海外競馬情報 2010年09月24日 - No.18 - 1
新規顧客を見つけ出すためには(アメリカ)【開催・運営】

 ここ10年において競馬に立ちはだかっている障害の1つは、減少を続ける入場者数である。空っぽのグランドスタンドは、わくわくするエンターテインメントの体験であるはずの競馬にいかなる活気も与えることができていない。

 ケンタッキー州レキシントンのチャーチルダウンズ競馬場における夜間開催は過去2回の夏、競馬にわずかな上昇傾向をもたらしたが、もともと同競馬場は競 馬の伝統が深く染み込んでいるマーケットという利点があり、また当てに出来るケンタッキーダービー(G1)の開催場でもある。

 常連客に競馬場に続けて通ってもらうとともに新顔を勧誘する任務を与えられている他の競馬場のマーケティング担当理事たちは、世界的不況に起因する売上 げ不足で苦戦している。競馬場は、報酬プログラム、景品、特別なイベントおよびダイレクトメールのような実証済みの手段を用い続けている一方、多様な電子 メディアの急増によってメッセージを行き渡らせるための選択肢がこれまで以上に豊富になっている。カジノの一部をなす競馬場にとっても、また消費者が自由 に使うことのできるお金を得るため近くのカジノと分捕りあいをしている競馬場にとっても、フェースブック(Facebook)やツイッ ター(Twitter)のようなソーシャルネットワーキング(Social Networking System: SNS)の選択肢は、重要な道具である。

 たとえば、チャーチルダウンズ社(Churchill Downs Inc.: CDI)が所有する南カリフォルニアのコールダー競馬場においては、競馬に関する情報は場内カジノと競馬場近辺にあるカジノの両方の顧客に対して周知しな ければならない。コールダー競馬場の販売促進活動の大半は、1月27日に開設した場内カジノ施設が対象である。今年の事業において競馬への予算は限られて おり、競馬自体もわずかな収入しかない。

 コールダー競馬場の広報担当理事であるミシェル・ブランコ(Michele Blanco)氏は、次のように語った。「世界中のすべての企業は、たとえナイキやマクドナルドであろうと、“私たちは十分なマーケティング予算を有して いない”と言うでしょう。私たちの難題は、“顧客になるかどうかわからない人々に資金を費やすか?”または“試食の後で何度も商品を買うことがすでに分 かっている人々のために、資金、時間、人件費を使うか?”という点です」。

 NYRA(ニューヨーク競馬協会)の販売担当理事であるニーマ・ガジ(Neema Ghazi)氏によれば、NYRAのマーケティング予算は2年半前の半分となっている。

 ガジ氏は、「私たちはマーケティング予算を削られたことで、より独創的になりました。たまに競馬場を訪れるファンのために取り組む一方で、私たちは根っ からの競馬ファンにも取り組み、何が彼らの競馬体験を促進しているかを突き詰めています。要は、彼らが競馬場に戻ってくるための理屈を見つけられるかとい うことです」と語った。


根っからの競馬ファンの確保

 現在の困難な経済状況において、顧客に再び競馬場を訪れてもらうことは重要である。テキサス州グランドプレーリーにあるローンスターパーク競馬場の副理 事長兼CEO補佐であるG・W・ヘイル(G. W. Hail)氏は、「顧客の体験を企画し作り出すためには、P・T・バーナム(Phineas Taylor Barnum アメリカ合衆国の興行師。その愉快なホラ話と、サーカスを設立したこととで、最も良く知られている)、ビル・ベック(Bill Veeck アメリカメジャーリーグの元オーナー)、カーネル・サンダース(Colonel Sanders ケンタッキーフライドチキンの創業者)の姿勢と哲学が必要とされています」と語った。

 “報酬プログラム(rewards program)”は、ファンを定着させ顧客の習慣を追跡調査する手法として立証済みである。カジノ産業により完成されたニューメキシコ州のサンランド パーク競馬場の報酬プログラムは、とても人気がある。アルバカーキにある同競馬場とフレミントン近郊のサンレイパーク競馬場のコミュニケーション担当理事 を務めているエリック・アルワン(Eric Alwan)氏は、次のように述べた。「信じられないかもしれませんが、このプログラムによって大金をつぎ込む顧客層が生まれました。このような厳しい時 代には、競馬ファン、ましてや大金を投じる顧客を惹きつけるのは難しいことです」。

