海外競馬情報 2010年04月23日 - No.8 - 4
ケンタッキー州の牧場、異常気象や経済不況との闘い(アメリカ)【その他】

 ここ3年間の異常気象はケンタッキー州の牧場運営者に、馬と牧草を健康に保つためより多くの作業とより高額の経費を投入させるという試練を与えている。そしてこの試練は、馬のセリと競馬からの利益を減少させた世界的な経済不況によってさらに厳しくなっている。

 ケンタッキー州のブルーグラス地域は、2007年と2008年に記録破りの干ばつを経験し、2009年には平均を上回る降雨量を経験した。このことは牧草を理想的とは言えない状態にし、その結果馬に健康問題を引き起こし、調教活動および競走を妨げるに至った。

 ケンタッキー大学の飼料改良の専門家レイ・スミス(Ray Smith)氏は、「干ばつが2年続いたために、牧草地の生産力が落ちていました。牧草があまり成長せず、過放牧の状態となり、あちこちで地面がむき出しになってしまいました」と述べた。

 同氏は次のように語った。「あまりにも乾燥していて芽がでないほどでしたので、牧草をさらに植えることも困難でした。牧場は牧草の活力を回復させること、あるいはオーバーシードすることに努めましたが、良好な結果は得られませんでした」。

 「したがって2年の乾燥期を経て、裸地が増加し、牧草の生育に勢いがなくなったために雑草の問題が生じました。2008年10月までに、私たちは記録破りの非常に乾燥した作物生育期を何度か経験しました」。

 同氏は、「長引く干ばつ期の間、馬を放牧している時期に、踏み付けられることによる牧草へのダメージがとりわけ柵と門の付近に生じました」と付け足した。

 その後2008年後半から降り始めた雨は、2009年にかけて頻繁に降り続けた。2009年春は、この雨がちの気候のために種の撒きなおしが難しいものとなった。

 スミス氏は次のように語った。「雨続きであったために新しく種をまき、芽を出させる好機を見つけるのが大変でした」。

 「2009年の初秋は、牧草の活力を取り戻させ、オーバーシードすることのできる乾燥した日が十分にありました。そしてその後、それらの牧草を根付かせるために十分な湿気もありました」。

 同氏は次のように説明した。「1エーカー(0.4 ha)当たりの馬の放牧密度が低い牧場では、2009年の間に牧草の状態は良好に回復しました。また除草剤を用いることができ、春と秋に何度か牧草の種の 撒きなおしができる牧場では、ここ何年かの状態よりも良くなりました。彼らは本当に良い牧草を有しています」。

 「これに対して干ばつ期において馬を過度に放牧した牧場は、牧草が自生しにくくぬかるんだ状態にあり、牧草の育ちが良くありません。これらの牧場は牧草を良い状態に戻すのに困難な状況が続きました」。

 「そして事態をさらに悪くしているのは、世界的な経済不況のために馬を購買していた投資家たちが減少し、燃料費が上昇し、投入資金が増加し、利益が得にくくなったことです」。

 ケンタッキー州レキシントンの近くにあるコブラ牧場(Cobra Farm)の経営者マイク・オーエンズ(Mike Owens)氏は、2009年における平均を上回る降水量は、青々と生い茂る牧草の成長をもたらし、これにより340エーカー(約136 ha)のサラブレッド事業において草刈作業が増大したと述べた。同氏は、「草刈作業のために出費はおそらく30%増加しました。大きな労働力を要する夏で した」と付言した。

 オーエンズ氏は次のように説明した。「私たちは習慣的に年に22回か23回牧草の刈り込みを委託しています。2009年にはその回数が32回ないし34 回にまで上りました。牧草を刈るスタッフは牧場には1人しかいませんでしたので、牧場全体の草刈をし終えるのに10日掛かります。その後そのスタッフは牧 草の背が高くなりすぎたり、逞しくなりすぎないように同じ作業を繰り返します。その作業は牧草の風味と見た目を保つために必要です」。

 コブラ牧場は、ケンタッキー大学牧草評価プログラム(UK Pasture Evaluation Program)に参加している牧場の1つである。スミス氏と乾草専門家のトム・キーン(Tom Keene)氏は、馬の牧場の経営者向けに最も費用対効果の高い牧場経営を判断するための一助となる包括的プログラムを開発した。オーエンズ氏は、圃場 ローテーション型の放牧、持続可能な馬と牧草地との割合、および定期的な牧草のオーバーシードのような推奨案を実施し、すべてが採算を上げるのに役立っ た。

