海外競馬情報 2007年04月06日 - No.7 - 2
アミノレックスの陽性反応が局地的に発現(アメリカ)【獣医・診療】

 1980年代以降、アミノレックス(aminorex)を商業生産をしている会社はなく、また競走馬の治療薬物ガイドラインにも記載されていない。最近アミノレックスの陽性反応が出たため、規制当局者はその対策を模索しており、また馬主・調教師は弁明に追われている。

 これは、アメリカのオハイオ州、ペンシルベニア州およびマサチューセッツ州、カナダのオンタリオ州ならびにアジアの香港で、メタンフェタミン(methamphetamine−中枢神経刺激剤)に類似する第一類薬物アミノレックスの陽性反応が出たことによるものである。現在までのところ当局者は、これらの地域におけるアミノレックスの陽性反応が相互に関連しているのかどうかを見出せないでいる。

 薬物規制標準化委員会(Racing Medication and Testing Consortium)の専務理事スコット・ウォーターマン(Scot Waterman)博士は、アミノレックスが製造されていた当時、“アイス(Ice)”または“ユーフォリア(Euphoria)”と呼ばれていたと説明している。しかし、同博士はアミノレックスを製造するのは難しくないと述べている。

 同博士は、3月11日にフロリダ州のハランデール・ビーチで開催された各地域のサラブレッド競馬協会(Thoroughbred Racing Associations)と米国繋駕競馬場(Harness Tracks of America)の合同会合におけるプレゼンテーションで次のように述べた。「現時点では、状況は非常に流動的です。多くの地域で調査が進められています。この薬物には奇妙なことがたくさんあります。陽性反応が出た地域の分布が非常に特異なことも確かです」

 「もう1つの非常に特異なことは、この種の薬物が検出され続けていることです。ある薬物を利用している者は、我々がその薬物を検出できることをいったん知ると、ほかの薬物に変えるのです」

 アミノレックスの検査は、2004年にオハイオ州で始められた。今年になってカナダのある獣医師は、競走馬でアミノレックスの陽性反応が出るのは、トラミゾール(Tramisol)の使用から起きる可能性があることを示唆した。トラミゾールは、羊の駆虫剤で、馬の呼吸を楽にする作用がある。

 最近数週間に、カナダの速歩馬の調教師10人の管理馬からアミノレックスの陽性反応が出た。当局者は、これらの調教師の中に有名な調教師が含まれていると述べている。

 ウォーターマン博士は、「検査でトラミゾールがアミノレックスと間違えられることは決してありません。トラミゾールが物質代謝でアミノレックスに変化する可能性があるのでしょうか。アミノレックスは現在、アメリカの複数の薬物検査所で検査されています」と述べた。

 ペンシルベニア州で起きたアミノレックスの陽性反応は、サラブレッドの馬主・調教師を神経質にさせている。これは、同州がゼロ・トレランス政策(zero-tolerance policy)を採用していることと、アミノレックスの陽性反応が環境汚染から生じる可能性があるためである。

 ウォーターマン博士などは、競馬場の厩舎地区とトレーニング・センターで売られている“ジャンク(安物)”製品に警告を発しており、これらの製品は不注意による薬物陽性反応を招く可能性があると述べている。

 同博士は、「これら製品の大部分は、ラベルを張っておらず、また成分を表示していません。馬主・調教師がこれらの製品を馬に与え続けているのは残念です。これについては獣医師にも責任があります。我々は、これらの製品を販売している者を見つけ出すために物的・人的資源を投入しなければなりません」と述べている。

 薬物に関連するプレゼンテーションで、オンタリオ州競馬委員会(Ontario Racing Commission)の専務理事ジョン・ブレイクニィ(John Blakney)氏は、オンタリオ州当局は競馬界関係者の“治療薬物管理”および問題の“認識”が競走馬への違法薬物の投与をやめさせるのに重要であると述べた。同氏はまた、昨年の8月から10月までに、5人の調教師が管理馬に能力増強剤の陽性反応が出たため10万ドル(約1,200万円)の過怠金を科せられたほか、10年間の免許停止処分を受けたと述べた。

 同氏は、「我々は、薬物濫用の連鎖を阻止することができ、あるいは少なくとも限定し、または軽減することは可能であると認識しなければなりません」と付け加えた。

 カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board: CHRB)の会長リチャード・シャピロ(Richard Shapiro)氏は、馬主と調教師が責任を引き受け、何が危機にさらされているかを理解するよう求めた。

 同氏は、「私は競馬界の良心がどこにあるのかと常々思っています。競馬界の問題は何であるかについて真実を述べるときが来ています。問題は、我々に手段がないことです。・・・問題を解決するために、利害関係者は立ち上がって『我々は、自分たちの業界を浄化しなければならない』と述べる必要があります」と語った。

 同氏は、カリフォルニア州の20%程度の調教師の管理馬が、ミルクシェイクによる二酸化炭素総量(TCO2)の異常値を示したと述べている。ミルクシェイク、すなわち重炭酸ソーダは疲労を和らげ、運動能力を高めると信じられている。調教師は、ミルクシェイクは馬がレース後に窒素尿症を引き起こすのを防止するのに役立つという点において治療効果があると確信している。

 シャピロ氏は、競馬場は個人財産であるため、競馬場所有者はいかなる者をも競馬場から締め出すことができると述べている。しかし、ミルクシェイク投与の証拠がすでにあるもかかわらず、「調査員を競馬場に入れたくない」と言う競馬場は一箇所もない。

 同氏は、費用が問題であると述べた。CHRBは、競走外検査(out-of-competition testing)を実施するために州から追加の80万ドル(約9,600万円)を受け取った。競走外検査はレース日以外の日に行われ、レース前後の日に投与された血液ドーピングを検査するために利用されている。しかし、同氏によると、カリフォルニア州は全競走馬のわずか27%にしか競走外検査を行っていない。

(1ドル=約120円)
By Tom LaMarra

〔bloodhorse.com 2007年3月11日「Drug Positives Have Regulators, Horsemen Scratching Heads」〕