海外競馬ニュース 2021年02月25日 - No.7 - 2
人工授精と代理母馬利用の疑いでG1馬生産牧場を調査(オーストラリア)[生産]

 ヴィクトリア州のG1馬を生産した牧場に対し、オーストラリア血統書のルールで違反とされる人工授精および代理母馬利用を行ったとする大きな波紋を呼ぶ嫌疑が掛けられている。豪州およびヴィクトリア州の生産者団体は、この嫌疑について調査が行われていることを歓迎している。

 ショーン・バックリー氏が所有するウルトラサラブレッズ牧場(Ultra Thoroughbreds)は、2月13日のライトニングS(G1)優勝馬ネイチャーストリップの生産者である。同牧場は2月16日、ルール違反の疑いがあるとして調査を受けている事業体と確認された。

 この衝撃的な告発を最初に報じたのはヘラルドサン紙であり、同紙はミスアンドレッティと思われる受胎しにくい優良牝馬のために代理母馬が使われたと主張した。

 レーシングヴィクトリア(RV)は2月16日、この嫌疑についての調査が進行中であることを認めた。

 RVのスポークスマンはこう述べた。「裁決委員のサラブレッド生産に関する調査は初期の段階にあります。現時点で調査の具体的内容についてはコメントするつもりはありません」。

 サラブレッド生産者オーストラリア(TBA)の CEOトム・ライリー氏はこう語った。「TBAは人工的方法による生産の禁止も含めオーストラリア血統書のルールを全面的に支持します。ヘラルドサン紙が報じているようなルール違反の可能性が申し立てられた以上、これらの主張が調査されるのは妥当なことです」。

 サラブレッド生産者ヴィクトリア(TBV)もライリー氏と同様にRVによる調査を支持しており、声明においてこう述べている。

 「TBVは、ヘラルドサン紙が報じた胚移植・人工授精に関するルール違反の申立てが行われていることを承知しています。TBVはオーストラリア血統書のルール違反をいかなるものであれ大目に見ることはなく、この事案に関するRVの調査を支持します」。

 ジ・エイジ紙は2月26日、ネイチャーストリップの母馬ストライクライン(Strikeline 20歳)と2008年に繁殖入りから受胎が難しいとされていたミスアンドレッティに対して2019年に代理母馬が使われていたと主張した。

 さらに、その報道によれば、ミスアンドレッティとストライクラインは昨年春、胚移植によって種牡馬アディクティヴネイチャー(Addictive Nature)とのあいだにそれぞれ牝駒と牡駒をもうけた。バックリー氏が所有するアディクティヴネイチャーは、バリースタッド(Barree Stud ヴィクトリア州キルモア近郊)で供用されている。

 ミスアンドレッティとストライクラインのどちらについても、オーストラリア血統書に繁殖成績報告がまだ提出されていない。しかし2頭はいずれも昨年12月に、バックリー氏が所有するコックスプレート優勝馬シャムスアワード(ローズモントスタッドで供用)と交配している。ただしミスアンドレッティ(19歳)が最後に生んだ仔は、2017年生まれのミスターライコネン(Mr Raikkonen)とされている

 ヘラルドサン紙は、ウルトラサラブレッズ牧場の元従業員がヴィクトリア州の裁決委員に渡したファイルの中にあったとされるテキストメッセージを公表した。

 獣医師が送信したとされるテキストメッセージにはこう記されていた。

 「嬉しいことに、○○(編集により消された馬名)は教科書どおりの周期を辿っています」。

 「排卵の6時間前と排卵のあいだにスプリット法の人工授精を行いました。あとは彼女次第です。発情周期が同期化されたレシピエント(代理母馬)が2頭いるので、ここに連れてくることができます」。

 「1週間余り経って受精卵を回収すれば連絡します」。

 「○○(編集により消された馬名)はまだ高受胎率を保っていますが、今週うまく確認できて、レシピエントとタイミングが合うことを望んでいます」。

 この情報提供者は、協力の代償として免責を求めていると言われている。

 バックリー氏と付合いのあった獣医師は、ANZブラッドストックニュースからの問合せに対し、ウルトラサラブレッズがオーストラリア血統書のルールを違反したという嫌疑について何も知らないと述べた。この獣医師は現在の雇用主のマスコミ対応ガイドラインを引合いに出し、これ以上のコメントは控えたいとした。

 ANZブラッドストックニュースは、その獣医師のルール違反疑惑との関わり、あるいはテキストメッセージの発信者であるかどうかについては言及せず、彼の名前も明らかにしなかった。この獣医師は2019年以降はバックリー氏に関与していない。

 レーシングNSWのCEOピーター・ヴランディーズ氏と公正総括管理者のマーク・ヴァン・ゲステル(Marc Van Gestel)氏はいずれも、2月16日に問合せを受けたときに、RVの調査についてのコメントを控えた。

 1月のマジックミリオンズ・ゴールドコースト1歳セールでアルマンゾルの牡駒を80万豪ドル(約6,800万円)で購買したバックリー氏は、ジ・エイジ紙に対してRVの調査について承知していると述べた。

 同氏は、「RVにより現在調査を行っていると知らされています。私の義務であり責任であるので、調査には全面的に協力するつもりです。私は完全に潔白です」と語った。

 人工授精と代理母馬の利用は、スタンダードブレッド産業では認められている。元ブックメーカーでありシドニーターフクラブの元会長であるブルース・マッキュー(Bruce McHugh)氏は、オーストラリアのサラブレッド生産界でもその慣習を認められるように4年間にわたり法廷闘争を続けたが、その試みは2014年に拒絶された。同氏はこの闘争のために数百万豪ドルを費やした。

By Tim Rowe of ANZ Bloodstock News

(1豪ドル=約85円)

 (関連記事)海外競馬情報 2010年No.7「競馬界、人工授精論争に身構える(オーストラリア)」、海外競馬ニュース 2013年No.4「豪州連邦裁判所、人工授精禁止の撤廃を求める訴えを棄却(オーストラリア)

[Racing Post 2021年2月16日「Australian authorities investigating surrogate scandal allegations at major stud」]