安全・公正担当理事はアジアの状況についての知見を述べた。また、ICSSソルボンヌ・スポーツ公正プログラム(ICSS-Sorbonne Sport Integrity Program)のローラン・ヴィダル(Laurent Vidal)会長は、多くの国々の実例を挙げ、プロスポーツ対象の賭事に関連する犯罪行為について議論した。

 米国ジョッキークラブのジェームズ・ギャグリアーノ(James Gagliano)副会長は、レーシングポスト紙のアラン・バーン(Alan Byrne)編集長、タブコープインターナショナル社(Tabcorp International)の国際事業開発部のポール・クロス(Paul Cross)部長と共同で、賭事客、利害関係者、競馬ファンへの“情報配信の過去・現在・未来”について論評した。

By Tom LaMarra

[bloodhorse.com 2015年10月5日「Equine Welfare Among IFHA's Critical Issues」]