海外競馬情報 2009年10月02日 - No.19 - 1
新大陸に根を下ろしたベットフェア社(アメリカ)【開催・運営】

►► 米国

 ベットフェア社(Betfair)は、2009年1月にインターネット賭事会社テレビジョン・ゲームズ・ネットワーク社(Television Games Network: TVG 本社ロサンゼルス)を買収し、現在ではベッティング・エクスチェンジがアメリカで合法化される日を待つばかりの状態にある。

 ベットフェア社(Betfair 本社所在地:ロンドンのハマースミス)は、世界征服を始めた。破壊と殺戮によって恐れられたチンギス・カン(Genghis Khan)のようだ。犠牲が僅かに少ないぐらいの違いしかない。チンギス・カンは征服の途上で歓迎されたわけではなく、ベットフェア社も同様である。同社 は、豪州ではベッティング・エクスチェンジが合法とされているのに、激しい攻撃を受けこれを何とか凌ぎ、カリフォルニア州(ベッティング・エクスチェンジ は違法とされている)に拠点を設けた。

 ベットフェア社は1月に、豊富な資金源にものを言わせて米国最大の合法インターネット賭事会社TVG(米国で3200万世帯に競馬中継を配信するテレビ チャンネルを所有する)を5000万ドル(約50億円)で買収した。TVGはパリミューチュエル賭事に平均20%の控除率を適用し、控除金の一部を受け取 り、残余の大半は競馬場とホースマンに還元している。

 米国ベットフェア社の会長はジェラード・カニンガム(Gerard Cunningham)氏である。同氏は、P&G社(Procter & Gamble)に15年間勤務したあと、近年は大規模小売業ランズエンド社(Lands’ End)のマーケティング最高責任者を務めた。

 カニンガム氏のマーケティングの専門知識は、長期にわたる売上げ減少傾向を反転させるのに苦戦している競馬賭事産業において発揮されるだろう。TVGの 買収は2つの賭けを含んでいる。1つはTVGの将来であり、もう1つはオンラインによるゲーミング、スポーツ賭事およびベッティング・エクスチェンジとい う新たな巨大賭事市場の形成に道を開くための法律の変更である。ゲーミングとスポーツ賭事は米国にはすでに大規模な市場ができているが、オンラインによる 賭事は違法インターネット賭博禁止法により禁じられている。

 しかし、実際にはこれらの違法インターネット賭博が海外賭事業者によって運営されており、その役員たちは米国に足を踏み入れれば手錠を掛けられてしまう のだ。ベットフェア社は、合法性が認められるぎりぎりの範囲内で賭事を運営して、この非合法な市場が合法化される日に備えて基礎づくりをしている。

 カニンガム氏は、「明らかに合法なのはパリミューチュエル方式によるインターネット競馬賭事だけです。場内・場外発売による事業規模は140億ドル(約 1兆4000億円)であり、うち15億ドル(約1500億円)がインターネットによるものです。TVGの買収は当社にとって、素晴らしい第一歩でした。当 社はTVGを発展させます。これは米国における賭事運営を学ぶ1つの方法でもあります。すでに多くの州において賭事免許を取得していますので、法律が変更 されたとき(ゲーミングとスポーツの違法インターネット賭博の合法化)には即応できるでしょう」と述べた。

 法律が変更される場合に、いつ、どのようにして変更されるかは予測しがたい。しかしベットフェア社の専門分野であるベッティング・エクスチェンジが、この長い道の終着点であるように思われる。

 カニンガム氏は、インターネットで最初に合法化されるのはオンライン・ポーカーであると確信している。バーニー・フランク(Barney Frank)下院議員とロバート・メネンデス(Robert Menendez)上院議員が提出した法案により、希望が湧いているようだ。この法案は、違法インターネット賭博のいくつかの形式を合法化した上で規制す ることを内容とするものであり、インターネット賭事を制限する権限は州政府が有している。

