海外競馬ニュース 2021年02月18日 - No.6 - 4
米国反ドーピング機関のトップ、競馬界の薬物規制への意気込みを語る(アメリカ)[開催・運営]

 米国反ドーピング機関(USADA)のトップとして今世紀最大のドーピングスキャンダルのいくつかを暴いたトラヴィス・タイガート氏は、「USADAは米国競馬界のドーピングと薬物を規制する"重責"を引き受ける覚悟がある」と述べた。

 USADAは2000年の創設以来、ドーピングを働いたランス・アームストロング(自転車選手)、アルベルト・サラザール(陸上競技のコーチ)、バルコ社によるドーピング疑惑事件に関与したマリオン・ジョーンズ(陸上選手)などのスポーツ選手の出場禁止を支持してきた。

 USADAは今年の夏から、昨年末に可決された競馬公正安全法(Horseracing Integrity Safety Act: HISA)の一環として、競馬界における薬物検査・反ドーピング・薬物ルールについて所掌する。これにより、薬物規制のプロセスは初めて一元化される。

 USADAは人間のアスリートのドーピングに重点的に取り組んできた。しかしタイガート氏は、勝つためにルールを破るという根底にある原理に違いはないと考えており、競馬界に模範となる優れた基準(Gold Standard)を導入しようとしている。

 サラブレッド・デイリー・ニュースが毎週配信するポッドキャストで、タイガート氏はこう語った。「スポーツ全般において、不正行為・誠実性・倫理性・ルールは同じです。馬に対する反ドーピング・薬物規制プログラムと人間に起きていることの間には違いがあると言いたい人もいるかもしれません。それでも、不正行為をして、罰を免れようとし、ルールに対して優位な立場にあろうとする心的状態はまったく同じです」。

 「私たちは競馬界の薬物規制に取り掛かることを心待ちにしています。重責ですが、引き受ける覚悟ができています。これまで知らなかった競馬産業の基本的な仕組みについて学び、模範となるような優れたプログラムを導入します。人々はそのプログラムにとても満足し誇りを持つことができ、アスリートであれば誰もが求める、ルールに基いた均等な勝利の機会をもたらすものであると理解するでしょう」。

 米国競馬界が薬物規制において多くの敗北を経験しているまさにそのときに、HISAが可決され、USADAが競馬界の薬物規制の支配権を握ることになった。それらの敗北の中で注目すべきは、ホルヘ・ナバロ調教師とジェイソン・サーヴィス調教師、そして他の何人かの関係者が組織的なドーピングに関与した容疑で昨年逮捕され起訴されたことだ。

 また昨年11月には、数頭の管理馬から競走当日の使用が禁止されている薬物が検出されたことをうけて、ボブ・バファート調教師はさらなる違反を避けるために"あらゆる手を尽くす"と約束する公式声明を出すことを余儀なくされていた。

 タイガート氏は、教育プログラム、そして競馬界の人々にフェアに競いたいという意志を持ってもらうということに関しては、薬物検査や罰則の強化と同じぐらい、熱心に取り組むつもりであると語った。そして、社会は勝利のためにあまりにも容易に近道しようとすると感じていると述べ、こう続けた。

 「人々には不正行為をしてもらいたくありません、しかし、あまりにも容易に罰を免れることができ、捕えられても重大な結果がもたらされないのであれば、人々はそれを利用するでしょう。それこそ、私たちが阻止しなければならないことです」。

 「ランス・アームストロング、タイラー・ハミルトン(自転車選手)、マリオン・ジョーンズと話し、彼らにのし掛かる勝つためのプレッシャー、過度の競争に晒される環境、何が何でも勝つという心的状態について聞きました。私たちの社会にはそのような文化があります。それについて正直にならなければなりません。不正を働いても見つからなければ大丈夫という文化です。しかし、スポーツにおいてルールはとても明確で、"それはしてはならない"ということです」。

 「競馬ではアスリートである馬がノーとは言えないだけに、それはいっそう重大です。馬はどうしようもありません。調教師や馬主の思いに振り回されるだけであり、とても不公平です」。

 タイガート氏は、一夜にして変化は起こらないだろうが、プロの自転車競技から違法薬物を一掃するために遂げられた進歩は、他のスポーツにも希望を与えたと述べた。

 「選択の余地はありませんが、勝ちに行くがごとく戦わなければなりません。現在自転車競技では、選手たちが希望に満ち、勝つことができています。USポスタルチーム(ランス・アームストロングが所属したチーム)の一連のドーピング騒動の最中であれば、私は"ドーピング文化に染まっていなければ、1ステージも勝てないのではないか?"と思ったでしょう」。

 「ルールを破らずに勝てる公平な機会が得られるべきであり、それこそ私たちが日々目指していることです」。

By Peter Scargill

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