 シンシアナの近くのマウント・カーメル牧場(Mt. Carmel Farm)の経営者でケンタッキー州サラブレッド牧場経営者クラブ(Kentucky Thoroughbred Farm Managers’ Club)の会長であるマット・コーク(Matt Koch)氏は、2009年の降雨は2年連続した干ばつの後で待ち望まれていた救いだったと述べた。

 同氏は、「緑の牧草を得たことはまったく素晴らしいことでした。私たちは2008年、牧草が非常に乾燥していたので、放牧させている馬に8月1日から乾草を与え始めました。牧草が不足しているために補充をしなければなりませんでした」と述べた。

 マウント・カーメル牧場では2008年に、72頭のサラブレッド繁殖牝馬を繋養していた。コーク氏は、「私の牧場では自ら乾草を生産していますが、雨天 のために乾草を圧縮して切り取るのが大変でした。圧縮する乾草はたくさんありましたが、好機をみつけるのは難しいことでした」と語った。

 同氏は肯定的な面として、「私たちはこれまで毎年有しているよりも多くのヘイキューブを作りました」と述べた。

 コーク氏は、ケンタッキー州中部を襲った最近の大雪もまた牧場に影響を与えたと付言した。

 同氏は、「私たちは、脚を凍傷にさせたくないので仔馬を放牧することが出来ませんでした。私たちは仔馬が滑ったりが凍傷になったりすることを望みませ ん。仔馬が氷の上を歩いたら、繋(球節から蹄までの部分)にひび割れが生じてしまいますので、長時間彼らを外に出すことは好ましくありません」と語った。

 ミッドウェイの近くにあるヴァレーヴュー牧場(Valley View Farm)の経営者であるリチャード・ノーラン(Richard Nolen)氏は、「私たちは今年、いつもとは違う冬を経験しました。気温が非常に長い間低かったので、私たちは妊娠中の牝馬に粗飼料とカロリーを十分に 与えることに気を配らなければなりませんでした」と付言した。

 同じくミッドウェイの近くでサラブレッド事業を営んでいるマルゴー牧場(Margaux Farm)の経営者であるキャット・サーニー(Kat Cerny)氏は、異常気象は乾草の価格と安定供給に顕著な変動を引き起こしたと述べた。同氏は、「2008年の乾草の価格はただ急騰するだけでした。需 要を満たすのに十分な供給がありませんでした。私たちはカナダその他へ行き、乾草を隈なく探さなければなりませんでした。ところが2009年には、処分で きないほどのストックがあるということで、乾草を買うつもりがあるかどうか乾草販売業者の方から私に電話を掛けてきました。2008年には私のほうから電 話を掛けていたのに、2009年には彼らから掛けてきたのです。これは劇的な変化でした」と説明した。

 レキシントンの近くにあるサラブレッド調教センター(Thoroughbred Training Center)の事務長ジム・ペンダージェスト(Jim Pendergest)氏は、通常を上回る降雨量は調教活動に影響したと述べた。

 同氏は、「10月は記録的な17日間もの雨天日に見舞われ、かなりひどかったです。馬場がまったく乾ききりませんでしたので、調教するのが大変でした」と語った。

 ペンダージェスト氏は、「重馬場を好まない調教師がおり、彼らは重馬場で管理馬を調教することを望みません。冬のあいだ数日間調教できないことはありますが、2009年の10月のようなことはめったにありません」と説明した。

 サラブレッド調教センターには850頭の馬がいるので、ダート馬場は午後には“水浸し”になってしまう。

 「馬場を平らにし水気をとるための機材を利用します。ぬかるんだ馬場に脚をとられないようにするために、水分を搾り出すのが目的です」とペンダージェスト氏は語った。

 また、サラブレッド調教センターは牧場に、草刈、柵の設置および馬房建設などの牧場維持サービスを提供している。

 ペンダージェスト氏は、「私たちは2年続いた干ばつ期よりも2009年に、より多くの草刈と柵設置を行いました。干ばつの間は、まず杭穴に水を満たさなければならないので、労働コストは割高になります」と述べた。