 オンライン・スポーツ賭事は、パリミューチュエル方式の競馬賭事を除いて、実質上禁止され続けるだろう。カニンガム氏は、「これは政治的な対立を生む問 題です。オバマ政権は多くの課題を抱えており、現時点では、迅速な動きを期待できません」と敗北を認め、次のように述べた。「連邦法(違法インターネット 賭博禁止法)は必ず変更されるでしょう。しかし、法律が変更されたあとは法律を運用する国の姿勢が問題になります。国の姿勢が変わらなければ、一種のパッ チワークになります。その場合でも当社は賭事を運営しなければなりません。スポーツ賭事全体については、私は楽観主義者たちが言うほど事態が速やかに動く とは考えていません。しかし2〜3年後にはオンライン・ポーカーを運営することができると思います」。

 1992年の法律によって、スポーツ賭博は1992年以前からそれを合法としているネヴァダ、オレゴン、モンタナおよびデラウェアの4州以外では非合法となった。

 ラスベガスのあるネヴァダ州のみが現在のところスポーツ賭事を提供しており、デラウェア州もその準備に入っている。すべての主要スポーツ団体が法律の緩 和に反対しており、事態は迅速には動かないように思われる。カニンガム氏は、「私たちは非常に長い目で見ています」と付言した。

 当面TVGは、カニンガム氏が素晴らしい基盤という“世界一の高品質の競馬”を、年中無休でTV配信するだろう。同氏は、「当社は過去の4ヵ月間に 35ヵ所の競馬場と契約し、現在では米国の125ヵ所の競馬場と契約をかわしています。私たちは、すべての競馬場運営者、ホースマンと心を通わせ、競馬産 業との協力関係を築いています。彼らの大歓迎に応えて、10場と追加的な収益分配契約を結びました」と語った。

 カニンガム氏は具体的な数字を明らかにしなかったが、この契約は米国外の居住者によって米国競馬を対象に行われた賭事の収益の一部を競馬場に還元するものである。

 同氏はマーケティング畑の人間に特有な商品への熱意を示し、次のように語った。「競馬界が抱える課題の解決策の一部となりたいのです。できるだけエキサ イティングなスポーツ番組を作るよう取り組んでいます。週末のテレビショーでは、レース施行中も含めて、騎手、馬主、調教師そしてスターティングゲートの 担当者にもマイクを向けます。TVGの競馬映像の品質を劇的に改善し、他のどのチャンネルよりも多く生中継のスポーツを見せています。1日最短17時間、 最長24時間放映しており、時には午前6時に英国からの中継を開始し、そして日本、豪州およびシンガポールからの中継を翌日の午前6時まで放映していま す」。

 TVG社は最近、競馬ファンを参加させる試みとしてそのウェブサイトにベットフェア社のサイトと類似する“コミュニティー”を立ち上げ、競馬場入場者数 を増加させる活動を始めた。カニンガム氏は、「まだ初期段階なので、わずかしか前進していません。しかし、インターネット上の顧客にモンマスパーク競馬場 のハスケル招待H(G1)に出走するレイチェルアレクサンドラ(Rachel Alexandra)を見に来るよう誘うEメールを送信しました。また、無料チケットを提供するハリウッドパーク競馬場と共同で販売促進も行いました」と 述べた。

 ベットフェア社はブリーダーズカップへの関与を拡大し、また9月26日にアスコット競馬場で施行されるクイーンエリザベス2世Sの中継放送をTVGで配信するという約束も取り付けている。

 すでにBCスプリント、そして100万ドル(約1億円)のBCダートマイルのスポンサーとなっているTVGは、今度は200万ドル(約2億円)のBCマ イルを後援しようとしている。TVGは8月中旬、ベルダムS(10月3日ベルモント競馬場)の賞金に40万ドル(約4000万円)を拠出することを約束 し、さらに同レースにスター牝馬のレイチェルアレクサンドラとゼニヤッタ(Zenyatta)が両方とも出走すれば拠出額を100万ドル(約1億円)にす ると確約した。

 米国ベットフェア社といえばTVGのことであるという状況が続けば、ベットフェア社への認識は良くなるかもしれない。しかし、ベットフェア社にとって は、TVGはもっと大きな夢を実現するための踏み台にすぎない。ベッティング・エクスチェンジに関する争いが最終局面に入ったときには、抵抗勢力は獰猛に なり、公正確保の問題が声高に叫ばれるだろう。ベットフェア社の勝利には全く確信がもてない。


