海外競馬情報 2013年03月20日 - No.3 - 4
フランケル首位のワールドサラブレッドランキングに様々な意見(イギリス)【その他】

 フランケル(Frankel)は1月15日、ワールドサラブレッドランキング(World Thoroughbred Rankings: WTR)において史上最も偉大な馬であると宣言された。しかし、ハンデキャッパーの決定が過去の史上最高馬ダンシングブレーヴ(Dancing Brave)やシャーガー(Shergar)のレーティングを下げる形でフランケルを首位としたことから、議論が巻き起こった。

 このWTRの決定に、ダービー馬シャーガーの騎手であったウォルター・スウィンバーン(Walter Swinburn)氏は困惑し、一方トップの座から落ちた凱旋門賞馬ダンシングブレーヴの調教師であったガイ・ハーウッド(Guy Harwood)氏は、“ナンセンスの極みだ”と非難した。

 昨年のクイーンアンS(G1)とインターナショナルS(G1)の圧倒的勝利により140のレーティングが与えられたことを受けて、WTRの共同会長であるギャリー・オゴーマン(Garry O’Gorman)氏は、“フランケルは最高の競走馬としての新基準となる”と言明した。

 WTRのレーティングが従来のままであれば、フランケルの140のレーティングは、ダンシングブレーヴの141に次ぐ同率2位であった。しかし、BHA(英国競馬統轄機構)のトップハンデキャッパーであるフィル・スミス(Phil Smith)氏による過去のレーティングの“見直し”の結果、ダンシングブレーヴ、シャーガーおよび2年連続の凱旋門賞(G1)馬アレッジド(Alleged)がポイントを下げられたことで、フランケルは単独のトップとなった。

 フランケルは、3ポンド下げられて138となったダンシングブレーヴを2ポンド上回り、一方シャーガーは4ポンド下げられ136となり、シーザスターズ(Sea The Stars)および1月15日に死んだジェネラス(Generous)とともに4位に落ち着いた。他にレーティングを大幅に下げたのは、アレッジド(140→134)とエルグランセニョール(El Gran Senor 138→135)である。

 スミス氏は、フランケルを首位に引き上げるのに合わせてレーティングの発表時期を意図的に選んだという説を否定した。

 そして次のように語った。「10月に、レーティングに関する調査を強化するようオゴーマン共同会長が私に言いました。1週間前、時間内にはまとめられないかもしれないと同会長にもう少しで電話するところでした」。

 スウィンバーン氏は、WTR設立時の1977年から1991年までの馬のレーティングを下げたことについて疑問を呈した。同氏は、他の馬を下げるのではなくフランケルを上げるべきであったと考えている。

 そして次のように語った。「彼らの考えは全く理解できません。5年後にフランケルのような馬が現れた時にはどうなるのでしょうか?20年後にはフランケルのレーティングが120になり、シャーガーはランク入りさえしなくなるのでしょう。誰もが依然としてフランケルを話題にしているのであれば、なぜフランケルに特別なレーティングを与えて賞賛することとしないのでしょうか?」。

 「私は多くのトップクラスの馬に騎乗しましたが、シャーガーは最高の馬で私が騎乗した馬の中で群を抜いていました。私はこのレーティング変更が適切に行われたとは思わず、この措置には首をかしげています。他の馬を下げてフランケルをトップにしたことにがっかりしています。寝る時にシャーガーには140が付けられていたのが、翌朝目を覚ましたら136になっていました」。

 ハーウッド元調教師は、自身が管理したダンシングブレーヴとサー・ヘンリー・セシル(Sir Henry Cecil)調教師のスター馬フランケルはいずれもその能力でチャンピオン馬として賞賛されるべきだと考えている。

 そして次のように語った。「27年前に格付けした馬の評価を専門家委員会が突如として下げた事実が重大な問題だとは考えていませんが、ナンセンスの極みだと思います。フランケルとダンシングブレーヴは並外れた馬であり、いずれも特別な存在として見られるべきです」。

 「1マイル(約1600m)および1マイル半(約2400m)のレースを優勝した馬と1マイル半(約2400m)のレースに出走もしなかった馬に甲乙をつけることには無理があります。彼らがフランケルを首位にしたいのであれば、レーティングを増やして賞賛すればよいのです」。