 コールダー競馬場はすべてのCDIの所有競馬場と同様に、全米の競馬とカジノに応用されるツインスパイアーズ社(Twin Spires)の報酬プログラムを使用するという強みを持っている。

 かつてマーケティング担当者の切り札として使われていたダイレクトメールは、インターネット時代においては高価なものとなった。

 しかしブランコ氏は、「これは安い手段ではありませんが効果的です。ターゲットとする顧客のもとに届きます。ダイレクトメールを通して顧客と一対一の会話が出来るとすれば、費用対効果は大きいです」と語った。


頼りになる古典的手段

 競馬場において最古のマーケティング策の1つは景品である。トートバッグ、傘、Tシャツ、ビールジョッキ、ときには時計や靴下を提供することがある。アメリカの競馬ファンのクローゼットには野球帽、ポスター、トレーディングカードおよびクビ振り人形が詰まっている。

 回転ドアを通って再入場(re-spin)するために一般入場券を何枚も購入する“スピナーズ(Spinners)”は、蒐集価値のある景品に飛びつき、一定の開催日には入場者数増加に貢献している。

 景品の大部分はこの数年間で勢いがなくなったが、サラトガ競馬場は例外であり、景品はファンに人気がある。この戦術はニューヨーク州北部の同競馬場においては依然として効果的である。

 ガジ氏は、「私は景品が効果的であるということには確信が持てませんが、サラトガ競馬場においては根強い人気があります。商品にサラトガ競馬場のロゴを 付けることは有効ですが、それは顧客からの期待に応えて提供しているものです。商品の質はこの数年でわずかに向上し、高く評価されています」と語った。

 景品はコールダー競馬場において依然として出回っているが、これはもはや常連客のためのアイテムではない。このアイテムを受け取るためには、メーリングリストに登録しなければならない。そしてさまざまなタイプの顧客および賭事客に対し多様な景品が用意されている。


ファン層の拡大

 “たまに競馬場に来る競馬ファン”と新規顧客への効果的なマーケティングは、今日の予算が圧迫されている新時代においては2つの形態をとる。SNSを通 じたインターネットでの取り組みは競馬場に人を呼び込むのに一役買い、そして彼らは一旦競馬場に来ると、その大半は競馬という興行に付随する“更なる体 験”を欲する傾向がある。

 先ずSNSの取組みに関しては、とりわけ25歳から45歳までの年齢層の人々が情報収集と意見共有のためにインターネットをますます利用するようになっ ているので、マーケティング担当者は、メッセージを配信するためにインターネットに取り組んでいる。過去2年でフェースブック、ツイッター、ユーチューブ が若い人々の間から最も人気のあるSNSとして浮上した。インターネットの機能を持つスマートフォンの爆発的売れ行きとともに、人々はあちこち動き回りな がら情報を得るようになりつつある。もはや、机に置かれたコンピュータの前で座り続ける必要はない。

 コミュニケーションを絶えない状態にしていくことが必要である。

 アーリントンパーク競馬場のマーケティング担当理事であるケン・キーン(Ken Kiehn)氏は、「頻繁なコミュニケーションがこの手の顧客にとっては重要です。第一にそれが彼らに直接的に訴えかけるからであり、第二に広告板に載せ るよりも費用対効果が大きいからです。新しい電子メディアは非常に良く機能することが判明した方法の1つであり、顧客の動きを追跡できます」と語った。

 競馬のインターネットでの販売促進では、NYRAが最先端を行っているように思われる。

 ガジ氏は、「私たちは若い競馬ファンの核となるグループがいると確信しており、彼らと頻繁にコミュニケーションを図る最良の方法はSNSを通じてである と考えています。私たちは彼らが有意義であると考えるコンテンツを配信します。私たちはこの2年間このことに専念し、非常に効果がありました」と語った。

 ガジ氏は、NYRAがユーチューブに掲載している一連のニューヨーク競馬のビデオ映像に非常に満足している。そこでは、調教師の紹介やニューヨークの騎手たちへの短いインタビュービデオも観ることができる。