►► 豪州
タスマニアでは競馬産業への莫大な支援者

 2006年前半にタスマニア・ゲーミング委員会(Tasmanian Gaming Commission)はベットフェア社に賭事運営免許を発行することとした。この決定によってベットフェア社は豪州に拠点を確立するための激しい戦いに 勝利したかのように見えた。しかし戦いはまだ終わっていない。

 もう1つの重要な戦いが2009年11月にクライマックスを迎える。それはベットフェア社とニューサウスウェールズ州の間の訴訟であり、レーシング・ ニューサウスウェールズ社(RacingNSW 訳注:ニューサウスウェールズ州の競馬統轄団体)が売上高を基礎として競馬賦課金(race fields levy)を課していることの合法性が争われている。ベットフェア社はこの競馬賦課金はベッティング・エクスチェンジの競争力を削ぐことを意図していると 主張している。

 ベットフェア社を非難した人のなかには、説得されてしまった者もいるが、多くは頑なに反対したままである。ベットフェア社の法的な立場が有利になったとはいうものの、この戦いの犠牲は大きく、同社の豪州での市場占有率は小さいままである。

 ベットフェア豪州社の最高経営責任者アンドリュー・トウェイト(Andrew Twait)氏は、「西オーストラリア州がベッティング・エクスチェンジを禁止する法律を可決した2年半前に比べると、現在の私たちの環境は非常に良くな りました。この法律に関しては2008年3月に連邦最高裁判所で勝訴しました。また、2008年10月には当社が豪州国内で広告を出すことが承認されまし た。当社が事業を適切に運営できるようになったのは2008年以降のことです」と語った。

 ベットフェア社は、メルボルンのサンダウン競馬場と3年間の広告契約をかわし、同競馬場は、現在“ベットフェアパーク”と呼ばれている。広告代理店は M&Cサーチ社(M&C Saatchi)である。トウェイト氏は次のように語った。「TAB(Totalizator Agency Board 訳注:場外馬券発売公社)を保護するために多数の大きな障壁が設けられています。当社の事業はそれにもかかわらず非常に好調です。税率はかな り高く、実に40%にものぼります。現在のところ、この競馬賭事市場における占有率の目標を4%としていますが、まだ1%しか獲得していません。規制が緩 和されれば、今後5年間で目標を達成できるでしょう」。

 同氏は次のように続けた。「私たちは、TABがメディアを操作して行ったキャンペーンを甘く見ていました。そこでは、ベッティング・エクスチェンジは違 法であるというメッセージを伝えていました。未だに多くの賭事客が違法だと思っているのには驚かされます。ベッティング・エクスチェンジは合法であり、広 告も出せるし、さらに市場流動性(個人対個人の賭けが効率よく成立すること)が高いことを知ってもらわなければなりません。誤解を解く絶好の機会です」。

 ベットフェア豪州社は、タスマニアで110人、メルボルンで30人など、およそ140人の職員を雇用している。会員登録している顧客は8万5000人である。

 いくつかの州は依然としてベットフェア社に対して敵意を抱いているが、タスマニア州は事態の展開に満足している。2008年にタスマニア州の競馬大臣で あるマイケル・エアード(Michael Aird)氏は、「ベットフェア社は、タスマニア州で新たな雇用や州への投資をもたらしただけでなく、タスマニア州の産業立地上の評価を高めました。それ だけではなく競馬産業に対しては賞金に莫大な資金を拠出しました。ベットフェア社は納税と賭事運営免許料としてタスマニア政府に1500万豪ドル(約12 億円)の資金貢献をしました」と語った。


►► 欧州

 ベットフェア社の経営責任者であるマーク・デーヴィーズ(Mark Davies)氏は、欧州の状況は非常に複雑であると述べた。同氏は、「表面的には、欧州経済共同体条約49条のもと、当社がEU加盟国の1つで賭事運営 免許を取得すれば、他の加盟国においても賭事を提供することができるはずです。しかし実際は、加盟国は禁止する態度を取っています」と説明した。

