海外競馬情報 2007年09月21日 - No.18 - 3
ヨーロッパと北アメリカの成績を偏重するレーティング(国際)【開催・運営】

 国際競馬統轄機関連盟(International Federation of Horseracing Authorities: IFHA)が最近発表した世界最優秀馬のレーティングは、聖書以上に多くの議論を巻き起こしている。IFHAは今回もさまざまな馬名の前にレーティングを付しているが、数値を比較する基準が明瞭に示されていないので、これらの数値は観念的なものとなっている。さらに、これらの数値は、ヨーロッパと北アメリカのGI競走における戦績を過大評価し、ほかの国・地域における戦績を過小評価しているように見える。

 異論の主なものは、IFHAはアメリカの最優秀ダート(全天候型馬場が増えている)馬が世界の最優秀馬であることを既定事実としているという意見だ。IFHAがなぜそのような見方をしているか、その説明はきわめて困難である。おそらくワールドランキング統轄委員会(judging panel)にアメリカ人またはアメリカ好きの委員が多数を占めているのだろう。

 IFHAの最優秀馬レーティングは知的習慣を無視している。科学的な評価方法は、まず証拠を調査し、次に証拠から結論を導くことである。つまり、結論が先にあって証拠を結論に合わせることではない。そのようなやり方は、中世の哲学者が惑星の運動を天動説という仮説に一致させようとしたときに犯した基本的な過ちである。才気縦横、博学かつ善意の人々が引き起こした混乱は、不可解なものである。

 今年のレーティングの場合、アメリカの最優秀ダート馬が天動説における地球で、ほかのすべての馬がその周りを回る惑星であるというようなものである。その馬とは、129の評価を与えられたインヴァソール(Invasor)である。この評価の裏づけ証拠は公表されていないが、それはそのような証拠が入手できていないからではないのか。同馬は、芝馬と競ったこと、より正確には、芝コースで芝馬と競ったことがない。

 IFHAの評価の根拠が昨年のブリダーズカップ・クラシックでインヴァソールがジョージワシントン(George Washington)を破ったことにあるというならば、その根拠は薄弱である。というのは、このような評価を下すには、ある前提が必要となる。具体的には、華々しい成績を挙げたジョージワシントンが、ダートコースに出走した際にベストに近い体調で走ったという前提が成り立たなければならない。

 あるいは、IFHAの評価の根拠が、インヴァソールがドバイ・ワールドカップで、古馬ブリッシュラック(Bullish Luck 8歳時に始めてダートコースに出走)を破ったことにあるというならば、その根拠はいっそう薄弱である。ブリッシュラックは、慣れ親しんでいた香港の芝コースで今年6月にヴィヴァパタカ(Viva Pataca)とヴェンジェンスオブレイン(Vengeance Of Rain)の後塵を拝した。他方、インヴァソールが専門とするコースでブリッシュラックを破ったときの着差は、10馬身差程度にすぎない。これらの事実をどのように説明するのであろうか。合理的に説明するには、ブリッシュラックが香港の1マイル4フィート(約1,620 m)の距離に合わなかったとか、ドバイで“消耗してしまった”というしかないであろう。それにしても、ブリッシュラックがダートコースに適性があったとか、ドバイにいる間には“消耗しなかった”とIFHAは言い切れるのだろうか。

 ほとんどのダート馬が芝の競走に出走してこないが、これを芝競走の賞金が低いせいだとは言えない。芝競走は薬物なしで行われていることが大きな理由であろう。百歩譲って、ダート馬が薬物に依存している事実を無視したとしても、ダート馬が芝馬より優れているという結論にはならない。

 しかし、芝コースでは特別の成績を上げなかったが、ダートコースでは圧倒的に優秀な成績をあげた馬の例として、チャンピオン馬でマインシャフト(Mineshaft)までさかのぼらなくても、ラヴァマン(Lava Man)やアジアティックボーイ(Asiatic Boy)のような最近の例がある。

 芝馬がダートコースで成功できるということは、ダート馬に関するIFHAの評価に反証を示すことになる。アラジ(Arazi)とヨハネスブルグ(Johannesburg)のことを考えてほしい。あるいはシェイクアルバドゥ(Sheikh Albadou)とデイジュール(Dayjur)について考えてほしい。状況が少しでも異なっていたならば、ブリダーズカップ・クラシックに優勝した4頭の芝馬が誕生していたかもしれないのだ。フランキー・デットーリ(Frankie Dettori)騎手がスウェイン(Swain)に騎乗した際に突然異常なことをしなかったならば、ミック・キネーン(Mick Kinane)騎手がジャイアンツコーズウェイ(Giant’s Causeway)の制御を失わなかったならば、あるいはサキー(Sakhee)がダートコースをほんのもう少ししっかりとらえていたならば・・・。ダート馬が凱旋門賞やジャパンカップに優勝するのを私たちが目にする日があれば、頭を丸めるしかない。

 マンデュロ(Manduro)が今年のブリダーズカップ・クラシックに出走するのを想像するだけでも心が躍る思いがする。同馬が、アンドレ・ファーブル(Andre Fabre)調教師に管理されていた同厩馬アルカング(Arcangues)よりも、やすやすと同競走に優勝したならば、地動説を信奉するようにアメリカの最優秀ダート馬を世界最優秀と信じている人たちは、芝馬とダート馬の評価に関していったいどのような意見を述べるのだろうか。

By Paul Haigh

〔Racing Post 2007年8月17日「IFHA ratings are once again a load of dirt」〕