海外競馬情報 2012年04月20日 - No.4 - 2
競馬界、モンジューの死に揺れる(アイルランド)【生産】

 傑出した中距離馬として活躍し優秀な種牡馬であったモンジュー(Montjeu)が3月29日に病気から間もなく亡くなり、クールモア牧場(Coolmore Stud)と生産界は世界で最も成功した種牡馬を奪われたことになる。

 2000年末に競走生活から引退したモンジューは3頭のダービー馬、そして今年の現在英ダービー一番人気馬キャメロット(Camelot)を送り出している。同馬は繋養されていたティペラリー郡のフェザードの厩舎で敗血症の合併症を患い、16歳で亡くなった。

 モンジューは欧州のクラシック競走を2勝し、凱旋門賞(G1)を優勝した。難なくファンタスティックライト(Fantastic Light)を負かしたアスコットでのキングジョージ6世&クイーンエリザベス(G1)の勝ちっぷりは、競馬史においても大楽勝の1つと言われている。

 同馬を管理したジョン・ハモンド(John Hammond)調教師は次のように回顧した。「モンジューが人間であったとすれば、並外れた天才だったでしょう。彼自身素晴らしい物語であり、私もそれに参加でき幸せでした」。

 ミック・キネーン(Mic Kinane)騎手は、騎乗した馬のなかでモンジューは5本の指に入る優良馬であったと語った。

 生産者のサー・ジェームズ・ゴールドスミス(Sir James Goldsmith)氏は同馬がデビューする前には既に亡くなっており、同馬は2歳時にゴールドスミス氏のパートナー会社の所有馬として2回出走した。

 その後マイケル・テイバー(Michael Tabor)氏が購入し、仏ダービー(G1)と愛ダービー(G1)を逃げで制し、凱旋門賞では日本からの挑戦馬エルコンドルパサーにせり勝ち、記憶に残る勝利を挙げた。

 その翌年、モンジューはキングジョージを含むG1競走3勝を果たした。キングジョージの後、その年のもう1頭の優良古馬ドバイミレニアム(Dubai Millennium)とのマッチレースが提案されていた。

 その内容は、モハメド殿下(Sheikh Mohammed)がテイバー氏に、勝馬が1,200万ドル(約9億6,000万円)すべてを獲得するレースを申し込んだもの。しかし、その翌日にドバイミレニアムは後肢を骨折したと発表された。

 モンジューはその年の秋まで好調を維持できず、凱旋門賞、チャンピオンS(G1)およびBCターフ(G1)で連続して敗れ、16戦11勝で競走生活を終えた。

 ハモンド調教師は、「キングジョージと凱旋門賞の2レースは魔法のような瞬間でした。キングジョージの勝ち方はまったく驚くべきものでした。そして凱旋門賞では最後の直線の半ばまで全く勝つ気配が見られなかったのにそれをやってのけました」と語った。

 そして次のように続けた。「アスコット競馬場の馬場状態を心配していましたので、キングジョージではキネーン騎手に抑えるように指示しましたが、考えてみればこの指示は無茶なものです。しかし、モンジューはそれを成し遂げました。もしキネーン騎手が前半から飛ばしていれば、モンジューは10馬身差で勝っていたでしょう」。

「モンジューはただ体力を温存していただけではなく、素晴らしい加速力と大きなエンジンを炸裂させました」。

 モンジューは奇行でも有名であった。ハモンド調教師は、「誰もがモンジューが変わった馬だと認識していました。キングジョージ当日、彼をパドックに入れる唯一の方法は、騎乗して誘導することでした。アスコットのパドックに入る大半の馬とは異なる方法でした」と語った。

 そして、「当時は少しばかりストレスを感じましたが、私たちの厩舎でモンジューを預かり調教できたことを非常に幸運に感じています。彼が私たちのところに来てくれたことは本当にラッキーでした。彼には2人の素晴らしいジョッキーが騎乗しました。若いころにはキャッシュ・アスムッセン(Cash Asmussen)騎手が、その後ミック・キネーン騎手が騎乗しました。調教師である私にとって、これらの2人の騎手が現役でモンジューに騎乗してくれたことは素晴らしいことでした」と語った。

