海外競馬情報 2014年07月20日 - No.7 - 3
BHA、アナボリック・ステロイド使用に対する罰則を厳格化(イギリス)【獣医・診療】

 BHAは6月26日、アナボリック・ステロイドを投与されていることが判明した馬に14ヵ月間の出走停止処分を科すという新しい罰則を発表したが、BHA(英国競馬統轄機構)のCEOポール・ビター(Paul Bittar)氏自身は、永久出走停止処分の方が望ましいと考えていることを認めた。

 ビター氏の個人的見解はBHA理事会の総意よりも厳しいが、同氏は、BHAのルールの見直しに関する議論で、罰則がこれまでの6ヵ月間の出走停止処分から厳格化されたことに満足していると述べた。昨年の春に、マームード・アル・ザルーニ(Mahmood Al Zarooni)調教師が8年間の調教停止処分を受けることになった事件の時に関わったゴドルフィンの所有馬に科されたのがこの6ヵ月間の出走停止処分であった。

 BHAは英国競馬界でのアナボリック・ステロイド使用にいわゆる“ゼロ・トレランス主義(どんな小さな違反も見逃さない考え方)”を適用することを発表したが、大きなルール変更は、ステロイドを投与された馬は1年2ヵ月の間出走することができないということであると、ビター氏は語った。

 そして次のように続けた。「永久出走停止処分が議論された理由の1つは、私がその見解を述べたからですが、これは個人的見解でありBHAの方針ではありません」。

 「多くのBHAの民主的決定がそうであるように、BHAの方針がいつも私の個人的見解と一緒になるとは限りません。この問題について議論しましたが、調教師への調教停止処分と併せて二重の抑止効果となるので、最終的にこの方針を採ることになって大変満足しています」。

 6月26日の発表は、昨年アル・ザルーニ調教師に8年間、ジェラード・バトラー(Gerard Butler)調教師に5年間の調教停止処分が科された後に始まったルール変更プロジェクトの結果である。この2人の調教師はいずれもアナボリック・ステロイドを含む禁止薬物をその管理馬に投与していたことで有罪とされた。

 ニューマーケットの調教師9名がサンゲート(Sungate ステロイドの一種スタノゾロールを含む馬への治療薬)を使用した事案については、獣医師の助言あるいは獣医師自らの手によりこの治療薬が投与され、そして治療記録にも残っていたことから、BHAは罰則を科す根拠はないとして、追究を継続しないことにした。

 ビター氏は、この新しい方針には調教師への長期間の調教停止処分(期間が延長される可能性を伴う)もあるので、違反行為が繰り返されるのを防ぐのに十分な抑止効果があると確信している。

 そして次のように語った。「二重の抑止効果を持つことになります。調教師への調教停止処分は馬に科される14ヵ月間よりもずっと長いものになり得ます。馬の永久出走停止処分についても議論しましたが、結局のところ馬はアナボリック・ステロイドの投与を拒めませんし、14ヵ月間の処分は馬にとってもまた調教師にとってもキャリアを終わらせかねないものなので、十分な抑止力になると考えました」。

 新しい指針はグラスゴー大学の馬臨床学科のサンディ・ラブ(Sandy Love)教授が指揮したプロジェクトの成果であり、2015年1月1日から実行される。その前にBHAは、いつでも、どこにおいても馬の薬物検査を実施できることや、誕生後12ヵ月以内(後に6ヵ月以内となる予定)に馬の登録を行うことの義務付けなども含め、この新しい方針を実施するためのルール変更作業に着手する。

 現在は英国内での検査時に薬物が検出されない限り、アナボリック・ステロイド使用を容認している国からの馬の遠征に制約はないが、新ルールは同じ方針を採っているアイルランド、フランス、ドイツ以外から馬を出走させる場合は薬物検査を容易にするために、出走予定レースの最低14日前までに英国に入っていなければならないと定める。

 ビター氏はこのシナリオについて次のように語った。「世界中の競馬管轄区が絶えず薬物検査に関する水準を上げている一方で、もし、ある競馬管轄区が国際的な最低基準を満たしていないのであれば、これを好都合としてそこに馬を遠征させようとする競馬管轄区もあるのではないかと考えます。この方針の下では、この状況を防ぐことは困難です」。

 このような行為をなくすために役立つ1つの方法は、調教中のアナボリック・ステロイド使用が容認されている北米のような競馬管轄区の馬の体毛サンプルを検査することである。これが2015年1月1日から実施されることはないが、BHAは将来導入するつもりである。

 ビター氏は次のように付け足した。「薬物使用嫌疑の目的で体毛サンプルを利用することができるかまだ確信が持てません」。

 北米からの遠征馬が新しいガイドラインに適合しないのであれば出走登録を断られる可能性はあるかと尋ねられ、ビター氏は、「その可能性はありますが、英国が独断で決定することはできないでしょう。今すぐに実行に移すつもりはありません。将来実行する可能性はありますが、おそらく一方的に決定できません」と述べた。

 アスコット競馬場も新しい方針を定めるプロセスに参加したが、ビター氏によれば、アスコット競馬場側は、レース日の14日前には英国に入っていなければならないからといって海外からの遠征馬関係者の関心を大きく損なうことはなく、英国馬が同じ規定の対象にならないからといって不平を持つこともないだろうと考えているとのことである。

 ビター氏は次のように語った。「南半球からの遠征馬はすでにレースの14日よりずっと前に英国に到着しています。他方、ロイヤルアスコット開催への米国からの遠征馬の中には14日以上前より遅くに英国入りしている馬も今は何頭かいます。したがって、この方針はいくつかの競馬管轄区の少数の遠征馬に影響を与えるだけでしょうが、その潜在的影響についてはアスコットや他の競馬場と連絡を取り合っており、どの競馬場も協力的でした。この強化された方針にはすべての利害関係者の支持が得られています」。

 そして財務について次のように付言した。「この方針の実施にはいくらか費用が掛かりますが、薬物検査に掛かる費用と全体的な薬物検査レベルには大きな変化はありません。他の小幅な費用増加は2015年予算に組み込まれるでしょう」。
 

新ルールの要点             

> > 馬にはどの時点においてもアナボリック・ステロイドを投与してはならず、例外は認められない。

> > アナボリック・ステロイドを投与された馬は14ヵ月間出走することが禁止される(変更前のルールでは6ヵ月間)。登録後は、馬がどこにいてもいつでも薬物検査を行うことができる。

> > すべての馬は誕生後12ヵ月以内に登録されなければならず、後にこの期間は6ヵ月となる。

> > 英国において公平な競走条件を確保し、国際的な調和に向けて前進することを目標とする。 


By Lewis Porteous

[Racing Post 2014年6月27日「BHA's ‘zero tolerance’ on steroids」]