海外競馬情報 2008年09月05日 - No.17 - 4
欧州から見た世界の国際競走(連載6 スカンジナビア)【その他】

 スカンジナビアは地理的にも格的にも、伝統的なヨーロッパのサラブレッド競馬開催国のはずれに位置している。それにもかかわらず、国際的に認知される競馬を確立するために奮闘し、時折優れた馬を輩出している。たとえば、2002年、人気薄のデンマーク調教馬のダノマスト(Dano-Mast)が凱旋門賞前日に施行されたドラール賞(G2)に優勝している。

 スカンジナビアの主要競馬場は、自国の重賞競走に外国馬の参戦を促すために補助金を支給している。例えば、スウェーデンのテビー競馬場は9月開催のストックホルムカップ・インターナショナル競走(G3約2,400 m)、テビー・オープンスプリント・チャンピオンシップ競走(G3約1,200 m)ならびに5月開催のストックホルム・ストラ賞(G3約2,000 m)の3つの重賞競走への出走馬とその関係者に対し遠征補助金を支給している。過去6年間に限ると、6頭のイギリス調教馬がこれら3つの重賞競走に参戦し たが、優勝を果たしたのはコリアーヒル(Collier Hill)ただ1頭だけである。同馬は、2004年と2006年のストックホルムカップ・インターナショナル競走に優勝した。

 デンマークのコペンハーゲン北部郊外にある絵のように美しいクランペンボルグ競馬場は、外国調教馬が8月上旬開催のスカンジナビアン・オープンチャンピオンシップ競走(G3約2,400 m)で入着しなかった場合、当該馬関係者に2,000ポンド(約48万円)を支給している。イギリス調教馬は過去3シーズン、同競走に出走していないが、最後に同競走に参戦したジャミー・ポールトン(Jamie Poulton)調教師の管理馬クロコダイルダンディー(Crocodile Dundee)とマイケル・ジャーヴィス(Michael Jarvis)調教師の管理馬マクタブ(Maktub)は、1着と2着に入り、それぞれ約3万ポンド(約720万円)および約1万ポンド(約240万円) を獲得した。

 ノルウェーのオスロ近郊にあるオヴレヴォール競馬場は、8月開催のポーラーカップ競走(G3約1,400 m)に出走する外国馬に遠征補助金2000ユーロ(約32万円)を支給し、またマリットスヴィーミネロプ競走(G3約1,800 m)に出走する馬のために輸送機をチャーターし、関係者に対して2000ユーロ(約32万円)を支給している。イギリス・アイルランド調教馬は過去5年間、ポーラーカップ競走に参戦していないが、マリットスヴィーミネロプ競走には7頭が参戦している。しかし、毎年国内馬の反撃に会い、2005年、マーク・ジョンストン(Mark Johnston)調教師の管理馬クロスピース(Crosspeace)の3着が、イギリス・アイルランド調教馬のこれまでの最高の成績である。

スカンジナビア関係者の見解

 スカンジナビアン・レーシング・ビューロー(Scandinavian Racing Bureau)のビヨン・ザチュリサン(Bjorn Zachrisson)氏は、次のように述べている。

 「スカンジナビアの各競馬主催者は、重賞競走にできる限りレーティングの高い外国馬を招待することが非常に重要であると確信しています。それは、競馬主催者が競走の格付けに関して国際セリ名簿基準委員会と協議する際、高いレースレーティング(上位3着までの馬のレーティングの平均値)が判断基準となるためです。また、一般大衆とメディアに対して最高級の競馬を提供したいと希望するからでもあります」。

 「ストックホルムカップ・インターナショナル競走は、スカンジナビアで最も歴史のある重賞競走です。私がスウェーデン競馬委員会(Swedish Racing Board)で仕事をしていたときに同競走に“インターナショナル”の言葉を加えるよう提案しました。これは、テビー競馬場のストックホルムカップ競走の賞金額を増やして国際的賞金基準に近づけたいと思ったからです。その結果、同競走は1979年以降、現在の名称で知られるようになりました。同競走は、1991年にG3の地位を与えられました。また、ノルウェーのマリットスヴィーミネロプ競走とデンマークのスカンジナビアン・オープンチャンピオンシップ競走も2001年にG3の地位を与えられました」。

 「スカンジナビアの調教師の本音を言えば、外国馬が高額賞金を求めて参戦してくるのを歓迎している訳ではありませんが、それは特に不思議なことではありません。外国出走馬に支給される多額の遠征補助金に関する批判を時折耳にします。私がテビー競馬場で競馬に携わっていたとき、我々がすべての外国馬に対してスウェーデンの国境から競馬場までにかかるのと同じ位の費用を支給しているに過ぎないことを知ってもらいたいと話したことを覚えています。それは、このような費用の支給がすべての人々にとって受入れられる金額であると思ったからです」。


競走馬輸送業者の見解

クウェンティン・ウォーレス(Quentin Wallace)氏は、イギリス、アメリカ、オーストラリアおよびニュージーランドに事業所を置く競走馬輸送会社、インターナショナル・レースホース・トランスポート社(International Racehorse Transport)の会長である。

Q: 競走馬1頭を輸送するのにどれくらいの費用がかかりますか。
A: かかる費用はケースにより大きく異なります。費用を決める主な要素は、馬がイギリスのどこで検疫を受けるかということと、遠征馬が1頭なのか2頭なのかということです。例えば、イギリスおよびオーストラリアのサンダウン競馬場における検疫費用を除いた場合、メルボルンカップに馬を出走させることを計画している関係者は、馬1頭を1頭積みで往復輸送する際におよそ4万5000ポンド(約1080万円)の予算を組むべきであり、また2頭積みの場合には(1頭当たり)3万ポンド(約720万円)の予算を組むべきです。オーストラリアからイギリスに馬を輸送する場合にも、同じくらいの費用がかかると思われます」。
Q: 調教師は、検疫に関してどのような制約を考慮しなければなりませんか。
A: 各国は、輸入馬の健康証明に関して独自のルールを定めています。これらのルールは、輸送費用、輸送時期および調教の進め方に影響を与えます。
Q: 海外遠征のために馬を輸送する際、関係者はどのような要素を考慮すべきですか。
A: とりわけ、関係者は馬が輸送中にリラックスして、おとなしくしていることに自信を持てる必要があります。また、関係者は予防接種や健康証明書といった事前準備の必要があるほか、付加価値税/物品サービス税および関税といった税制があることを認識する必要があります。関係者は、馬への輸出前検疫を計画している場合、輸入国の検疫条件を考慮に入れた計画を立てる必要があります。輸送代理店への連絡は、積み出しのかなり前に、例えばオーストラリアへの遠征が決まっている場合は、少なくとも3ヵ月前に行うことをお勧めします」。

(1ポンド=約240円)、(1ユーロ=約160円)

[Pacemaker 2008年6月「Have horse, will travel」]