海外競馬ニュース 2023年10月05日 - No.38 - 1
無傷のエースインパクト、世界驚愕の末脚で凱旋門賞を制覇(フランス)[その他]

 2023年凱旋門賞(G1)は救われる必要があったわけではないが、エースインパクトはロンシャンでの驚くべきパフォーマンスで完璧な能力を証明した。世界中が期待して見守る中、この日に"ふさわしい"馬が勝ったのかという疑念はほとんどなかった。

 季節はずれの蒸し暑いパリの午後、仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)優勝馬エースインパクトはクリスチャン・デムーロ騎手を背に、猛烈な末脚で息苦しい湿気の中を突き抜けた。残り1ハロンでウエストオーバーをのみこみ、1¾馬身という確たる着差で歴史にその名を刻んだ。このような画期的なG1競走にふさわしい純然たる威厳のあるパフォーマンスを見せつけ、2400mを持ちこたえられるかという心配を裏切ったのだ。

 結局、最後の直線でデムーロ騎手に促されて力を振り絞った様子を見ると、この馬はむしろ2400mをうまくこなすのかもしれないと思えた。道中はほぼ後方3番手の位置につけ体力を温存してから末脚を爆発させた。稀有な才能をもった牡馬なのだ。

 凱旋門賞史上屈指の名馬に数えられるかどうかは、最終的には来年もこのレースに挑戦するために現役を続行するかどうかにかかっているかもしれないが、戦績はかなり立派なものになっている。

 エースインパクトは今回、数々の栄光の舞台となったロンシャンでのデビュー戦に挑んだ。パドックを出る前から、弱まることのない太陽の光が多くの出走馬をすでに汗だくにさせていた。そのような中で彼は絢爛たるパフォーマンスを見せて無敗記録を伸ばし、通算成績を6戦6勝とした。

 エースインパクトは2着となるウエストオーバーと同様に少し入れ込んでいた。しかしいずれの馬にとっても普段と違う振舞いというわけでもなかった。

 仏ダービー(シャンティイ)でも、エースインパクトのこのような驚愕の末脚で勝利を決めた。そしてここでも同じく人目を奪うようなやり方で、凱旋門賞の不滅の殿堂に加わったのだ。

 この勝利はまた、凱旋門賞当日に向けて有力馬を仕上げるという優れた能力を持つ調教師として、ジャン⁻クロード・ルジェ調教師が予期せぬアンドレ・ファーブル調教師の後継者であることを証明した。この勝利はルジェ調教師にとって、2020年に同じくデムーロ騎手が鞍上を務めたソットサスで勝利して以来、4年ぶり2度目の凱旋門賞制覇となった。2頭とも10月の最初の日曜日に向けて、ほぼ人目を欺くようなかたちで、入念にピークの状態に仕上げられていた。プレップレースのギヨームドルナノ賞(G2 ドーヴィル)でのエースインパクトの勝利はいくぶん地味なものだった。その結果、彼への期待は高まるどころか低下してしまった。しかしよく知る者にとってはそうではなかった(訳注:ソットサスも前走の愛チャンピオンSで4着までだった)。

 ルジェ調教師はエースインパクトの息をのむような急襲について、「新星が現れるといつも"最強だ"と言いがちですが、彼は今まで見た中で最も力強い末脚を持っていると思います」と語った。

 そしてレース前の緊張について、「たとえ自信があったとしても、レースでは何が起こるかわからないのです。発走前に最後に私が思ったのは、本当にそうなったら出来すぎだなということでした。でも本当でしたね!」と述べた。

 勝利の余韻も冷めやらないうちルジェ調教師は愛嬌を振りまいていたが、31歳のデムーロ騎手も色を添えた。この日、凱旋門賞でのラスト騎乗を行ったカリスマ的なイタリア人ジョッキー、フランキー・デットーリ騎手はその長くて輝かしい現役生活を象徴するようなビッグレースでの落ち着きと華やかさを見せた。このレースはそのキャリアを要約するようなものだ。

