海外競馬ニュース 2022年07月21日 - No.26 - 4
北米リーディングサイアーに輝いたキトゥンズジョイが21歳で死亡(アメリカ)[生産]

 北米リーディングサイアーに輝いたキトゥンズジョイ(21歳)は7月15日、ヒルンデールファームの囲い放牧地で心臓発作により死んだ。

 キトゥンズジョイ[父エルプラド 母キトゥンズファースト(勝馬) 母父リアファン]はオーナーブリーダーのケン&故サラ・ラムジー夫妻により生産され、彼らの自慢の種だった。所有馬の冠名を「キトゥン」としていたサラ・ラムジー氏にとって、初めて購買した競走馬キトゥンズファーストの仔だった。

 キトゥンズジョイはキトゥンズファーストにとって、第4仔であり初めての重賞勝馬だった。2歳のときに4戦2勝を果たし、3歳のときには米国において最高級のターフホースに成長した。ターフクラシック招待S(芝G1)、セクレタリアトS(芝G1)、ヴァージニアダービー(芝G3)、アメリカンターフS(当時芝G3)、パームビーチS(芝G3)、トロピカルパークダービー(芝G3)で優勝したことで、2004年米国最優秀芝牡馬に選ばれたのだ。また同じ年にラムジー夫妻は、のちに合わせて5回受賞することになる米国最優秀馬主賞を初めて獲得した。

 キトゥンズジョイは通算14戦9勝(2着4回)の成績を収めて、賞金207万5,791ドル(約2億9,061万円)を獲得して現役を引退し、ラムジーファーム(ケンタッキー州ニコラスビル近郊)で種牡馬生活を開始した。そして種牡馬として頭角を現し、2013年と2018年に北米リーディングサイアー(総合部門)となり、6年連続(2013年~2018年)で芝部門のリーディングサイアーに輝いた。

 ラムジー夫妻はキトゥンズジョイを含む6頭の種牡馬(いずれも重賞勝馬)の産駒を自家生産して出走させ、2013年の最優秀生産者と最優秀馬主に選ばれた。2014年も自家生産したキトゥンズジョイ産駒がG1・3勝を達成したことで、これら2つのタイトルをふたたび獲得した。

 2017年に所有権の半分を獲得してキトゥンズジョイを供用するようになったヒルンデールファームのジョン・シクラ氏は、「ケン・ラムジー氏はこの馬のことを信じ、偉大な種牡馬にしたいと強く考えているようでした」と語った。キトゥンズジョイ産駒は父に実績があるにもかかわらず1歳セールで十分な評価を得ていないと当時ラムジー氏は感じており、キトゥンズジョイを欧州の牧場に売り渡してしまうと脅していたという。

 ケン・ラムジー氏はその頃、「この馬は米国では過小評価されており、状況が良くなるとは思えないのです」と述べていた。ただサラ夫人のほうには別の考えがあり、夫が英国の牧場とまとめた取引に反対した。

 ラムジー氏は本誌(ブラッドホース誌)に対して、「彼女が介入してくれて本当に良かったです。キトゥンズジョイは特別な馬なので、牧場にいるのを見ていたいということでした」と語った。

 またラムジー氏は、この馬を米国にとどめてヒルンデールファームで管理したいと説得するシクラ氏からの電話を受けた。

 シクラ氏はこう語った。「私はこの馬が米国にいなければならない理由を訴えました。すると彼は私たちに信頼を寄せ、実績ある馬を譲ってくれたのです。この馬にはいつも目に見えないような磁力があるのです。力強さが伝わってくるようでした。膝に関節炎があるにもかかわらず、いつでも種付所に行く準備ができていました」。

 「まったく"驚くべき種牡馬"でしたね。おそらくこの言葉は必要以上によく使われますが、本当に偉大な種牡馬のためだけに使われるべき言葉なのでしょうね。彼はまさに偉大で世代を代表する種牡馬でした」。

 キトゥンズジョイは7月15日の朝に放牧地に出され、静かに草を食んでいた。およそ1時間後に、牧場のスタッフが放牧地の真ん中で彼が横たわって動かないのに気づいた。

 シクラ氏はこう続けた。「心のありようとしては、おそらく"悲しい"という言葉はしっくりきません。むしろ畏敬の念でしょうね。彼の功績への敬意と、これほど偉大な種牡馬を光栄にも供用させていただけたことへの敬意です。彼は何も不自由することなく充実した一生を送りました。ほぼ安らかに眠りにつきました。突然死が訪れて苦しむこともなかったのです。美しい環境の中で過ごし、草を食み、そして息を引き取ったのです。威厳のある逝き方でしたね」。

 キトゥンズジョイはラムジーファームに埋葬される。

 キトゥンズジョイは種牡馬として国際的に高く評価されている。世界中でステークス勝馬112頭を送り出し、うち53頭が重賞勝馬であり、5頭が最優秀馬に選ばれた。その中にはBCフィリー&メアターフ(芝G1)を制したステファニーズキトゥン、BCターフスプリント(芝G1)を制したボビーズキトゥン、2015年最優秀芝牡馬ビッグブルーキトゥン、ドバイシーマクラシック(G1)などを制したホークビル、G1馬で2018年欧州年度代表馬のロアリングライオンなどが含まれる。ほかにもディヴィジデロ・リアルソリューション・サドラーズジョイ・オスカーパフォーマンス・アドミラルキトゥン・カイロプラクター・ヘンリーズジョイ・カメコ・キトゥンズダンプリングスなどのG1馬がいる。

 キトゥンズジョイ産駒の血統登録された産駒に対する勝馬率は52%(981頭)であり、出走した産駒の獲得賞金は1億2,820万ドル(約179億4,800万円)以上であり、平均獲得賞金は9万2,149ドル(約1,290万円)である(7月15日現在)。

 ラムジー氏は、「ジョン・シクラ氏はなかなか得られない最高のパートナーです。彼とそのチームはこの上ないほど素晴らしくキトゥンズジョイを世話してくれました。彼の種牡馬生活の後半を見事なプロ意識をもって管理してくれたのです」と語った。

 サラ夫人が逝去した5月29日のおよそ6週間後にキトゥンズジョイは他界した。

 「このように短いあいだに、妻とその愛馬の両方を失うのはこの上なく悲しいことです。この馬は妻が人生で一番愛した馬で、生まれたときからずっと愛していたのです。彼女は『この馬はたくさんの喜びをもたらしてくれるでしょう』と言っていましたが、確かにそうでした。私たち家族に彼がもたらしてくれた思い出を決して忘れることはないでしょう。生涯で最高の馬だったのです」とラムジー氏は語った。

By Eric Mitchell

(1ドル=約140円)

[bloodhorse.com 2022年7月15日「Multiple Leading Sire Kitten's Joy Dies at 21」]