 アスムッセン騎手はモンジューの初めの6戦で騎乗したが、愛ダービー優勝後にキネーン騎手が乗り替わった。キネーン騎手は、「モンジューは全盛期のときには私がそれまでに乗ったなかで最高の1頭でした。全盛期には本当に傑出した競走馬だったので、間違いなく5本の指に入ります」と語った。

「モンジューは種牡馬としてダービー馬を多数出し、牝の産駒も活躍し始めています。競馬界と生産界への死亡の影響はこれから長い間続くでしょう。彼の時代が終わってしまったことは悲しいことです」。

 モンジューは2005年にモティヴェーター(Motivator)、2007年にオーソライズド(Authorized)および2011年にプールモワ(Pour Moi)と3頭のダービー馬を出しており、昨年は北半球でガリレオ(Galileo)と同じ15頭の重賞勝馬を出している。

 モンジュー産駒のうち最多勝利馬は、愛ダービー、凱旋門賞およびキングジョージを制したハリケーンラン(Hurricane Run)である。昨年は、ゴールドカップを制したフェイムアンドグローリー(Fame And Glory)、BCターフ(G1)を制したセントニコラスアビー(St Nicholas Abbey)、セントレジャーを制したマスクドマーヴェル(Masked Marvel)がモンジューの評価を高め、障害競走においても昨年のチャンピオンハードル優勝馬ハリケーンフライ(Hurricane Fly)を送り出し、モンジューは存在感を示していた。

 クールモア牧場のマネージャーであるクリスティー・グラシック(Christy Grassick)氏は次のように語った。「モンジューの死はクールモア牧場にだけではなくサラブレッド産業全体にとって大きな損失です」。

「同馬はクールモア牧場に繋養された馬の中で最も素晴らしい競走馬かつ種牡馬の1頭です。私たちはここでプールモワを繋養できることを幸いに思っており、キャメロットやセントニコラスアビーのようなモンジューの他の素晴らしい産駒を繋養することを楽しみにしています」。

「モンジューはすでに3頭のダービー馬を送り出しており、過去それを成し遂げたのはノーザンダンサー(Northern Dancer)であり、このことはどれだけ彼が素晴らしかったのかを物語っています」。
  

モンジューのG1勝利
日  付 レース名 競馬場 騎  手 オッズ
1999年6月  6日 仏ダービー シャンティイ アスムッセン 2.4倍
1999年6月27日 愛ダービー カラ アスムッセン 2.6倍
1999年10月3日 凱旋門賞 ロンシャン キネーン 2.5倍
2000年5月28日 ゴールドカップ カラ キネーン 1.3倍
2000年7月2日 サンクルー大賞 サンクルー アスムッセン 1.2倍
2000年7月29日 キングジョージ アスコット キネーン 1.3倍

 

モンジューに関する特徴的数字

3…英ダービーを制した産駒数

82万5,000ギニー(約1億1,261万円)…2005年タタソールズ社10月1歳セールで、ヴァレデレーヴ(Vallee Des Reves)との間に生まれた牝の産駒の落札額。購買者はエメラルドブラッドストック社(Emerald Bloodstock)でコンサイナーはマーストンスタッド(Marston Stud)。

270万ドル(約2億1,600万円)…2006年キーンランド協会11月セールで当歳の牡の産駒の落札額。購買者はグローブエクワインマネージメント社(Globe Equine Management)、エージェントはインディアンクリーク社(Indian Creek)。

57…世界中で重賞競走を制した産駒の延べ頭数。

12万6,492ギニー(約1,727万円)…生前に1歳セールに上場した産駒の平均落札額。

15…2011年に北半球で重賞競走を制した産駒の実頭数。ガリレオ産駒と同数。

25…世界中でG1競走を制した産駒の延べ頭数。

By Jon Lees
 

モンジューの輝かしい役割を引き継ぐ後継種牡馬は不在

 今となれば信じがたいが、かつて種牡馬の父としてのサドラーズウェルズ(Sadler’s Wells)の影響力について議論があった。しかしガリレオとモンジューの2頭の影響力は全く疑うことはできない。

