海外競馬情報 2007年06月08日 - No.11 - 1
ベッティングショップ向け競馬放映をめぐる戦争勃発(イギリス)【開催・運営】

 ベッティングショップを訪れる馬券購入者は、ひどいショックを受けるだろう。

 SIS社(Satellite Information Services: 衛星情報サービス)の発足以来、20年にわたって、ベッティングショップの客は、国内の競馬場からのあらゆるレース映像をSISのサービスを通して観てきたが、一部が不可能となる。英国のほぼ半数の競馬場がSISではなく、自前の配信会社ターフTVを通じて映像を送ろうとしているからだ。

訳注:SIS…大手ブックメーカーのウィリアムヒル社、ラドブロークス社などの出資により設立された会社であり、場外ブックメーカー専門に映像を衛星放送で配信する。

ターフTV…英国のほぼ半数の競馬場等が共同して立ち上げた。ベッティングショップに衛星放送で映像を配信する。

   つまり、ブックメーカーはターフTVと映像受信契約を結んでなければ、4月20日はニューベリ競馬場からの映像を受信できない。4月21日もニューベリ競馬場の7レース中、地上波で放映される4レース以外は受信できず、バンゴール競馬場からはまったく受信できない。受信できるのは実況音声のみ。

 チェスター競馬場とヨーク競馬場の5月開催、アスコット競馬場の6月のロイヤル・アスコット開催についても、ベッティングショップの映像スクリーンで観られるのは、チャンネル4とBBC(英国放送協会)が地上波で放映するレースだけとなる。

 つまり大手ブックメーカーがターフTVと合意できないと、来年1月からは31の競馬場のレース映像は、チャンネル4とBBCによって放映されるレースを除き、イギリス・アイルランドの9,500ヵ所のベッティングショップの大部分で観られなくなるのだ。

 このような劇的な状況を生じさせた原因は何か。それは、昨年ターフTVを立ち上げた30の競馬場に加えて、アスコット競馬場が、自場レースの映像権の管理を厳しくしたことにある。ニューベリ競馬場のマーク・カーショウ(Mark Kershaw)場長は、「SISは独占企業であったので、私たちはSISを選ぶしかなかったのです。しかし、今はターフTVとの競争状態が生まれつつあ ります」と説明している。

 ターフTVの共同出資者には、すべての主要競馬場にディスプレーと勝馬投票システムを供給しているアルファメリック社(Alphameric)が含まれる。

 この構想に資金を提供するため、アルファメリック社は840万ポンド(約16億8,000万円)を調達し、最初の18ヵ月間に600万ポンド(約12億円)超を投資する予定であると発表した。

 これまで、イギリスの59の競馬場は、ベッティングショップ向けの映像権を、SISに直接販売するか、あるいはバッグス社(Bags: Bookmakers Afternoon Greyhound Service)に販売(さらに同社からSISに放映委託)していた。ブックメーカーとSIS間の現行契約が今年満了することから、ターフTVは競馬場の映像放映権の取得に関してバッグス社やSISと競争する結果となった。

 ニューベリ競馬場のカーショウ場長は、「当競馬場は、バッグス社から1レース当たり4,250ポンド(約85万円)の映像放映料を受け取っていましたが、地上波テレビで放映されるレースについては受け取っていませんでした。ターフTVとの契約は、かなりの好条件であり、地上波で放映されるレースの映像放映権料も含んでいます」と述べている。

 しかし、すべての競馬場がターフTVと契約を結んだわけではない。今年初め、SIS社+バッグス社は、条件を大幅に改善して次の3社・1場と独占契約を締結し、これによって、SISは全開催日割の50%強の映像権を確保した。3社・1場とは、アリーナレジャー社(Arena Leisure)、ノーザンレーシング社(Northern Racing)、ジージー・メディア社(GG‐Media)およびグレートリーズ競馬場である。映像権料はどうか。バックス社とアリーナレジャー社との間では、2006年には880万ポンド(約17億6,000万円)であったが、新たな5年契約では、年平均約1,100万ポンド(約22億円)となる。なお、アリーナレジャー社は、7競馬場を運営し、全天候型馬場の開催の大半を運営している。

 今のところ、ターフTVとの契約条件に合意しているブックメーカーはいない。アルファメリック社のモルコム会長は、「ブックメーカーはSISと契約を結んでいても、ターフTVとも映像受信契約を結べるのです」と強調している。しかし、SISの最高経営責任者デーヴィッド・ホールドゲート(David Holdgate)氏は、「ターフTVは、当初はSISに取って代わろうとしたのですが、現在ではSISと併用することを勧めています。しかし、これはブックメーカーにとってメリットはありません」と述べている。

 ウイリアムヒル社(William Hill)の最高経営責任者デービッド・ハーディング(David Harding)氏は、「ターフTVの提案は、イギリスとアイルランドのベッティングショップにとっては年間470万ポンド(約9億4,000万円)の追加支出となりますが、サービスは従来よりも悪くなります」と語った。

 ターフTVのフルサービスは来年1月に開始され、受信料はベッティングショップ1店舗あたり、1年間に6,500ポンド(約130万円)になる。これに対して、SISのフルサービスは、1年間に1万2,800ポンド(約256万円)である。SISは料金を引き下げる余地が限られていると述べ、「私たちは料金を大幅に引き下げることはできません。イギリス競馬の映像権料は3,200ポンド(約64万円)であり、ブックメーカーに対し割り引きできるのは1,600ポンド(約32万円)程度です」と主張した。ターフTVは、「SISは、そのサービス内容のかなりの部分を失っている。これを考えれば、同社の料金設定は非常に硬直的です。SISがコンテンツ(映像)の減少に合わせて料金を引き下げ、ブックメーカーがSISとターフTVを併用することにより、ブックメーカーの支出は現在よりも少し多くなりますが、すべてのコンテンツ(映像)を得られるでしょう」と主張している。

 戦争はすでに始まっており、いっそう激しくなるのは確実である。

By David Ashforth
(1ポンド=約200円)

〔Racing Post 2007年4月20日「BLANK OUTLOOK」〕