 デムーロ騎手がデットーリ騎手の後継者だとは誰も思っていないが、その満面の笑顔と陽気な性格は、サルデーニャ人がいなくなっても競馬界は回り続けるということをあらためて気づかせてくれるものだった。彼はフライングディスマウントでデットーリ騎手に敬意を表するというウィットさえも持ち合わせていた。

 デムーロ騎手は、「フランキーにとって最後の年となるので彼のためにジャンプしたのです」と述べた。

 レース前半にエースインパクトの後ろにいたのはオネストとシスファハンのみだったが、デムーロ騎手はつけたい位置を常に指示することができた。

 ミスターハリウッドはベイブリッジとフクムを離して先頭に立ち、ウエストオーバーがすぐ後ろにつけた。スピードは互角に見えたが、直線に入るとついにエースインパクトが追い上げ始めた。やがてデムーロ騎手は単勝3.5倍の1番人気に支持された相棒を外に出し、馬群をさばいた。そして数完歩のうちに勝負はついた。

 ウエストオーバーが2着に粘り、オネストとスルーセブンシーズが3着と4着に健闘し、コンティニュアスを5着に退けた。

 しかしこのレースは優勝馬がすべてである。関係者は1着賞金285万7,000ユーロ(約4億4,284万円)を手に入れた。デムーロ騎手は確固たる信念を持ってこのクラックスマン産駒に騎乗し、ゴール板を駆け抜けるときには観衆に敬礼した。

 デムーロ騎手はこう語った。「直線に入ったときにペースをあげられることは分かっていました。ボタンを押せば加速するだろうと思っていましたし、そのとおりにしてくれました」。

 「素晴らしかったですね。彼はチャンピオンなのだから来年も現役を続行してくれることを願っています。こういう馬に乗りつづけたいのです」。

 これは、エースインパクトの馬主であるグースリーレーシングとセルジュ・ステンプニアク厩舎、そしてルジェ調教師に尋ねてみたい質問である。グースリーレーシングはカメル・シェブーブ氏の一族が経営する会社であり、仏ダービー優勝後に種牡馬候補としてエースインパクトの一部を購買している。

 今やエースインパクトは凱旋門賞優勝馬でもあり、その潜在的なスピードから魅力いっぱいの種牡馬候補となっている。

 エースインパクトの次の目標としては英チャンピオンS(G1 アスコット)とジャパンカップ(G1 東京)が検討されるだろうが、ふたたび出走するかどうかについては未定である。

 カメル・シェブーブ氏の娘でありレーシングマネージャーを務めるポリーヌ・シェブーブ氏にとって、ここでこの瞬間を満喫することのほうが大切だったようだ。

 「エースインパクトをこれらの強豪馬と対戦させることは夢でした。この馬と関わり、フランスで所有できることをとても誇りに思っています。そうすることで将来、この馬をフランスの繁殖牝馬の相手として紹介できますし、生産者の皆さんに使ってもらうことができるでしょう」。

 もしこれがエースインパクトの最後の一戦だったとすると、光り輝く星はたしかに煌々と燃え盛っていた。

 1年前、関係者以外に彼の存在を知る者はほとんどいなかった。1月末に海辺のカーニュ⁻シュル⁻メール競馬場でデビューしてから8ヵ月が経った今、彼はクラシック競走と凱旋門賞の優勝馬となった。なんという衝撃(インパクト)だろう。

 彼はどこからともなく欧州を征服するためにやってきた。そして今、言えることはきっとひとつだけだ。「アンコール、アンコール!(もう1年、もう1年!)」

By Richard Forristal
(1ユーロ=約155円)

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[Racing Post 2023年10月1日「'He has the strongest acceleration I've seen' - Ace Impact extends unbeaten streak with brilliant Prix de l'Arc de Triomphe win」]