 しかし経済不況は建設業全体に打撃を与えた。同氏は、「人々はこの不景気のためあまり建設をしようとはしませんでした」と付言した。

 異常気象はまた、蹄に関する問題から馬主に見捨てられた馬にいたるまで、馬の健康に影響を与えた。

 ノーラン氏は、「天候パターンの変化によって生じる問題もあります。その1つは、蹄の保護に気を配らなければならないことです」と付け足した。

 同氏は、「乾燥している気候では、馬の蹄部はひび割れを起こす傾向にあります。それゆえ、蹄が不揃いになることもあります。不揃いになった蹄は、蹄負面 の内側と外側を削り取ることと、散歩をさせることによって改善できます。それが、乾燥期に馬にしなくてはならないことです」と説明した。

 同氏は次のように付言した。「反対に雨天では、放牧した際に馬の蹄はスポンジのようになり、水気を吸い上げ、そのことで蹄は柔らかくなります。このため に、彼らは蹄底に膿瘍を患いやすくなります。これは本当にストレスの多い状況を招きます。小さい底面積にかなりの重さが掛かるので、蹄底の膿瘍は非常な痛 みとなります。このように蹄の保護は干ばつであろうと大雨であろうと異常気象下では大きな懸案事項です」。

 サーニー氏は同意し、次のように語った。「私たちはマルゴー牧場において、厄介なひび割れから厄介な膿瘍という極端な変化を目の当たりにしました。馬の蹄を管理するのは本当に大変です」。

 「馬の調教に影響を与える問題と言えばすべて蹄部に関するものであり、これは馴致や調教にも影響を与えます」。

 馬の健康に対する異常気象および経済不況の影響は、ケンタッキー馬愛護センター(Kentucky Equine Humane Center)の所長であるレキシントンのハギャード馬診療センター(Hagyard Equine Medical Institute)の獣医師ジム・スミス(Jim Smith)博士により指摘されていた。同博士は、「馬主に望まれない馬が生じてしまうことから、馬の健康は大きな問題でした」と述べた。

 また、牧草の不足は一部の馬主にとって切実な問題となっていた。

 スミス博士は、「彼らがもっと牧草を得ていたとしたら、馬を手放さずに済んだでしょう。2年連続の干ばつの間に、人々は補充飼料のための支払いに苦労しました」と語った。

 同博士は次のように説明した。「遺棄された馬、と畜のためにメキシコやカナダに輸送された馬、愛護センターに送られた馬もいました。残念ながら他に選択 肢がなかったのです。私たちは2年間に400頭の馬を引き取りました。良かったことは、約半数に受け入れ先をみつけたことで、その反面悪かったことはあと の半数を安楽死処分にしなければならなかったことです」。

 異常気象と経済の組合せは、ケンタッキー州の多くの馬産業の活力に悪影響を与えた。

 ノーラン氏は次のように語った。「私たちは世界規模で経済不況を迎えつつあります。現在は世界中で経済状況が低迷しており、しかも馬の生産は国際的なビ ジネスになりつつあるので、馬の価値は大幅に下落しました。ここケンタッキー州の牧場への経済的な打撃は、劇的なものです。残念ながら、コストに十分に見 合うように商品を販売することができず、事業からの撤退を余儀なくされる牧場もあります。そして、それはサラブレッド生産だけの問題ではありません。私た ちが突入しつつある経済不況により、馬産業全体が劇的な影響を受けています」。

 同氏は次のように続けた。「私たちはとうもろこしや小麦の農場経営者と同様に生産者です。私たちは当歳馬、1歳馬、2歳馬に関わらず、生産馬を売りま す。この3年間で私たちが行ったことは、種付料、燃料費、飼料費など今までで最も高い生産コストで馬を生産したということです。私たちが負担したすべての コストは最終的な損益に影響を与えます。現在私たちは3年前と比較して50〜60%の市場価格で販売を行っていますが、生産コストは今まででもっとも高く なっています」。

 ノーラン氏は次のように結論付けた。「これはたった1つのことが原因となっているのではなく複雑な問題です。私たちは時間をかければ異常気象からくる逆 境を乗り越えることは出来るでしょうが、現在は資金の投資がされないという状況が加わって、牧草地が苦しんでいます。そして牧草地が苦しんでいる時は、馬 が苦しむことになるのです」。

 

By Robyn Rominger


[The Blood-Horse 2010年2月27日「Ground Game」]