海外競馬ニュース 2022年07月21日 - No.26 - 1
ザック・パートン騎手、ドラマチックで過酷なシーズンにおいて首位に輝く(香港)[開催・運営]

 香港競馬のプロシーズンが始まった1971年以降の50年間で最も過酷だったシーズンの最終日は驚くべき結果となり、ザック・パートン騎手が5度のリーディングジョッキーとして功績を残すことになった。

 7月16日(土)のシャティン競馬場の最終レースでは単勝200倍のエンカウンタードが先頭でゴールした。騎手・調教師・関係者が毎日勤務時に検査を受けなければならないほどの極めて厳しい新型コロナ対策が取られ、フラストレーションがたまり予測不可能な状態の続いた競馬シーズンはこうして締めくくられた。

 驚くべきことに競馬開催日程(全88日)のうち1日も中止とはならず、香港のファンは香港の836競走と海外の281競走(サイマルキャスト発売)に過去最高の1,400億香港ドル(約2兆3,800億円)を賭け、発売金は前シーズン比3%増となった。

 香港ジョッキークラブ(HKJC)のCEOウィンフリート・エンゲルブレヒト⁼ブレスゲス氏は関係者たちを称賛した。「調教師・騎手・馬主・職員・ファンなどすべての参加者の一体感と規律の徹底があったことにより、香港で最も人気あるスポーツを世界に紹介し続けることができました。あらためて嬉しく思っています」。

 「いつもHKJCの運営の中心には香港の"なせばなる精神"があります。競馬を施行し続けるために関係者全員が犠牲を払ってくれていることに感謝しています」。

 世界中の注目を常に引き付けることが、香港の築き上げてきた国際的な地位を維持していく上では重要である。香港政府の新型コロナ対策により、香港チャンピオンズデー(4月24日)に海外からの遠征馬がなかったのは痛手だった。しかし海外からの遠征馬を呼び戻すために、12月の香港国際競走(HKIR)のG1・4競走の賞金総額を1億1,000万香港ドル(約18億7,000万円)に引き上げるとHKJCはすでに発表している。

 ザック・パートン騎手とジョアン・モレイラ騎手という国際的スターが、香港ですでに確固たる地位を築いている。2人はそれぞれ132勝を挙げて、シーズン最終日(7月16日)を迎えた。しかし大変待ち望まれた最終日の両騎手間の決戦については盛り上がりにかける形になった。

 パートン騎手はターコイズアルファとネヴァートゥースーンで早くも2勝を挙げ、カードの前半で決定的なアドバンテージを得た。一方モレイラ騎手は1勝も挙げられずにいた。そして勝負を決するレース、香港馬主協会トロフィーを迎えた。このレースでパートン騎手は1番人気のチュリンレッドサンに騎乗した。以前ジョン&セイディ・ゴスデン厩舎に所属したこの馬は昨年のブリタニアS(ロイヤルアスコット開催)で6着に入っている。

 モレイラ騎手は2番人気のマネーキャッチャーに騎乗して最後の直線に差し掛かったときに先頭に立った。衝動的にゴールを目指して疾走したが、最後の1ハロンでパートン騎手とチュリンレッドサンが並びかけてきた。

 残り50ヤード(約46m)となった。パートン騎手はリーディングタイトルを手中におさめたことは分かっていたが、モレイラ騎手は決勝線まで戦うことをやめなかった。そして2頭の差はわずか短頭差となったが、両者にとってきわめて熾烈なシーズンの終わりに勝利を収めたのはパートン騎手だった。

 香港競馬界はこのような2人の偉大なライバルの存在により大いに恩恵を受けている。彼らの長年にわたるライバル意識とプロ意識の高さは、香港競馬の代名詞とも言える。リーディングタイトル獲得の決め手となったチュリンレッドサンを手掛けたのがダグラス・ホワイト元騎手だったことは、何かの因果だったのだろう。パートン騎手は2013-14年シーズンに初めてリーディングタイトルを獲得したときにホワイト氏を破っていた。

 ホワイト氏とパートン騎手が競い合っていた時代に不仲だったことはよく知られている。ホワイト氏が厩舎を開業したとき、ある日パートン騎手が現れて「僕が必要だろう」と言ったというエピソードがある。

 チュリンレッドサンと関係者がレース後恒例の記念撮影に臨んでいたとき、調教師と騎手は並んでいた。パートン騎手は「敵になるよりも友だちになる方がずっといい」という格言の意味を嚙み締めた。

 騎手のリーディング争いはどのようなドラマの脚本家も書けないような意外な展開になった。シーズン中に首位は6回も入れ替わり、いずれの騎手も折り悪く不運に見舞われた。

 パートン騎手は12月の香港スプリント(G1 シャティン)での4頭が落馬するという恐ろしい事故に巻き込まれ複数箇所を負傷し、8開催日にわたり休養を余儀なくされた。またモレイラ騎手は2月に裁決委員の不興をかい、6開催日にわたる騎乗停止処分を科された。さらにマジックマンの異名をとるこの騎手はその後、ハッピーバレー競馬場でレース中に胸痛に襲われ2開催日にわたり休養することになった。

 5度目のリーディングタイトルを獲得したパートン騎手は、モレイラ騎手に賛辞を贈った。「2人とも健康上の問題を抱えてすごく大変でした。お互いタイトルを獲得するのにふさわしい騎手だったのです。1人しか獲得できないなんて本当につらいですね」。

 「エネルギーを使い果たし、おそらく2人とも限界でしょう。今日で終わりにして、お互い休暇を取り、また次のシーズンに戻って来られると嬉しいですね」。

 モレイラ騎手が騎乗停止期間に入った2月、パートン騎手はこの最大のライバルに18勝差をつけられていて、巻き返すのは不可能だと思われていた。彼はその状態から、数ヵ月にわたり理学療法を受けて落馬事故による怪我の治療に努めながら5つ目のタイトルを手にすることができた。騎手としての、または人間としての格を見せつけたのである。

 パートン騎手はシーズン最終日に4勝を挙げた。シーズン最後の勝利は、ラッキースワイニースの鞍上をつとめ外枠の不利を克服すべく彼らしい力強い騎乗を見せて達成したものだ。勝鞍に恵まれなかったモレイラ騎手はその日を結局132勝で終え、136勝のパートン騎手に4勝差をつけられた。

 フランキー・ロー調教師(56歳)は調教師免許を取得してわずか5シーズン目にして90勝を挙げて初めてリーディングトレーナーに輝き、波乱に満ちた1年のもう1つのハイライトとなった。ロー調教師は、厩舎を開業する前の41年間に見習騎手・遠征担当騎手・調教助手として雇ってくれたHKJCに感謝した。

 地元出身者で活躍したのはロー調教師だけではない。55勝したマシュー・チャドウィック騎手も地元出身の最多勝ジョッキーに贈られるトニークルーズ賞を獲得した。ゴールデンシックスティの主戦をつとめ今シーズン香港で50勝を挙げたヴィンセント・ホー騎手を破ったのだ。

 ゴールデンシックスティは3シーズンぶりに敗北を喫したが、2シーズン連続で香港年度代表馬のトロフィーを獲得した。また香港ダービー馬ロマンティックウォリアーが最優秀ミドルディタンス馬、ウェリントンが最優秀スプリンターに、ロシアンエンペラーが最優秀ステイヤーに輝いた。

 香港の2022-23年シーズンは9月11日(日)に開幕する。

By J A McGrath

(1香港ドル=約17円)

[Racing Post 2022年7月18日「Hong Kong season review: Zac Purton shines at end of dramatic and gruelling year」]