 しかし、モンジューの訃報は新たな問題を投げかけた。2つのダービー、キングジョージおよび凱旋門賞を制した傑出馬モンジューの産駒のうちどの馬が彼の遺産を引き継ぐのだろうか。

 安易な即断を下すことは危険である。競走生活で発揮したすべての能力を見れば、モンジューは早熟タイプからはかけ離れていた。調教においては全く平凡であったが、後に種牡馬として目を惹く馬体の見本となっている。

 同馬は2歳の時に出走した2レースを制したが、1998年9月まで出走せず、翌年の英ダービーを回避した。それは彼を管理していたジョン・ハモンド調教師がその時点で同馬にとって大きすぎる課題であると考えていたからである。

 レーシングポスト種牡馬ブックのインターネット検索において、モンジュー産駒のうち11頭が種牡馬として繋養されていることが確認できる。その中で最も種付料が高いのは昨年の英ダービー勝馬プールモワであり、おそらくこれはまだ明確な後継種牡馬のいない現れである。

 2005年にモンジューの初年度産駒として英ダービー勝馬となったモティヴェーターの、翌年の繋養当初の種付け料は2万ポンド(約260万円)で、初年度にG2勝馬ポールネイター(Pollenator)とG3勝馬スキア(Skia)を送り出したにも拘わらず、今年は5,000ポンド(約65万円)にまで下落している。

 凱旋門賞勝馬ハリケーンランはモンジューの初年度産駒で、モティヴェーターの翌年に種牡馬入りしたが、種付料は当初の3万ポンド(約390万円)から1万2,500ポンド(約162万5,000円)に下落していた(この間全体的に種付料は下落傾向にあった)。しかしクールモア牧場は、同馬が繋養2年目で昨年欧州のステークス競走の勝利数リーディングサイアーとなったことに勇気づけられた。

 サドラーズウェルズ産駒が障害競走においても成功していることはモンジューにも影響していると見え、モンジュー産駒のハリケーンフライはチャンピオンハードルを制した。クールモア牧場はその目的のためにセントレジャー勝馬スコーピオン(Scorpion)を障害競走用の種牡馬として供用している。

 

種牡馬として繋養されているモンジュー産駒
種牡馬名 牧場 種付料
オーソライズド
(Authorized)
ダルハムホール牧場
(Dalham Hall)
英国 1万ポンド
(約130万円)
チャイニーズウィスパー
(Chinese Whisper)
パラムヴィア牧場
(Paramvir Farm)
インド プライベート価格
フローズンファイア
(Frozen Fire)
クーラガウン牧場
(Coolagown)
アイルランド 3,000ユーロ
(約33万円)
ホノルル
(Honolulu)
セルシーラトゥール国立種馬場
(National de Cercy La Tour)
フランス 950ユーロ
(約10万4,500円)
ハリケーンラン
(Hurricane Run)
クールモア牧場
(Coolmore)
アイルランド 1万2,500ユーロ
(約137万5000円)
モンマルトル
(Montmartre)
パン国立種馬場
(National du Pin)
フランス 3,800ユーロ
(約41万8,000円)
モティヴェーター
(Motivator)
ロイヤルスタッド
(The Royal Studs)
英国 5,000ポンド
(約65万円)
プールモワ
(Pour Moi)
クールモア牧場
(Coolmore)
アイルランド 2万ポンド
(約260万円)
スコーピオン
(Scorpion)
キャッスルハイド牧場
(Castle Hyde)
アイルランド 4,000ポンド
(約52万円)
タヴィストック
(Tavistock)
ケンブリッジ牧場
(Cambridge)
ニュージーランド 1万2,500NZドル
(約87万5,000円)
ウォークインザパーク
(Walk In The Park)
ヴァルラケ牧場
(Du Val Raquet)
フランス 2,500ユーロ
(約27万5,000円) 

出典元:racingpost.com/bloodstock

By Richard Griffiths
(1ポンド=約130円、1ユーロ=約110円、1NZドル=約70円)

[Racing Post 2012年3月30日「Racing rocked by death of Montjeu」]