 ガジ氏は、「ビデオはとりわけさまざまなグループを狙っています。私たちはそれぞれのタイプのファンの心に響くビデオコンテンツを開発していきたいと思います。私たちのこの投資には見返りが多く、それほど費用の掛かるものではありません」と語った。

 「数年にわたり競馬場の理事たちは困惑し、若いファン層に到達できる方法を考えあぐねてきましたが、これが最も効果的な方法です」。

 SNSを活用する販売担当者次第では、メッセージが過度に商業的になり得る。潜在的な顧客に対してしつこい売り込みばかりすることと、競馬の世界への洞察を与えることとの間には、微妙な境界線がある。

 SNSは比較的新しいマーケティングの構成要素であり、他の多くの販売活動と同様にその効果を評価するのは難しい。

 コロニアルダウンズ競馬場の販売担当理事であるダレル・ウッド(Darrell Wood)氏は、同競馬場の販売活動に関して次のように語った。「私たちはフェースブックにファンのためのページを持っており、毎日1〜2回更新してお り、それを通じて濃密に販売促進しています。このことは競馬場のさらなる組織に形を変えていくでしょうか?まだ結論は出ていませんがおそらくそうなるで しょう」。

 ローンスターパーク競馬場のヘイル氏は、SNSは過大評価されていると考えている。

 「創造し、多くの時間を費やし自身のブランドに活気を与えることは楽しいことです。しかしそれ自体は、入場者数と馬券売上げを増加させるための強力な原 動力ではありません。私たちは2009年にフェースブックのページを立ち上げ、現在では5,000人の登録があります。反対に、ダイレクトメールのリスト には7万5,000世帯が登録されています」。

 もう1つの“更なる体験”については、競馬開催日に他のイベントを行う形で提供される。コンサートの入場料を一体化することは全米において常に功を奏し ている。デルマー競馬場はその方法で大成功を収め、ガルフストリームパーク競馬場はパドック脇で一連のコンサートを行っており、チャーチルダウンズ競馬場 とピムリコ競馬場は数年間にわたりケンタッキーダービー(G1)とプリークネスS(G1)の開催時期に一連のコンサートを行っている。

 特別なイベントを作り出すことは、小規模な競馬場でも成功を収めている。

 コロニアルダウンズ競馬場では、ヴァージニアダービー(G2)の開催日にフーターズ(Hootersレストランチェーン)と提携した“フートオンザヒル (Hoot on the Hill)”という企画が1年間で最も人気を博した。10ドル(約1,000円)を支払えば、これまでに使われていなかった第1コーナーのエリアに飲み物 を持ち込んでパーティーをすることができるというものである。

 同競馬場のウッド氏は、このイベントが拡大し、ダービー開催日に新しい入場者を増加させる一助となることを望んでいる。

 コロニアルダウンズ競馬場は8週間にわたる夏開催において、独立記念日の花火大会から、地ビール祭り、ポーカーのトーナメント大会、レディーズデーおよびドリームウエディングデーにいたるまで毎週末にイベントを開催することに挑んだ。

 ウッド氏は、「私たちの顧客はあらゆる職業と年齢層から成り立っているので、広報活動を行う際に特定のファン層をターゲットにすることはできません。したがってこれら週末のイベントは、私たちが照準を合わせ効果的に販売促進を行う観客を特定してくれます」と語った。

 すべての企業の財政状態は流動的かもしれないが、販売担当者は常にファンの育成、追加的なエンターテインメント、メッセージを行き渡らせるためのコミュ ニケーションに期待を掛けている。入場者数は減少しているかもしれないが、それでも競馬は時には“野外で得られる最も楽しいもの”と言われる素晴らしい商 品を持っている。

 ブランコ氏は、「競馬のマーケティングに関して言えば、レースに観客を呼ぶために競馬場にどれだけの費用をつぎ込む必要があるのでしょうか?私はどの競馬場も本当に必要なだけ、注ぎ込んでいるとは思いません」と述べた。

 現在のところ、販売部門は少ない費用でできるだけ多くのことをやらねばならず、媒体を適切に組み合わせることによって彼らのメッセージを行き渡らせることができるだろう。

 

By Evan Hammonds
(1ドル=約100円)


[The Blood-Horse 2010年8月7日「Finding New Fans」]