 WTRの見直しは、WTRの初期のレーティングが現代のハンデキャッパーの目からは甘すぎると考えられたため、スミス氏によって実行された。

 レーティングの見直し前、英国、アイルランドおよびフランスの調教馬でレーティング120以上を付けられていたのは、1977年が145頭であったのに対し、2004年は18頭だった。一方レーティングの見直し後は、レーティング120以上の馬は、1977年が39頭、2004年が21頭となった。スミス氏はこれで比較が行われる条件が同じになったと考えている。

 スミス氏は次のように語った。「なぜフランケルを142にしなかったのでしょうか?我々はフランケルが140を超えるとは誰も思っていません。また過去の見直しが行われない年であれば、ダンシングブレーヴが141にとどまっても問題はありませんでした」。

 「もしダンシングブレーヴが4歳でも現役を続行し、フランケルのように4ポンド加算していたなら、レーティングは145となり、今般142に格下げされたでしょう」。

 「重要なことは、フランケルは難しい状況においても勝ち続けたことです。私の考えでは、それはチャンピオン馬だからこそ成し遂げられたことです。ダンシングブレーヴは2回敗れています」。

 フランケルはWTR設立以来、2歳時、3歳時および4歳時にチャンピオンとなった初めての馬である。スミス氏は、その完璧な条件からすればフランケルは140以上の能力があることを確信していると述べた。

 フランケルもダンシングブレーヴもカリド・アブドゥラ(Khalid Abdullah)殿下の所有馬であり、同殿下のレーシングマネージャーであるテディ・グリムソープ(Teddy Grimthorpe)氏は、この2頭を“驚異的な馬”と賞賛した。

 フランケルが正式にWTR史上最高馬となったことについてどう考えているかを聞かれて、グリムソープ氏は次のように語った。「もちろん、大変嬉しいです。どの馬が最高かについて皆意見を持っていますが、それが実際実証されるのを目の当たりにすることは、素晴らしいことです。セシル調教師にはまだ話していませんが、喜ぶに違いありません」。

 「レーティングの見直しはたいへん理に適っています。アブドゥラ殿下は上位2頭とも所有しているので、問題があるとは考えていないと思います。フランケルは自家産馬であり、ダンシングブレーヴは購買した馬ですが、2頭とも驚異的な馬でした」。
  

ワールドサラブレッドランキング
過去のレーティング 発表後のレーティング
1 141 ダンシングブレーヴ
(Dancing Brave)
1 140 フランケル
2 140 アレッジド
(Alleged)
2 138 ダンシングブレーヴ
  140 フランケル
(Frankel)
3 137 パントレセレブル
  140 シャーガー
(Shergar)
4 136 ジェネラス
5 138 エルグランセニョール
(El Gran Senor)
  136 シーザスターズ
6 137 ジェネラス
(Generous)
  136 シャーガー
  137 パントレセレブル
(Peintre Celebre)
7 135 シガー
  137 スリートロイカス
(Three Troikas)
  135 デイラミ
9 136 シーザスターズ
(Sea The Stars)
  135 エルグランセニョール
  136 スアーヴダンサー
(Suave Dancer)
  135 ハービンジャー
  136 トロイ
(Troy)
  135 モンジュー
12 135 ブラッシンググルーム
(Blushing Groom)
  135 サンジョヴィート
  135 シガー
(Cigar)
  135 スアーヴダンサー
  135 デイラミ
(Daylami)
14 134 アレッジド
  135 ハービンジャー
(Harbinger)
  134 ドバイミレニアム
  135 イルドブルボン
(Ile De Bourbon)
  134 エルコンドルパサー
(El Condor Pasa)
  135 モンジュー
(Montjeu)
  134 エリシオ
(Helissio)
  135 リファレンスポイント
(Reference Point)
  134 ピルサドスキー
(Pilsudski)
  135 スリップアンカー
(Slip Anchor)
19 133 ホークウィング
(Hawk Wing)
  135 サンジョヴィート
(St Jovite)
  133 マークオブエステーム
(Mark Of Esteem)
  135 ティノーソ
(Teenoso)
  133 オールドヴィック
(Old Vic)
  135 ザミンストレル
(The Minstrel)
  133 リファレンスポイント ▼ 

 

By Peter Scargill

[Racing Post 2013年1月16日「Controversy rages as greats are downgraded」]