 ベットフェア社はドイツ、オーストリアおよびイタリアの賭事運営免許を取得しており、またルーマニアにはITセンターを設置している。欧州諸国の中には 国営や公営で賭事独占事業を運営する国があり、しかも訴訟によって欧州の賭事市場をこじ開けることも容易ではないことから、欧州における事業の展開は緩や かである。

 英国のブックメーカーは、昔から同じような経験をしてきた。オランダ政府は銀行に対してゲーミングのウェブサイトに関係する支払い手続を行わないように義務づけた。2009年5月、ベットフェア社はオランダ政府を相手取り訴訟を起こした。

 またベットフェア社は欧州委員会(European Commission: EC 訳注:欧州連合の政策執行機関)に対して、オランダ政府はゲーミング市場独占を擁護しておりEC法に違反していると主張する苦情申立てを行った。 ベットフェア社は、マルタ共和国において150人の従業員を雇用し、英国を除くすべての国からの賭事を受付け健闘している。

 

By David Ashforth


ベットフェア社、株式上場を検討中との報道

 世界最大のベッティング・エクスチェンジ運営会社であるベットフェア社が近く15億ポンド(約2550億円)の株式を証券取引所に上場しようとしているとの新聞報道がなされた。ベットフェア社の経営陣は8月23日、この件についてほとんどコメントしなかった。

 サンデーテレグラフ紙(Sunday Telegraph)はそのビジネス欄のトップに、ベットフェア社の株主が銀行と相談するために会合を予定しているというニュースを掲載した。

 具体的には、ベットフェア社の創立者であるアンドリュー・ブラック(Andrew Black)氏とエド・レイ(Ed Wray)氏(両氏は同社の株式を併せて25%所有している)が、数週間内に銀行顧問と会合を持って株式上場について検討することになったと報じ、上場の 規模を“英国が経済不況の打撃を受けたあと最も大きい”と表現している。

 ベットフェア社のスポークスマンは8月23日、このニュースについて、「これは単なる憶測記事です。私たちは今後とも事業利益の最大化を図ります」と語った。他方、銀行顧問はこの報道についてコメントを控えた。

 ブラック氏とレイ氏は、インターネットを活用し最大の成功を収めた企業家であるが、もし株式を上場することになれば数百万ポンドの利益を手にするだろう。

 2006年4月日本のソフトバンク(Softbank)は、ベットフェア社の全株式(当時の時価評価額15億ポンド、約2550億円)の23%を3億 5500万ポンド(約603億5000万円)で取得した。サンデーテレグラフ紙は、世界的な経済不況下でもベットフェア社の株式の時価評価額は当時とほぼ 同じ水準にあると見ている。もしソフトバンクがその株式を処分するなら、ブラック氏とレイ氏は2人で3億5000万ポンド(約595億円)以上をかき集め るだろう。

 ベットフェア社は決算発表において、2009年4月期(2008年5月〜2009年4月)の収入が対前期比27%増の3億300万ポンド(約515億 1000万円)であったと公表し、その際に、株式の上場は考えていないと述べていた。それから数週間後に上場を予測するニュースが報道されたのだ。

 サンデーテレグラフ紙によれば、ベットフェア社は世界的なゲーミング産業の強化統合を目指して新たな資本調達に熱心であり、株式の上場は目的達成の手段となるだろう。

 株式上場があるとすれば2009年第4四半期か2010年第1四半期になるだろう。米国における違法インターネット賭博禁止法が撤廃されるとき、株式上場は同社の資金調達の一助となるだろう。

 

By Paul Eacott
(1ドル=約100円、1豪ドル=約80円、1ポンド=約170円)

(関連記事)海外競馬ニュース 2009 No.24「ベットフェア社の米国でのベッティング・エクスチェンジ提供への展望」


[Racing Post 2009年8月24日「Ready to crack USA」]
[Racing Post 2009年8月24日「Betfair reported to be considering £1.5bn flotation」]